デルタ航空の国内線
ニューヨークへ向かうフィットの車内で、二人は先生からの連絡を待っていた。
アメリカ本土上空をマッハ4で通過しながら、二人は能力の限界に挑んでいた。
テロの起こるだろう時間までは、まだ40分残っていた。
試せる事は何でも試そうと、みのりが言い出しての事だった。
攻撃するなら人工密集地であるマンハッタンだろうと予想して、一定エリア内の『悪意』だけを読み取れるかを試していた。
その為に高度を下げて飛んでいたので、フィットのすぐ後ろにはジェットコーンが出来ていた。
1秒に15キロもの移動スヒードの車内で、二人は半径100キロ程のエリア内を探索した。
重なり合い入って来る莫大な意識の中で、それが兄弟喧嘩からの悪意だったり強盗の悪意であったりと、やがて意識の流れの中から『悪意』だけを読み取れるようになっていた。
「今聞こえた? あの白バイの警官、奥さんと不倫している隣のご主人を殺そうと考えて無かった?」
それが100キロ以上後方に過ぎ去った、コロラドのルート159を走る白バイ警官の悪意の事だと、瑠奈にも理解出来た。
「これならニューヨーク上空を一回りすれば、テロリストなんてすぐに発見できるんじゃない?」
みのりはそう瑠奈に聞いてみた。
「でも、もし自爆テロとかだったら『殉教』の様な感覚でスイッチ押すんじゃないかしら、、多分だけど。」
瑠奈はそう呟いた。
「そっか、そうだよね。それと『アメリカに天罰を下す!』みたいな感覚なのかもね。前にテレビで見たスティーブン・セガールの映画のテロリストみたいに。」
みのりはまるで凄い発見をしたかの様にそう言った。
瑠奈はそう簡単にテロリストが見つかるなどとは考えて居なかった。
『アメリカに天罰を!』と考えながら『殉教」の覚悟をしている人を、800万を超えるマンハッタン周辺の人の中から探すなど最初から出来ない相談だった。
「あ、いたかも。」
突然みのりがそう言った。
聞いた瞬間に、瑠奈にもその光景が見えていた。
「1000キロ位前方ね。 速度差がマッハ3位だから15分で追いつくわ。」
前方を飛ぶデルタ航空のボーイングに、その『悪意』は乗っていた。
カンザス州上空でフィットは追いついた。
機内は5人の『殉教』の覚悟をしたテロリストの支配下に置かれていた。
パイロットは縛られて、テロリストが操縦していた。
コ・パイロット席に乗るテロリストはリーダーの様だった。
5人はナイフで武装して、すでに二人の乗客が刺されて手当を受けていた。
「どうする?みのりちゃん。」
ボーイング機の真下にフィットを近づけて、2人はどうするか相談した。
みのりの魔法で飛ぶフィットだったから、彼女が機内に透過したら飛ぶ事を止め、空中に浮かんだままになるだろう。
「瑠奈さん、一緒に中に行かない?」
フィットを乗り捨てようと決めたみのりは、瑠奈にそう言った。
「ちょっと待ってて。」
そう言うと瑠奈はスカートのポケットから取り出した『金魂』を、壁をすり抜けるイメージをしながら潰していた。
「取り合えず中に入って、あいつらを倒そうよ。」
みのりは楽しそうにそう言った。
『透過する力』を初めて使う瑠奈だったから、まずはフィットをすり抜けて車外に出てみた。
瑠奈はジェット機の中を透視した。
後部ギャレーに人気の無いのを確認し、瑠奈は中へ透過した。
300人を超す乗客が、たった5本のナイフに怯えて制圧されているのが不思議だったので、テロリスト達の頭の中を読んでみた。
やはり怪しんだ通り、『プラスチック爆弾』を持っている振りをして、乗客達を脅していた。
一応乗客達の頭の中も確認してみたら、二人『殉教』の意識で客席に座る、若いカップルが見つかった。
透視して見ると、女の子の持つポーチの中にプラスチック爆弾が見つかった。
小さな口紅の中に詰められたプラスチック爆薬は、機体を壊す目的では無く、乗客が反乱した時の殺害用の為らしかった。
「行こうか。」
いつの間にか機内に侵入したみのりが、後ろから声を掛けてきた。
瑠奈はカップルの頸動脈の血流を止め、意識を失わせた。
通路を歩きながら、前へと進んだ。
二人に気付いた中東の男は、ナイフを突き出しながら「席に戻れ!」 と言った。
頸動脈の血流を止め、彼を失神させた。
「ポキッポキッ」
何かの折れる音がした。
見るとみのりが、犯人を見下ろしながら腕の骨を折ったらしかった。
瑠奈は失神させた女の子の膝の上からポーチを掴むと、窓際に座る男性の前に身を乗り出して、「ちょっと前を失礼します。」と言いながらポーチを掴む腕を機外に透過して、爆弾を外に棄てた。
「Oh my...」 と言い掛けた窓際に座る二人に、万国共通のジェスチャーで声を立てるなと伝えた。
「瑠奈さん、あと3人ね。」
みのりは瑠奈にそう確認した。
「私が操縦席の二人を倒すわ。」
瑠奈はそう言って操縦席へと向かった。
「止まれ!座っていろ。」
操縦席の外に立っていた男が、ナイフを構えてそう言った。
瑠奈が頸動脈の血流を操作して意識を失わせて倒すのと同時に、また「ポキッポキッ」と、みのりが犯人の腕の骨を折っていた。
コックピットのロックを念じて開けた。
手を使わずに思念でドアを開けると、気付いたコ・パイロット席のリーダーが、無言でナイフを構えて向かってきた。
「ポキッポキッ」
乾いた音がした。
ナイフが床に落ちて、男は肘から垂れ下がった自分の両腕を、不思議そうに眺めていた。
みのりが問答無用で両腕を折っていた。
激痛で悲鳴を上げられる前に頸動脈の血流を止めた。
リーダーらしい男の床に倒れた音を聞き、操縦席の男は振り向いて、不思議そうな顔で瑠奈を見詰めた。
瑠奈は念動力で強引に、彼を操縦席から引っ張り出した。
足首を見えない何かに引き摺られ、客席の通路までズルズルと出てきた彼は、アラビア語らしき言葉で何事かを叫んだ。
無言でみのりは両腕を折った。
また瑠奈は機械的に意識を失わせた。
「みのりちゃん、ニューヨークに向かって。マッハ4で。」
すでに念動力で支配下に置いていたジャンボジェット機を、みのりは加速させた。
「先生、ニューヨークへのテロはマイアミからのデルタ航空の国内線でしょ?」
衛生電話が繋がって、瑠奈はそう切り出した。
「いや、今分かったところなんですが、オスロから向かっているスカンジナビア航空のボーイング777が本命です。手荷物に神経ガスが大量に積まれて、マンハッタンを目指してます。」
それを聞き、瑠奈は溜め息をついた。
「もうオーティス空軍基地からF16が発進しています。気を付けて」
先生はそう言った。
「みのりちゃん、スカンジナビア航空の飛行機もハイジャックされてるみたいよ。」
操縦席に座り、ヘッドフォンを着けてスマホで自撮りしていた彼女は、振り向きながら「はぁ?」と言った。
みのりの頭のヘッドフォンを掴み隙間を開けると、瑠奈は耳元でもう一度言った。
「もう一機ハイジャックされてるから、行くわよ。」
みのりはガッカリした顔をして、「はぁい。」と言った。
時間は後25分。
先生に聞いたタイムリミットまでは後15分。
マサチューセッツのオーティス空軍基地から発進したF16が、すでにミサイルを積んで哨戒に当たっていると言う。
後15分でテロリストを制圧しないと、スカンジナビア航空のジャンボジェット機は撃墜される。
瑠奈はこのジャンボ機を何処に置こうかと、朝からの救出で疲れた目を揉みながら周囲を遠視していた。




