表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法とルーレット  作者: わっふる
第一部.エルバイト王国編
37/49

停戦協定

「手を取り合うことはできませんか?」


 それが、結論だった。この世界に生まれ育ったわけではない燿一が、この世界の代表のような顔をして、ここに立つのはあるいは間違っていることだったのかもしれないけれど、それもしかたなかった。いずれ世界の総意がそうなるように、この世界を変えられたらと、切に想う。


「グゥルルルアハハハハハッ! 未だかつて魔族にこのような提案をしてくる人間がほかにあったか?」


「もし今までそれが行われなかったのなら、それはかつての人間が愚かだっただけだ。二十年前の災厄。それがどれほどの被害をもたらしたのかはおれには分からないけれど、もう一度それを起こさないようにすることが、かつての歴史を生かすってことだろ」


 そうだった。話し合いでお互いが譲歩しあえることでそれが成せるのなら、それ以上の最善はなかった。かりにこちらに魔王を殺しうる戦力があったとして、闘って魔王を殺してなんになる? 何年か後に、他の魔王が現れて、また戦争を繰り返すだけではないか。


 逆に聞きたい。なぜ、人間はそのカードを、先の大戦で切ることができたのかったのか? 対話と言う、知的生命体が生み出したもう一つの最高峰。暴力じゃあない。この手に宿る力じゃない。相手を屈せさせる兵器じゃない。それはあらゆる文明機器を凌駕して、人間が生み出した最も素晴らしい発明品のひとつであるはずだった。古より人が持っている、その発明品。言語と言う、他者と手を取り合えるためのすばらしい技術。



「あなたがたは地上の何が欲しいんですか? 土地ですか? 資源ですか? できる限り譲歩します。あなたがたと共存できるような自治区を、おれが作ります。だから今は引いてください」


「バカな……引けだと? そんなことを言われ、おれがそれに応じると思うのか?」


「では、これから人間と戦争をしてどうするって言うんですか? あなたの仲間がほかにどれだけの数がいるかはわからないけれど、人間をすべて滅ぼすほどの戦力があるんですか? 前回の戦争では人間は防衛戦のみしか行ってきませんでしたが、魔族が何度も人間の世界を襲いに現れるということがわかれば、今度は侵略戦を考えるでしょう。つまり人間は、あなたがたの住む場所に至る方法を開発すると思います。そうしたら、あなたがたの住む世界を、今度は人間が襲うということになる。そうしたら、それこそ人間と魔族、どちらかが滅びるまで戦争は続きますよ。それが望みですか! それに、少し考えただけでも、簡単にあなた方の世界に入る方法は挙げることができますよ」


「なに?」


「多数の魔族を引きつれてこの世界を襲ったとします。そしたら、人間はなんとかそのうちの一人を捕まえて拷問にかけるでしょう。魔族が何らかの方法で行き来しているというのなら、その方法を吐かせるでしょうし、あるいは人体実験もするだろうと思います。いずれかその方法にたどり着くであろうことは想像に難くない。あなたがこの後この世界を襲うというのなら、その未来は容易に想像がつく。違いますか? 」


「……」


 魔王はそれに答えなかった。だが、わかっているはずだった。魔界の王となるような人物ならそれなりのことがすぐさま納得できなければ話にならない。今燿一が言った言葉すら理解できないような知能しか、かりにないのだとしたら、それこそ戦争なんてつづけたって絶望的だ。魔法と言う力で最初は押しても、やがて人間の科学力が発達すれば負けるに決まっている。



「魔族と言う種族がどういうものなのか俺はよく知らないけれど、全員があなたのように戦うことに特化した性質を持っているんですか? 女性や子供もいらっしゃるんじゃないですか? それも戦禍に巻き込もうというのですか!」


「――!」

 その言葉で、初めて魔王は悲しむような表情を視線に浮かべる。


 絶対悪など存在しえない。きっと魔族も、自身の国を維持するために、人間世界を侵略するほか、なかったのだ。で、なければ、だれが好き好んで戦争など行おう。


 手を取り合える方法は、分かり合える妥協点は、きっと二人の境界線のどこかには、絶対に存在しているのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ