知らない世界
……い、……しゃい……
われ、……いの、……に
気がつけば、よく分からない祭壇の上にいた。
あたりは炎に包まれている。
その中には皮膚がドロドロに熔けた人が何十人と横たわっている。
「あれ、私って誰だっけ?」
ダメだ、何も思い出せない。
炎の中から出られないので、しばらく燃え尽きていく人々を眺めていた。
そして、その人々の肉や皮が見れなくなってきた時。
「ポツ、ポツ」
と音が聞こえてきた。
あぁ、雨か。
火は少しずつ弱まっていく。
辺りは黒く染っている。
まだ赤が所々斑に点滅している。
底に素足を乗せてみる。
「パキッ」
と砕けた。
心地いい。と何度も踏みつけた。
気がつけば、あたりは暗くなってきていた。
特に、私は気にせずその場から離れてみると、 外は荒れていた。
建物はほとんど倒れており、人の気配も全くしない。
遠くには白い石造りの建物の残骸。
後ろを振り返れば、壁が壊されている。
あぁ、なるほど。
ここは国だったんだな。
火は既に消えかかっている。
城壁の残骸に登ってみても、何も無い。
それに、暗い。
既に廃れた国を眺める。
空と街の火は完全に消えている。
寒い。暗い。
何も出来ずにその場に蹲っていた。
壁の残骸の下、雨風が打ち付ける中。
眠りに着くことはできなかった。
夜は寒く凍えていて、ただうずくまり助けを乞うことしかできなかった。
日が登る頃、私の体はとうに冷えきっていた。
目を開けると、遠くに何かが見えた。
馬?人?
それに近づこうと、体を動かそうとする。
体は重く持ち上がらない。
這って近づくに出る。
日差しは熱く私を焼き付ける。
寒くて、暑い。
喉も乾いた。
何だっていいから、私を助けて欲しい。
目の前がぼんやりしている。
私、きっと死ぬんだ。
ゆっくりと世界が灰に染っていく。
最期、人影が目に映った。
暗い。
でもなぜだか温かい。
外の世界が眩しい。
私は死んだのか?
ゆっくりとまぶたを開けてみる。
テント?の中だった。
ここは、どこ?
それに、服を着ている。
体を起こすと、さっき見たガタイのいい人がテントに入ってきた。
「あっ、おはよう。動けるかい?」
「…うん」
体は何の異常もないように見える。
いい香りが漂ってる……
「ほら、こっちに来な?飯が待ってる。」
その人について行くと、焚き火を囲んで2人が切り倒した丸太に腰掛けていた。
1人は小柄で気弱そうな男性。
もう1人は不機嫌な女性だ。
「それで?そいつどうすんだ?」
と不機嫌そうな女性がそう言った。
「連れていく。多分こいつも傀儡だ。」
「召喚者?」
傀儡って何?
それより、あなたたちは誰なの?
「信じられんのか?」
「…分からない。」
「ちょっと、こっち来い。」
腕を無理やり引っ張られる。
「痛っ」
「殺すなよ?」
「殺さないさ」
腕を掴まれたまま、テントに連れ込まれた。
「なんで…」
「いいから」
服の袖を二の腕まで捲りあげると、赤い何かで紋様が描かれていた。
「なにこれ……」
「命令に背くと苦痛が伴う紋様」
「なんで…」
「戦争の為だよ。あの国は負けたんだ。」
だから、あの国は崩壊したんだ…
「安心しな、それに効力はもう無い。時間が消してくれるさ。」
「何のために…」
「戻るぞ。」
彼女は答えずに行ってしまった。
服を着直して、焚き火まで戻る。
するとガタイのいい人が焼いた魚を手渡してくれた。
「ありがとう……」
多分、少なくとも悪い人ではないと思う。
まだ熱いうちに、その魚にかぶりついた。
みんなが寝静まり、焚火が消えかけたころ、ふと目が覚めた。
目をこすって、起き上がる。
テントには月明かりに照らされて大きな影がある。
「まだ巫術の残骸が残っていたのか」
と聞こえてからすぐに
ドンッ
と音がして
バシャッ
と水を零したような音がした。
テントを出ようと外に顔を覗かせると、さっきの大男が首のない巨大な犬?の前に血だらけの剣を構えてたっていた。
その傍らに、犬の顔が落ちている。
「うっ……」
錆びた鉄の匂いがする。
思わず口に手を当て、1歩退いた。
すると、彼はこっちに気がついたようだ。
こっちを1度見て彼はこう言った。
「すまない、起こしちまったか?」
そう言って血だらけのままこっちへ歩いてきた。
「待って、こっちに来ないで。」
そう言ってしまった。
彼は困った顔をして、その場に立ち止まった。
「ごめん、近くの川で落としてくる」
それから月が数度程傾く時間があって、彼は戻ってきた。
「そういえば、記憶が無いんだったな。」
「うん?」
「今後思い出すかもしれないが、今名前を付けてあげよう。その方が便利だしな。」
彼は、辺りを見回している。
近くには果実のなっている木が生えている。
「そうだな、ライムとかどうだ?」
「何だか、適当な気がする……」
「今はそれでいいじゃないか。」
その時、ふと思った。
「そういえば、あなた名前は?」
「俺か?俺の名はな……」
何だか言いにくそうにしている。
そして、なにか言い難い理由があると気がついて、
「あっ、言いたくなかったら言わなくても……」
と言ってみた。
彼は、少し考える暇を置いてから言った。
「いや、いいさ……俺の名はな、」
『サクラ』
「似合わないだろ?」
彼は、ついに私の顔から目を逸らしてしまった。
何だか、後悔しているようにも見える。
だから、私はこう言った。
「いい名前じゃない。」
SIGNAL LOST
……