USバンクタワービル
「また来るね、おじいちゃん。」
そう言うみのりの姿を目を細めて、愛しそうに見送る姿は孫を溺愛する祖父、そのものだった。
とても1兆もの資産を持つ、昭和の妖怪と呼ばれ暗躍した人間には見えなかった。
「優人、みのりを残し死ぬ様な事は儂が許さんからな。 良いな?」
じいさんは僕の手を握りながらそう言った。
「じいさんこそ、長生きして貰わないとね。 みのりが泣くよ。」
すっかり元気になった祖父に僕はそう言うと、病室を後にした。
「おじいちゃんね、私に残りの財産を全て譲ろうと考えてて、私焦っちゃったよ。」
ダニエルの手を引きながら先を行くみのりが、笑いながらそう言った。
(minoriは物凄い大金持ちになったんだね。 今あのおじいさんが秘書のおじさんに手続きを頼んでるよ。)
ダニエルの声が僕達の頭に聞こえて来た。
「まあどこの老人も孫娘には甘いと聞くし、じいさんも人の子だったと言う事だな。」
僕は呆れながらそう呟いた。
病院の玄関に、もうマスコミの取材陣が集まって居た。
井沼章象の見舞いに来た事を知られたのか、と思った。
「おにいちゃん、空に浮かんでる二台のフィットを見て来たみたいよ。」
みのりは取材の記者たちの心を読んだらしく、そう僕に言った。
「今日は色々やる事多いし、玄関出たらすぐ飛ぼう。」 僕はみのりにそう言いながらダニエルを抱き上げた。
僕達は玄関を出てすぐに空に舞い上がった。
ストロボの光が幾つも瞬いていた。
温泉郷の家で生活を始められる様に、早く安曇野市へと帰るつもりだった。
瑠奈からの着信に僕が気付くまでは。
ロスアンゼルスのUSバンクタワービルで爆弾テロが起こったと聞かされても、僕にはそのタワービルなど初めて聞く名前だった。
「下層階は火に包まれてて、消防のはしご車も届かないの。 それで今市長に呼ばれて先生とシティーホールに来てるのよ。」
瑠奈の切羽詰まった声を聞いても手の出しようが無く、僕は言葉を失った。
「こっちに来れない?」
彼女は小声でそう言った。
「先生は何と言ってるの?」 僕は瑠奈にそう聞いた。
「今代わるわ。」 そう言うと、細貝先生のいつもとは違う焦った声がした。
「白鳥さん、ミスりました。 アメリカ政府の動きは掴んでいたんですが、中東の組織の動きは探って無くて。」
先生は珍しくミスを認め、僕にそう言った。
「これから向かった方が良いですか?」
8000キロも離れたロスアンゼルスへ向かうには、1時間40分も掛かるのは分かっていた。
「ご無理を言って申し訳ない。7400人がまだ上層階に取り残されて居まして、出来ましたら来て頂きたい。」
彼は僕にそう言った。
「憎んでも良いのはアメリカ政府の一部の者ですよ。 市民に罪は無い。」
彼はそうも言った。
両親を殺された恨みを忘れた事は無かった。 それを見越して言ったのだろうその言葉を、先生に吐かせた自分が恥ずかしかった。
「これから向かいます。」
僕はそう答えた。
「豊科商店街の板井電気店はご存知ですか?」
先生は急にそう言った。
「はい。あのアニメのフィギュアとか飾ってある電気屋ですよね?」
僕はそう答えた。
「はい。 あそこを回ってからロスに向かって頂けますか?」
彼はそう僕に言った。
「分かりました。」 僕はそう言って電話を切ると、みのりに着いて来る様に言った。
何故あの地元でも有名な電気屋に行かせようとしたのか、理解に苦しんだ。
とにかく急いでいたので僕は向かった。
「何故?」と言う疑問に苦しめられながら。




