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剣と魔法とルーレット  作者: わっふる
第二部.ヴァランギニア編
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第四話.情報戦

久しぶりに投稿します。

口調とか変わってやしないかとドキドキ。


これからクリノフュームさんの目的なんかに迫っていきます。

「九億の賭けって、ヨウイチくん!」


 馬車に戻ってみんなにその話をするとカーネリアが声を張り上げる。


「全財産じゃん!」


「まあ、そう言うな。きっとヨウイチは勝てる算段があってのことなのだろう」

 対象的に落ち着いた様子でセレナがそう言う。


 が……。


「……ああ」

 燿一は表情を曇らせる。


「……そんなの、ないよ」

「ええ!?」


 と、その言葉に対してルチルが思わず声を張り上げる。


「お、お金なくなったらご飯食べられなくなるよ!」


「なんとかなるよ。上級市民権が担保になることはコロシアムの一件でわかってるし」


「担保って?」


「借金するってことだよ。何百万かくらいなら借りれるから、普通の競馬で稼げばいい」


「ヨーイチ……」

 なんか思っていた以上に燿一の言葉にルチルはショックを受けているようである。いやルチルでなく周りの面々もみんなそのような様子だった。



「ちょ、ちょっと待ってよ、ヨウイチ」

 アイリスが怪訝そうに言う。


「向こうはおそらく主催側と組んでるんだろうと思う。あのレースが八百長なら、おそらく向こうの思い通りの馬を勝たせることが可能だろうね。それが向こうの強み。だけどなんなら、ぼくがジャッキーに化けてもいい。それだけで計算されたレースは崩壊する。勝てる算段はこちらも十分にあると思うんだけど」


「……もしそれだけがあいつの強みなら、はたしてどうしておれに勝負を挑んだ? しかもアンタークティに入ってすぐだ。おそらくリューゴクシンの中にもあいつに通じているやつがいるんだ。だからおれがアンタークティに向かうことを知っていた。……おれのことは相当に調べている可能性がある。いや、そう考えるべきだ。ならその手は使えない。その手で勝てるなら、向こうが勝負を挑んでくるはずがないんだ」


「?」

 燿一のその言葉に対してアイリスは首をかしげる。


「ぼくがドヴェルグを持っていることを敵がつかんでいるとは思えないんだけど。ぼくが魔法を使用したところを知っているのはあのブタのオッサンだけだ。魔王戦は口外しないと言っていたし、あのブタがぼくの能力を吹聴したとは思えないけど」


「……スラム街の人たちはきみが魔法を持っていることは?」


「おそらく知らないと思う。どのように財宝を盗んでくるかはみんなに伝えてはいなかった。それにみんながぼくの力を誰かに言うことなんて……」


 と、アイリスは言うが、それは客観的には薄い可能性だ。それなりの金を積まれれば、だれでもそのくらいの情報は吐くだろう。なんの悪意もなく。


「そうでなくても、ニュースにある怪盗の手口からだって、ある程度の魔法は想定できるだろ。現におれはそうしたんだし」


 燿一がニュースを見て怪盗がドヴェルグの魔法石を有していると考えたように、世間に広がっている事実から、怪盗がドヴェルグの魔法石を有していたという事実にたどり着くことは比較的たやすい。


「さらにいえばその怪盗がおれの陣営にいることだって、怪盗が消えたタイミングを考えれば容易に想像がつく」


 怪盗が世間から消える前の最後のターゲットが、燿一の持つ宝石であったことは、紙面に大きく取り上げられている。


 怪盗が最後に接触した人間が燿一であるという事実も簡単にわかる。そのタイミングで怪盗が界隈から姿を消しているのだから、燿一との間に何らかの接触があり、殺した、あるいは、味方に引き込んだ、と、そういうふうにたどり着くのは自然の流れ。


 知りうる! 過去の新聞に目を通すだけで、その情報には容易にたどり着けるのである。


「つまり、おれの陣営がドヴェルグを持っている可能性を、向こうは掴んでいると考えていい。その上で向こうはこの勝負を吹っかけてきた、と考える……」


「対抗手段を用意しているというわけか」


 セレナの言葉に、燿一はうなずく。


 そう。向こうがそれをつかんでいるとするのなら、対抗する手段も持っていると考えるべきだ。



「ヨウイチくん、だったらなんでこの勝負を受けたのよ。勝てる自信がないなら、そんなの受けなきゃいいじゃん……」

 と、ため息交じりにカーネリアが言う。


「バカなの?」

 しまいにはバカ呼ばわりである。


「いや、だからこそ受けなきゃダメだったんだ」


「はい?」


「ドヴェルグは実用性が高く応用も効きやすい魔法だ。今後何かをするにしてもこの力はかなり役に立つだろう。だが、向こうがしようとしているのは、そのドヴェルグを超えうる作戦なんだ。だから、この勝負は受けなければならない。九億なら安い。もっと大きな場面でミスを踏むくらいなら」


「安いって……」


「全財産はたいてでも行くべき。というか、九億シェル払って、教えてもらいたいくらいなんだよ。だいいち、金なんていくらでもあとから稼げばいい」


 燿一は金というものに固執してはいなかった。逆に言えば、それに固執していては絶対に到達などできないからだ。燿一が手にしようとしているのはそういう次元だ。


 資金力が必要だと前述したが、それは私腹を肥やしたいという意味ではない。ある作戦を行使しようとしたときに必要となる準備金、それが莫大になるからだ。そのための資金が必要。

 つまり、使うための金が必要なのだ。金は常に流動させなくてはならない。手元にある必要がない。


 まして、それに固執して手を委縮させていたのでは本末転倒である。


 資産を肥やすこと以上に、一個一個のギャンブルの勝ち負けに伴う、金銭以上の利益を上げることが優先される。

 

 逆に言えば、それさえ得られれば負けてもいい。


 仮にむこうがドヴェルグに対抗する手段を持っている、とするのなら、それはすなわち燿一陣営がドヴェルグの魔法石を持っているということを、調べようと思えば誰でも調べられるということの証明でもある。その証明が得られるというのはかなり大きい。


 ドヴェルグがすでに周知の事実となっているのなら、今後の立ち回りに大きく変化を持たせる必要が出てくる。



 ギャンブルに勝利するために必要なのは情報である。


 自分という存在のどこまでが相手に知れているのか。その情報は、相手の持っている情報を知ることよりも、もっと必要視される情報である。逆に言えば、それさえわかればいかなる勝負でも勝利できる。


 だからこそ、相手のその認識を誤認させることが、ギャンブルの本質であると言ってもいい。


 自分の正確な情報を相手に悟られないように立ち回ること。そのうえで、相手の正確な情報を掴むこと。


 それがギャンブルのすべてなのだ。



 だからこそ、いつ、いかなる状況でも自分の手をすべて明かすことはできない。それはしてはいけないのだ。


 九億シェル。十分な大金といえる。まあ、普通なら失うわけにはいかないと考えるだろう。であれば、相手は全力でくる、と考えられる。つまり相手の手はすべて知れるのだ。このクラスの金がかかった勝負でも後々を考えて『迷彩』のほうを優先する、燿一クラスの手練れならば話はべつだが……。


「いや」

 かりに『迷彩』のほうを優先する手練れだとしたら……。ドヴェルグ以上の魔法石をこちらが持っていないかどうかを調べる目的?


「魔王戦……か」


 得たものも大きいが、燿一がこの世界からきて打ってしまった唯一の悪手。



「……」


 燿一は自らの手に視線を落とす。そこに宿った『力』。その片鱗を燿一は使ってしまったからだ。当然あの一戦を正確に知りえたとして、燿一に宿った『それ』の正確な情報にまでは至らないとは思う。思うが……。


 だが、なにかあるという事実にはたどり着きえるかもしれない。ポルダーバール卿……彼と懇意にする存在があるとして、かりにその激戦のことをふいに漏らしてしまったとしたら。当然魔王という単語は避けるとして、何らかの激戦があったと、その一部始終を酒の席でも何でもいい、こぼしてしまったとしたら……。


 その『何か』の正確な情報を知るために九億を撒き餌に使ったのだとしたら。


「面白い……」

 不意に燿一はつぶやいた。



 だとしても解せないことも多い。そもそも、なぜクリノヒュームはそうまでして燿一の手に宿る何かを知り得ようとしているのか。


 燿一がもっと巨大な権力を有し、国家に相当する存在を手中に収めようとしている事態になったら、そういう勢力が現れることは想像できる。しかし今はただちょっと小金を稼いだだけの成り上がりの旅人に過ぎない。


 なぜそこまで深く物事を考えられる存在が、燿一ごときにこうまで時間を割くのか。


 あるいは、なんらかの『勝利したい何か』があって、燿一の力が、利用できると考えたためか?


 ポルダーバールとの一戦の前に、燿一がアイリスにしたように。


 だとしたら是が非でも、お近づきになっておくべきだ、ともいえる。燿一のことを利用できると判断しこの勝負を吹っかけてきたのなら、それほどまでの人材なら、逆に言えば燿一としても、利用できる。利用したい。あとは食うか食われるかという次元のお話だが、お互い利用しあうくらいでちょうどいい。



「ちょっと情報収集に行ってくる」


「ヨウイチくん?」


「トリディマイト卿やポルダーバール卿の紹介もある。この国の貴族とも会談の機会くらい与えられるだろう。そうなれば、クリノフュームの情報もいくらかは引き出せるだろ」

 そういって燿一は立ち上がる。


「待て!」

 しかしそれを制止する声が響く。


「予も行くぞ!」


 ローザサイトである。



「ローザ。遊びに行くんじゃないんだから……」


 ハアとため息交じりに燿一が言うと、ローザサイトはバタバタと暴れだす。


「うるさいっ! 予は遊びたいのだ! 暇なのだ! 暇なのだ! 暇なのだーーー! なぜ予に構わん! 馬などどうでもよかろうにっ!」


「いや、だからさ……」


「あー、わかった。お前がその気なら予にも考えがある!」


 そう言って暴れまわっていたローザサイトは立ち上がると、ローブをはぎ取る。


「一人で遊びに行ってくるっ!」


「だから、ダメだって!」


「なぜだ! 大体暑いのだ、これはっ!」


「だから魔族のことを受け入れる体制はまだ整ってなくて、お前の存在がばれると大分まずいことに……。せめてローブをとるのはやめてくれ」


「なら予もつれていけっ!」


「さっき競馬に連れて行ってもつまんないって文句言ってただろ!」


「うるさい! だったら楽しいところに連れていけ!」


 とか言ってまたバタバタと暴れだす。ようするに、このじゃじゃ馬をなだめるのは、九億のギャンブルに勝つことよりも、よっぽど難しいことだったのだ。


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