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34話 星降るは新たな脅威

 冥道に集められたのは、泉水、綾瀬、遠野、真央、雷花、甲斐、黒須。

 この七名である。ちょうどアビスの封印を巡る事件に関わったメンバーだ。


「お集まりいただきありがとうございます。今回はとある事件に協力してほしく、皆さんをお呼びしたしだいです」


 退魔局の若葉が恭しく頭を下げた。

 事件の協力と言っても思い浮かぶのは魔物退治に関することだ。

 だがこの場には正規の退魔師でない者もいる。泉水や雷花、甲斐がそうだ。


「流星群が関係あるって言ってたけどさぁ、宇宙に魔物でもいるの?」


 雷花は椅子を後ろにぐらぐらと傾けながら質問した。

 「まさかそんなわけないよな」と言いながら。


「端的に申し上げますと、そうなります」


 雷花はバランスを崩してズッコケそうになる。

 慌ててちゃんと座り直して激しくリアクションした。


「なんで当たってんだよ! つーかどうして宇宙に魔物がいんの、それってもう宇宙人じゃん!?」

「宇宙人ではありません。あくまで魔物です。退魔局が保有する宇宙望遠鏡で観測しました」


 若葉の淡々とした説明に雷花は食ってかかった。

 魔物というのは、殺戮衝動を満たすために物質世界(にんげんのせかい)にやって来る。

 未知の領域(フロンティア)である宇宙。そこに出現するメリットなど魔物にはない。


「泉水くん、なんかSFみたいだね。私そういうの好きだなー」


 綾瀬は泉水の袖を引っ張りながら間延びした、呑気な様子で言った。

 宇宙望遠鏡で観測するというのも魔物と無関係に思えてしまう。


「遡れば遠い過去……封印の技術が確立されるより昔、宇宙にある魔物を追放したのがはじまりです」

「退魔局はずっとそいつを監視してきた。そしてその魔物が長い時をかけて、戻ってくるというわけさ」


 若葉と冥道の説明を聞く限り、倒さずに宇宙へ追放しなければならないほど厄介な魔物ということなのだろう。

 闇そのものを操り、周囲を際限なく飲み込むアビスのように。


「んで……若葉ちゃんに質問なんだけど、そいつはどんな魔物なんだ?」

「そうですね……残された文献によれば爆発するそうです」

「爆発って……どんな規模の……?」


 遠野は何気なく質問したつもりだったが、そんな回答は想像していなかった。

 眼鏡をくいっとさせると、若葉は極めて冷静に答える。


「最低でも大鳳市が更地になる程度の。危険性はご理解いただけたでしょうか」

「……冗談じゃないですね。もしかしてこの街に落ちるってことなんですか」

「その通りです遠野さん。落下地点は大鳳市。おそらく落日山の辺りかと」


 アビスを巡る事件に続き、新たな脅威が到来したのを意味していた。

 その魔物は戦闘能力もさることながら魔力を溜め込み爆発する能力を持つ。

 広範囲を焦土に変える恐るべき力を秘めている。


「その魔物はペルセウス座流星群の活動時期に合わせて、流れ星に擬態し地球にやってきます。退魔局では星の魔物という意味を込めて『アストライア』と命名しました」


 この流星事件とでも呼ぶべき問題の危険性は理解できた。

 だがなぜこの七人が集められたのかまでは分からない。


「面と向かって戦うのも危ない魔物だよ。そこで退魔局は倒すのではなく穏便な方法を選んだのさ」

「なるほど、分かりました。師匠のペルセフォネを使うんですね」

「さすがはさつき、私の優秀な弟子だよ。そう、落下直後に空間転移で宇宙に送り返すんだ」


 言葉で言うのは簡単だがそれを実行するのは難しい。

 地上から宇宙までどれほどの距離があるのだろうか。泉水は雑学を思い出す。

 一般的に海抜高度百キロメートル先にはカーマン・ラインという仮想のラインが定められている。このラインを超えた先が宇宙空間であり、それ以下は大気圏内だと定義される。


 百キロならそう遠くない気がするが、地球には重力がある。アストライアが地球の重力に引っ張られないよう、重力圏の外まで転移させる必要があるだろう。地球の重力圏は約二十六万キロメートル。ちなみに地球一周で約四万キロメートルだ。かなり遠い。


 冥道は以前に数回、大鳳市内を空間転移しただけで疲労で倒れた。

 もしアストライアを宇宙に転移させるほどの魔力を消費したら、その反動は計り知れないだろう。


「そこで君たちに手伝ってほしいんだ。私はもういい歳だからね。空間転移に必要な魔力を私の代わりに練って負担を減らしてもらいたい」

「あの……それにはどれぐらいの魔力が必要なんですか?」


 泉水が疑問を口にすると、若葉がそれに答える。


「具体的には決まっていませんが、空間転移は遠いほどいいですね」

「他の退魔師も忙しいからねぇ。全員を呼ぶわけにはいかないんだよ。だから君たちなんだ」


 魔力を練れるが退魔師ではない者がこの場には多くいる。

 この流星事件にはうってつけの人材が揃っているというわけだ。


「最低でも冥道さんと同じ分の魔力は集めたいと思います。この魔力計で測りましょう」


 若葉が取り出したのはストップウォッチのような道具だった。

 魔力計。魔力を流すことでその者の魔力量を計測する魔導具である。

 冥道はそれを受け取って魔力を流すと、ピッと音が鳴って数字が刻まれた。


「基準値は百です。これは正規の退魔師に必要な最低限の量であり、認定試験でも計測します」

「そういえば、そんなのありましたねー。なんだか懐かしいなぁ……」


 綾瀬はかつて受けた試験を思い出す。魔力量が百以下だと試験で落とされる。

 計測を終えた冥道が魔力計を返すと若葉はその数値に絶句した。


「九千九百……!? 魔力計で計測できる上限値は一万なのですが……」

「私も衰えたよ。たくさん魔力があっても消費すると疲れるから、結局人並みの量しか使えないのだけれどね」

「……この人数で補えるのでしょうか。では泉水さんからどうぞ」


 馬鹿げた数値を叩き出された後に計測するのはプレッシャーなのだが。

 ともかくおそるおそる魔力を込めると、百五と表示された。

 基準値を超えていたのは嬉しいが、冥道に比べると雀の涙だ。


 他の面々も数値は似たり寄ったりで雷花と綾瀬だけが二百台を叩き出した。

 そして最後に黒須の番になるとビーッと変な音が鳴る。


「その音は……計測不能の音ですね。上限値を超えると鳴ります……!」

「……いや。そうですね……昔に試験を受けたときもそうでしたので」


 黒須は若葉に魔力計を返してそう言い放った。


「黒須さん……この事件を解決に導く鍵はあなたです……!」

「今は魔物と契約していないので戦えませんが、魔力を練るだけでいいなら」


 若葉はぎゅっと黒須の手を握りしめキラキラとした目でそう告げた。

 その圧倒的な魔力量に泉水は黒須だけで十分なのではと思ったが、結局何も言わなかった。

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