第9話 子羊
結局、ことの成り行き上魔王を退治に(半ば強制的に…)行くことになってしまった。…くそ、妖精め。ファンタジーの世界の住人であるにも関わらず、あんな汚い手を使いやがって。腹黒いにもほどかある。
「では、私もついて行きましょう。流石に勇者様と言えど、一人では危険でしょうから」
…と、言ったのはセネカ。
確かに、平凡な一般市民である俺がフライパン片手に旅に出たところで、結果は目に見えていることだろう。……間違いなく死ぬ。
「あぁ。よろしく頼む」
とりあえず、軽く挨拶はしておく。…気まずい旅などしたくないからな。この世界についていろいろと聞きたいこともある訳だし。
「…勇者様どうかご無事で」
「御武運を祈っております」
「くそっ!動けんわっ!」
三者三様、様々な言葉で送り出してくれた。ちなみに、長老、赤、青の順だ。
……しかし、あの青い方のマッチョは一体何しに来たのだろうか?たしかあの人のしていたことと言えば……
1、詰まった。
2、叱られた。
3、殴られた。
「おのれっ!いまいましい机めっ!」
4、逆ギレ。
…本当に何しに来たんだろう?
俺達は小屋を出て、とりあえずここから一番近い町へ向かった。幸い、モンスターは出てこないようだ。
…しかし、この先フライパンでどう太刀打ちすれば良いのだろうか?何か武器的な物が欲しいところだ。
林の中の小道を抜けると、小さな町についた。
「とりあえず、武器屋に行ってもいいか?」
「構いませんが……お金ありませんよ」
「は?」
硬直。
「…ですから、お金が無いので何も買えません」
「じゃあ、俺はどうやって戦うんだよ!」
「……。それで頑張ってください」
フライパンを指差すセネカ。哀れみの表情……と言うか苦笑い。
「…まぁ、モンスターを倒せばお金が手に入りますから、武器についてはその後考えましょう」
果たして、フライパンで倒せるモンスターなんているのだろうか…?
もしいるのならば、大歓迎である。是非とも団体様で来ていただきたいものだ。
「幸い、この辺りのモンスターはレベルが低いですから、フライパン程度でも倒せますよ」
「つーか、フライパンを武器に使うこと自体オカシイだろ」
…とは言ったものの他にできる事もないわけで、とりあえず次の町を目指しながらモンスターを討伐することになった。
料理人の方、ならびにフライパンメーカーの皆様…大変申し訳ない。
そんな件を経て、草原に到着。風が清々しい上に、景色もきれいだな。是非ともピクニック的な気分で来たかったものだ。
ここから真っ直ぐ北を目指せば、少し大きめの町に着くらしい。
「大体どのくらいで着くんだ?」
「そうですね…。半日もあればなんとか」
ガサガサッ
「なんだ!?」
『モンスターが現れた』
咄嗟にフライパンを身構える俺。一体、どんなモンスターが出てくるのだろうか?
確か初めて見たモンスターは……ミミズだったな…。あんなのが出てきたらマズイ。フライパンなんかじゃ勝ち目が無さ過ぎる…。
などと、どんどんネガティブな方向に考えを進めていったのだが…
「メェェェ〜」
…自分がアホみたいに思えてきた。
「なぁ?こいつモンスターか?」
「えぇ。見た目に騙されてはいけませんよ」
草むらから出てきたのは、体長約30センチ位のとても愛らしい、モコモコした羊っぽい生き物だった。
「モコモコです」
「あぁ。モコモコだな。」
「…いえ、モンスターの名前が『モコモコ』なんです」
「……そのまんまだな…」
「……きっと分かり易さを追求したんですよ。えぇ、きっとそうです」
セネカが何やらブツブツ呟いている。
お前は言い訳でもしてんのか?それは誰に対してだ?
さて、そんなことはさておいて……
「なぁ?」
「…えぇ、きっと……あっ!はい何ですか?」
「あのモコモコ、本当にモンスターか?あんな可愛らしい生き物をフライパンで殴るなんて、良心が痛むんだが…」
「…そうですか」
「…なあ、返事になってないぞ」
「…あ、こっちに来ましたよ」
「メェェェ〜」
振り向くと、モコモコがその短い4本の足をぴょっこらぴょっこら動かしてこっちにやってきた。
なんて愛らしい…。一度抱きしめてやりたい。モッコモコでフッカフカだろうなぁ…。
「あの……ラリってる場合じゃ無いですよ…。モンスター来てますから…」
「決めたよ。俺はアイツにハグしてくる」
「………えっ?いや、」
「メェェェ〜」
こんな可愛らしい生き物がモンスターである訳がないじゃないか。一度だけハグをして、野山に返してやろう。さぁおいで!モコモコ!
「そいつは肉食ですよ」
「は?」
モコモコとの距離は、俺の目測で3メートル弱。
突然、モコモコ大ジャンプ。
「メ………ゲリュァァァ」
『モンスターの攻撃』
「…なっ」
説明しよう。俺の目の前で突然の大ジャンプをかましたモコモコが、これまた突然耳まで裂けた巨大な口を開いて襲いかかってきた。
さっきまでの愛らしさからは想像も出来ないほどのギャップが………って
「トラウマになんだろがぁぁ!!」
咄嗟にフライパンをフルスイング。
カーン
乾いた音が響いた。数メートル先には、宙を舞う羊。
『モンスターを倒した。経験値とお金を手に入れた』
さっきから何か聞こえるのは気にしない。
「…良心が痛むんじゃなかったんですか?」
「…いや、少々身の危険を感じてだな…」
「吹っ飛んだ時スゴい涙目でしたよ…モコモコ」
「それ以上俺を追い詰めないでくれ…。ちょっとしたトラウマが生まれそうなんだ…」
「…失礼しました。まぁ…モコモコはHPが3しかありませんから…」
数秒の沈黙。
「…かよわいんだな…モコモコ」
「…3…ですからね…モコモコ」
『倒したモンスターが何か落としていったようだ』
…さっきからうるさいぞ。空気読めこの野郎…
「どうやら、アイテムのようですね」
拾い上げるセネカ。
「…な…これは…なぜこんな物が…」
「…なぁ?なんだったんだ?」
「…魚肉ソーセージでした」
……まぁ、色々な疑問が浮かんできたが…1つ、理解した。
「羊なんて二度と見たくない…」
…つづく
秋田犬ですm(__)m
そんなこんなで、やっとこさ冒険に出てくれました。
作者の脳内では、セネカの他にもう1人仲間を入れる予定です。さて、いつになったら出てくることやら…
こんなペースで、いつ魔王を倒せるのでしょうか…
それではまた次回m(__)m




