意思のない選択
壊世。
私が私でない時、
もう戻れないかもしれない。
その時は……
まだ夜の明けない薄明かりが照らす頃。
目が覚めると、誰かがいた。
まだ暗くてよく見えないが、うっすら見える顔には見覚えがある。
それに、その身にまとった雰囲気。
狂気に似た何かを纏っている。
「なあ、お前はどっちだ?」
何を言っているんだ?
何の話か全く分からない。
「何の話?」
「……」
次の瞬間、目の前をナイフがかすった。
本能で避けていた。
あと少し遅ければ...
避けた反動で後ろに倒れる。
視線の先に一瞬剣が写った。
それの剣を手に取ろうと転がる。
恐怖で立てない、口が震える。
誰か...そうだ、サクラ。
目は、振り上げられたナイフに引き寄せられた。
「サ...」
体を捻ったせいで、息を上手く吸えてなかったせいで、声を出せなかった。
ザッ
ガンッ
ナイフは地面に突き刺さる。
腕を掠った。
血が、地面に垂れる。
チッ
舌打ちをした相手は、口を開いた。
「なんで避けるかなぁ!」
そいつは、異常なぐらいに怒っていた。
辺りに響き渡るぐらい、叫んでいた。
日が窓から差し込む。
やっと顔が見えた。
闇に溶けるような黒い髪と影のような黒い目。
その持っている短剣の刃は黒かった。
彼は窓から差し込む光に気がついて、後ろを振り返った。
その隙を着いて、蹴り飛ばす。
少し怯んだ間に、剣を掴み鞘から抜く。
だが再びその狂気に充ちた目を見ると、動けなくなった。
ゆっくり近づいてくる。
この恐怖が少しでも長引くように。
そして、目の前まで来て彼はこう言った。
「動けないだろ?」
そう、全く動けない。
足や腕、頭からつま先まで、1寸たりとも言うことを聞かない。
まるで、私の体が、私を拒んでるかのように。
その怒りと狂気に満ちた目から目線を外せない。
ゆっくり、1歩ずつ、その足音は私の恐怖を掻き立てる。
「どういたぶってやろうかな...」
「指を全て折ってやろう。」
「それから、腕、足、肋、頭蓋と砕いてから殺す」
「息をしなくなってもになっても許してあげない。」
「可哀想に。」
その目は本当に哀れんでいるよだった。
「僕を恨まないでくよ、この結末は僕が優しく殺そうとしたのを拒んだ結果なんだから。」
振り上げたナイフが風を切る。
それよりも、強く音が後ろで響いた。
それは、軽く木の軋む音。
それは、木が割れた音。
彼の目が見開くより早くそのナイフは、1本の大剣に弾かれた。
風圧で、思わず目を瞑った。
それと同時に、暖かい感触があった。
それはあの時のような、優しい温かさ。
目を開けば、そこにはサクラがいた。
「すまない」
いつもの優しい声で言った。
そして、立ち上がり大剣を構えた。
「さぁ、来い」
場の空気が重くなる。
その声は、低く静かに唸るようだった。
それと対象に彼は
「邪魔をするな!」
と刺すような高い声で狂気を纏った声で言った。
アルヒポリは大陸の北部に位置し、広大な土地を持つ。
東北部は寒く凍える土地が広がるが、そこであっても都市が栄えている。
南部では、商業の中心地で常に人が絶えない。
東部は海に面しており港があるが、誰一人として近づかない。
南西部では農村が拡がっており、広大な緑を見ることが出来る。
中央部では、国城、国軍駐屯地、国立軍学校、など国の中枢が集う。