理想と、屑拾いの現実
スマホを取りだし時間を見ると、午前2時を過ぎていた。
タイマーは『03:54:39』を表示して、やはり午前6時頃にまた転移するだろう事が分かった。
昨日初めてここに飛ばされた時は、通りの片隅に立っていた。しかし今日は魔魂換金所の真ん前に転移していた。
現れる場所が違ったのに、何か理由は無いか考えていた。
まかり間違えば妹の待つ現代に戻った時、走る電車の前に現れてもおかしくないのだから。何か法則があるはずだ、いや、在って欲しい。
スマホのタイマーが異世界転移の時間を刻んでいるのだから、何かスマホの中に、その理由が無いかを考えていた。
魔魂換金所の前に転移した事の理由、スマホの中に有ったのは、せいぜい写した写真位なものだった。
もし撮った写真が理由なら、向こうで最後に撮ったのは、庭でビデオを構えていたみのりの写真だったから、転移先は庭か妹の前と言うことになる。
今は情報が少なすぎて、こんな仮説しか建てられない。
戻ったら調べる事が色々あったし、エミリアの火傷の薬や、あの酔った男とした約束があったから、ライトを幾つか買っておかないといけなかった。
それに今カーゴパンツとシャツのポケットに入れられるだけ入れた、ズッシリと重い金とプラチナを、あの店で換金できるのかを確かめなければならないし。
戻ったらする事が色々あったから、今は少しでも寝ておかないとと思い、今夜は橋の下で横になっていた。
現実と理想が違うのは知っているつもりだった。
アニメやラノベの異世界物語で、道で屑拾いをして橋の下で寝てる主人公など聞いたこともない。見たこともない。
しかし、これが僕の現実だった。
いつの間にか寝てしまっていた。 目覚めると、家の庭で寝ていた。 昨夜転移したのと同じ場所だった。
重さで脱げそうになるカーゴパンツを左手で引き上げながら、玄関の鍵を開けた。
日曜日だからまだ寝ているだろう両親を起こさないように、静かに階段を上がった。
部屋のドアを開けると、僕のベッドにもたれかかりながら妹が眠っていた。 昨日僕を送り出した時の服のままで。
「みのり、自分のベッドに行って寝なさい。」 と、肩を揺すりながら耳元で囁いた。
「おにいちゃん? おにいちゃん、おかえりなさい!」
みのりは目覚めると、僕の首に両手を回して抱き付いて来た。 心配で夜中まで眠れなくて、そのままここで眠ってしまったのだと言う。
「シャワー浴びてくるよ。」 僕は野宿して汚れた体を洗い流したくて、風呂場へ向かった。
「お腹空いたでしょ?何か朝ごはん作っておくね。」
洗面所から聞こえた妹の声に、「ありがとう、みのり。」と、頭を洗いながら答えた。
着替えてキッチンに行くと、ベーコンエッグと焼いたパンが並んでいた。 みのりはカップスープにお湯を注ぎながら、「温かいうちに食べてね。」と、僕に座るように言った。
二人で朝御飯を食べた。 昨日もそうだったが、昨夜あった事が夢の様に思えた。
僕は貴金属の買い取り店やアルペンの開く10時まで寝るつもりだと妹に言った。
「疲れた顔してるから早く寝たら、私もシャワー浴びたら寝るつもり。」 みのりは皿を洗いながらそう言った。
「おやすみ。」 僕はそう言うと部屋に向かった。
ベッドに横たわる。スマホのアラームを10時にセットして、僕は目を閉じた。
何か柔らかいものが背中に当たり、僕は目を開けた。 妹が背中にくっついて眠っていた。
もう高校二年なんだから、いい加減兄離れさせないととは僕も思っていたから。
「みのり、自分のベッドで寝なきゃダメだよ。」 と言うと。
「一緒に眠りたいの、凄く心配したんだよ。」 と、僕の首筋に顔を埋めてそう言った。
僕達は幼い頃の様に、無邪気な子供みたいに頭をくっつけてまた眠り始めた。




