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ハーフライフ  作者: スノウ
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少年


臨終の床にある井沼章象が今、東京の四谷にある大学病院に入院していると聞いた。


遺産云々《うんぬん》の為に会いに向かっている訳では無かった。


まだ言葉も交わした事さえ無い祖父の存在を知り、僕とみのりはただ純粋に、一目だけでも祖父に会っておきたかった。


「あの、今どの位の速度で飛んでいるんでしょうか?」


助手席に乗る飯塚弁護士が、恐る恐ると言った様子で尋ねて来た。


「マッハ4を少し超えた位だと思います。」


僕はそう答えた。


7時を少し過ぎた頃、僕は飯塚弁護士を乗せて四賀村を出た。


東京の四谷までは直線距離で180キロ足らずだったから、2分も乗らないうちに四谷上空に着いて居た。


信濃町の交差点を過ぎた当たりで車を降下させ、飯塚弁護士を下ろしてまた上空へと上がった。


ダニエルを乗せて飛んで来たみのりは、僕のフィットの横に車を停止させた。


「みのり、駐車場混んでるからここで良いね?」 と僕は、大学の上空100メートル程にフィットを浮かせたままそう聞いた。


「私は良いわよ。 今日スカートじゃないし。」 と笑いながら言った。


ダニエルを抱いたまま、みのりは弁護士を下ろした交差点へと飛んで行った。


僕もエアコンの為にかけていたエンジンを切り、交差点へと飛んだ。


20人程の学生達に囲まれて、もうみのりはスマホで写真を撮られ始めていた。


僕はその輪の外に舞い降りて、ダニエルとみのりの2人に手招きをした。


「行きましょう。もう余り時間は残されていませんから。」


飯塚弁護士はそう言って歩き始めていた。


後ろからぞろぞろと着いて来る学生達を従えて、僕達3人は弁護士の後に続いた。


「みのり、失礼のない様にね。」 と僕は、隣を歩く妹にそう言った。


「でも、本当におじいちゃんなのかな、、」


みのりは僕の顔を見ながら、眉をしかめてそう呟いた。


(気を付けて、minori)


ダニエルの声が頭の中に響いた。


その時にはすでに、交差点のすぐ傍にある大学病院の入口の角で、出会い頭にぶつかっていた。


車椅子は横倒しになり、少年が地面に倒れていた。


「ご、ごめんなさい、、。」 みのりはそう言うと、あわてて少年に跪ひざまずいて助け起こそうとした。


まだ7時を少し過ぎたばかりだったが、病院へ通う患者や家族が足を止め、倒れた車椅子と僕達の様子を窺うかがっていた。


後ろを着いて来た学生たちが、「手伝います。」と言い、みのりを手助けして少年を車椅子へと座らせてくれた。


「おねえちゃん、ちゃんと前向いて歩かなきゃ危ないよ。」


頬ほほを擦すりむいて少し血を滲にじませながら、少年は微笑みながらそう言った。


「怪我させちゃったわね、ごめんね。」 みのりは跪ひざまずいたまま、少年に申し訳なさそうにそう言った。


「あ、僕カットバン持ってます!」と学生の一人が言った。


「怪我させたの私だし、治すわ。」 


みのりはそう言うと、来ていた茶色のガウチョパンツに手を突っ込んだ。


「良いよね? おにいちゃん。」 と僕を見上げてそう聞いて来た。


僕は微笑みながら頷うなずいた。


『金魂』を潰したのだろう、見る見る少年の頬の、擦りむけた傷が治って行った。


「あれ? 痛くないや。」 と少年は、不思議そうな顔で僕達を見回した。


「まだ血で汚れてるから、これで拭いて。」


みのりがポーチからハンカチを取り出して渡そうとした。


「僕、ウェットティッシュ持ってるから大丈夫だよ。おねえちゃん。」


そう言って、車椅子が転倒した時に投げ出された赤いナイキのディパックを指さした。


「あ、これね?」とみのりが言って拾おうとした。


「僕が、、」と言いかけた少年が何故か絶句していた。


自分で拾おうとしたのだろうか、少年は立ち上がってディパックへと一歩踏み出していた。


「足が、僕歩けるよ、、おねえちゃん。」


見ると車椅子の足元に、2つの義足が転がって居た。


裸足でアスファルトの地面に立つ少年は、大きめのジーンズの裾すそをまくり上げて自分の足を撫でていた。


「おねえちゃんが? 僕の足を付けてくれたの?」


嬉しそうな顔をしてみのりを見つめながら、少年はそう呟いていた。


母親だろうか、門の向こうから走って来る女性が居た。


「駿しゅん! どうしたの?」 と彼女は車椅子へと駆け寄って来た。


「お母さん。」


裾をまくり上げて裸足の足を見せながら、少年は微笑みながら母に声を掛けていた。


「ぁ、、あぁぁ! 神様、、」


母親は少年を抱き締めて、そう叫んだ。


学生達も嬉しそうにスマホで撮影していた。


通院している患者や家族は、その光景を見て唖然としていた。


「ごめんね、おねえちゃんお見舞いに行かなきゃいけないから、行くわね。」


駿しゅんと呼ばれていた少年にみのりはそう言うと、僕達は病院の中へと向かった。


少年を取り囲む人々の「良かったな。」と言う歓声を後にして。


「良かったのかな? おにいちゃん。」


みのりは僕にそう聞いて来た。


「そんなの、あの子の嬉しそうな顔見たら分かるだろ。」


僕は振り向いて、笑いながらそう答えて居た。


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