第8話 強引
「それでは、僭越ながら私から」
ケペク氏が話を始めたが、後ろには後頭部から煙を上げながらうなだれている青いマッチョが見える。
…一体どれ程の力を込めて殴ればああなるんだろうか?
「『言い伝え』と言いましても、八百年程前にできたものでして…」
八百年……長いんだか短いんだか微妙なんだが…。
「『世界が闇に落ちる時、異界より勇者現れ魔王をたおすであろう』というものです」
…なんとまぁありがちな言い伝えだろうか…。
…いや、実際に言い伝えなんてものを聞くのは初めてだな。でもゲームなんかでよく聞くような言い伝えだ。と思う。
「話の流れ的に、その『勇者』とやらは俺なのか?」
「ええ、おそらく。そして『魔王』なる者を倒せば、もとの世界に帰れるでしょう。ただ…」
「ただ?」
「この世界は闇に落ちてもいなければ、魔王がいるわけでもないのですよ」
セネカ…だったか?こいつは。
またしても輝かしいスマイルで言い切りやがって、お前は他に表情を作れないのか?
……いや待て、突っ込むべきはそこじゃない…
「…魔王がいないなんて言い伝えと違うじゃねぇか」
「まったくですね」
ゴゴゴゴゴ…
人が話しているのに、突然地震が起きやがった。もっとタイミングを考えて欲しいものだな。あわや舌を噛む所だったぞ。…この場合どこに怒りをぶつけりゃいいんだ?
だがその直後。耳へと飛び込んできた言葉が、俺の怒りをどこぞにぶん投げてしまった。
「我は魔王ムスペルヘイム、たった今からこの世界を戴くことにした」
……ぶん投げた訳ではないな、訂正しよう。怒りを疑問符に変えやがった。
「………」
数秒の沈黙。おそらくここにいる全員の頭の上には?マークが浮かんでいることだろう。
…この「全員」の中に、復活し、セネカ以上の眩しいスマイルを輝かせている青いマッチョは含まんぞ。
暑苦しい、無視してやる。
…とりあえず俺は、この沈黙を破ることにした。話が進まんからな。
「…なぁ?」
「…なんでしょうか?」
「魔王はいないんじゃなかったか?」
「………」
ひきつってはいるものの、やっぱりスマイルは崩れ無いな…
「…しかし本人がそう言っている訳ですから、きっと魔王なんじゃないですか?」
「そんな投げ槍な…」
「あ!外を見てください」
話そらすなよ!
だが外を見てみると、さっきまでの景色とは一変して、辺りは暗くなっていた…
「…これはまさしく魔王の力」
長老様…?言い伝えを丸投げしといて、なにもっともらしい事を言ってらっしゃるんですか?
「…じゃあやはりあなたは勇者様でしたか」
いやっ!話が飛躍してるっ!
長老様…俺はただの平凡な一高校生ですよ。
「…実は一目見た時から普通の人間とは違うと思っておりました」
乗らんぞ!絶対に乗るものか!俺はそんな見え見えのお世辞に乗るようなバカでは無いからな…
「しかし、魔王を倒さないと元の世界には帰れませんよ」
なっ!セネカてめえぇぇぇ!それが妖精のすることか!その満面の笑みをやめやがれ!
…卑怯だよ…こいつら卑怯だよ…。
「勇者様なら大丈夫ですよ」
爽やかに語りだす赤いマッチョ。
「世界を救って来てくれっ!」
暑苦しく叫びだす青いマッチョ。
つーか、あんた方が行った方が絶対いいから!強いだろ!見た目的に!
さらにその珍妙な出で立ちを見れば、たとえ魔王とか名乗ってるような輩であろうと、たちまち逃げだすこと請け合いだから!
「…では勇者様に神々の御加護が在らんことを…」
「いや…だから俺は…」
「お待ちください長老様!」
おぉ!その声はケペク氏!
あなたは分かってくれたんですね。流石です。これからは敬意を込めて『お気遣いの紳士』と呼ばせていただきます。…勝手に。
さぁ、長老様に言ってやってください。
「丸腰での旅などあまりに危険。私が何か武器になりそうな物を調達して参ります。」
……え?ちょ…?お気遣いの紳士さん?
「おぉっ!コレなどどうでしょうか?握りやすい持ち手、堅く丈夫な合金製で、少ない筋力でも振りやすい重さ。初期装備にはちょうど良いかと」
…よし。前言撤回。あの人はお気遣いの紳士でもなんでもねぇ。
「さぁ、どうぞ勇者様」
ケペク氏がそう言って俺に渡してきた物は……
「…フライパン…ですよね?」
……武器ですらなかった。
おかしい。少なくとも俺が元いた世界では、フライパンは料理に使われる物だった筈だ。
「フライパンです」
真摯な表情で返すケペク氏。一点の曇りも無くて逆に恐ろしい。
「コレって…調理器具…ですよね?」
「えぇその通り。流石は勇者様」
それは褒め言葉ですか?
まったく褒められている気がしない。
何故武器じゃない物を薦めてくるんですか?
全宇宙の料理人に謝っていただきたい。土下座で。
「これでどうやって魔王倒すんだっ!」
叫んでやった。全力で。
「今、『魔王を倒す』と言いましたね?」
なっ!まさか…誘導尋問だったのか…?
「…その言葉を待っておりました」
なっ!長老ーーー!目が光った!今目が光ったって!長ろ……
「「「勇者様万歳。勇者様万歳」」」
赤マッチョ、青マッチョ、目から不気味な光を放つ老人。…なんとも濃いメンツの万歳三唱が始まってしまった。
はぁ…もうやだこの世界…
…つづく
秋田犬ですm(__)m
魔王の名前は、北欧神話に出てくる巨人の名前から取りました。響きだけで。
更新が遅れて申し訳ないですm(__)m
作者は旅をしていました。
…ゲームの中で。
この小説は、作者が生きてきた十数年で読んできたマンガやら、してきたゲームやらを参考に書いてます。
資料収集と言う名目でゲームにはまってしまい、また更新が遅れるかもしれません……。
テスト前なんかも更新遅れると思います…。
それでも読んで頂けたら光栄ですm(__)m
…またしても本編とは関係の無い話をしてしまいました。
次回は冒険に出ます。主人公が。
作者は当分旅に出ません。絶対。…なるべく。
それではまた次回m(__)m