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剣と魔法とルーレット  作者: わっふる
第一部.エルバイト王国編
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人買い

 家を購入してからすでに一か月と言う月日が経過していた。すでにあのコロシアムで受けたセレナの傷も全快してきたころだった。



「ねー。ヨウイチくん。ごはんまだー」


「あのなー! だいたい、こちとらこっちのキッチンなんて使ったことないし、売ってる食材だって全然おれの世界と違うってのに悪戦苦闘しながら飯作ってんだよ。っていうか、だいたいなんでおれが飯作ってんだよ。たまにはおまえも作れよっ!」


 と言うわけで日々の食事は毎日燿一が用意する手はずとなっていたのである。しかもガスコンロなしで薪から火を起こさなければいけないので大変手間がかかる。一応燿一はあちらの世界でもひとり暮らしだったため、食事には多少は慣れていたが、それでも冷凍食品やらレトルトやらがほとんどだったし。


「す、すまない、ヨウイチ。わたしは旅の最中はほとんど宿で済ませていたし、そうでなければ森で捕まえた動物を捌くくらいで、料理と言えるような代物は作ったことはないのだ」


「セレナはいいよ。そうじゃなくて、カーネリア、てめーだよっ!」

「えー。なんか扱いひどくない?」


「おまえが毎日まずいだのなんだのっておれの飯に文句つけるからだろうがっ! 今までどうやって生活してきたんだっ! この町に住んでたんだろ! 料理くらいしてきただろ!」


「わたし、ひとりだったらパンにジャム塗って食べるだけだったし、料理してないし」


「だったら文句つけんなよ!」


 パンはパン屋で購入できるものの、惣菜屋などは、存在していなかったため、自宅でご飯を食べるとなればこのように、自炊をするしかないのである。まあ、パンだけでよければ料理をする必要はないが。それでもあっちの世界のようにいろいろな種類のパンがあるわけではなく、フランスパンに似たような形状の常食用のパンしか売ってないわけで。毎日それとジャムだけで過ごせと言うのだろうか。



「っていうかさ、ヨウイチくん、奴隷とか嫌いってはなしだけどさ。筋金入りだよね。普通、買ってきてご飯くらいつくらせるよ。貴族さまは」


「いいんだよ。おれは金を持ってるだけの成り上がりの成金さまだぜ。貴族らしい生活したいならよそへどうぞ」

「ひっどい。その言い方ぁー!」


 とかなんとか口げんかしながら、ようやく料理を作ってリビングに持っていく。なんか、バターと牛乳やらを加えたスープで野菜とかを煮た、シチューもどきである。


「またよくわからないしろものを……」

「うるさいな! ちゃんと隣の奥さんにつくりかた聞いたんだ!」


 燿一の隣の家の奥さんは、たびたびおかずを作りすぎたからと、おすそ分けをしてくれるのである。正直自分のとは比べ物にならないほどおいしいのだ。


「ってかさ、あのおばさん、確実にヨウイチくんのこと狙ってるよね」

「人聞きの悪いこと言ってんなって!」


 と言うわけで食器にシチューらしきなにかを盛り付けていく。



「……」

 まあ、食べて見たものの。まずくはない。まずくはないのだが。


 食卓は静かになる。


「そ、その、なんだ。とてもうまいぞ、ヨウイチ」

 汗を流しながら言うのはやめてください。



 そうこうして残念な昼食を終えると、ヨウイチはまた食材の買い出しへと二人とともに市場へ向かう。



「えへへ。今日はなに買おうかなー」

「あのな。おまえ、市場に行くたびにそうやって無駄遣いすんなよっ! 食材しか買わねえよ!」


「いいじゃん金持ちなんだし、ケチ」

 とか言ってブスッと頬を膨らませる。


「まったく、カーネリアは買い物についてきたってじゃまになるだけだ。せめてちったあ、献立でも考えるの手伝ってくれよ」

 そう言うが、カーネリアはなあなあに答えて、聞く耳持たずと言った様子である。


「それにしても……大分この国には長居してしまっているな。なんにせよ、ヨウイチはすぐにでもほかの国に発つと思ったが」


 街を歩いてしばらく経った頃、燿一にセレナはそう聞いた。たしかにもうセレナの傷も癒えているし、この国にとどまる理由ももはやない。少々のんびりした生活に慣れてしまったと言ってしまえば、それまでだろう。


「……まあ、おいおい出ようかとは思ってるよ。トリディマイト卿に聞いたんだけど、ここよりは遥か北の国、カジノの聖地アンフィボールには、それこそ世界中の富豪が集まるような施設が盛りだくさんらしい。それこそ王族級が顔を出す様なところまであって、数億シェルだって平気で動くって言ってた。近くだと、ヴァランギニアとかさ、行ってみたいよなー。何でも競馬が盛んなんだって」


 そんなことを目を輝かせていうと、しばしキョトンとしていたセレナだったがフフッと笑う。


「賭け事のことを話しているきみは楽しそうだ。まるで夢を語る無邪気な子供のようだよ」


「まあ、好きなんだろうな。結局のところ」


 そう言って微笑む。

 

 そうこうしているうちにすでに市場にたどり着く。やはり人々には活気があり、様々な品物が露店で売られている。



「そういえば、前々から気になってたんだけどさ。この掲示板に書かれている白い仮面をかぶった似顔絵って何なの?」


 そんな市場の始まりには、首都で起こったニュース記事を張り付ける、掲示板のようなものがあり、そんなかで白い仮面のようなものの似顔絵らしきものがたびたび張られているのである。


「ああ、最近首都をにぎわせている貴族専門の怪盗だよ。何やら変装の達人らしくてね。事前に犯行予告して、貴族の邸宅に忍び込み、絶対にお目当ての宝は逃さない、とか」


「すごいよね。ヨウイチくんも立派な貴族だし、そのうちなんかお宝盗まれちゃうんじゃない? あ、ないか。うちには金目のものなんて」


「うるさいな。しかし、変装ねえ……。それって魔法なんじゃないのか? 姿を誰かに似せるみたいな」


「いやいや、ありえんしょ。まず魔法ってのは王族の血を引く者しか使えないのよ。しかも精神系魔法石は超希少種だし。そんなの宿す王族が怪盗やってるわけないでしょ」


 いやいや、目の前に前例が。ホテルに連れ込んだ男から魔法を使って金を奪うなんてことをやって生計を立てていた王族が目の前にいるんですけど。



「というか、そのうち、トリディマイト卿は狙われそうだな」


「あの人金持ちだもんね……」


 トリディマイトの邸宅なら正規の大怪盗さんがお目当てとしているお宝のひとつやふたつあるであろう。


 まあなんにせよ、金目のものが何にもない燿一には関係がない話なのだ。



 と言うわけで市場の中へと入ると、露店を物色しながら、食材を買い込んでいく。


「ねーねー、ヨウイチくん。わたしピッツァ好きなんだよね。うちでも作ろうよー」

 市場に出ていたチーズ屋を眺めながらカーネリアはそんなことを言う。


「いやいや。うちオーブンないから」

「だからオーブン買おうって言ってんの!」


「買おうってか、工事しないとじゃん。暖炉改造するってことだろ?」

「いーじゃん。買おうよ」


「たまに店で食うのでがまんしろよ!」


 と、そんなことを話しながらチーズを物色しているときである。後方、国の門の方から巨大な足音のようなものがして、燿一は思わず振り返る。


「な、なんだ?」


 後方を振り返る。人混みを分けるようにしてメイン通りを闊歩しているのは二頭のユニススによって引かれる豪華な馬車である。


「うわ。なんというか、ああいう貴族風吹かせた貴族にはぜってーなりたくないよな」


 そう言いながら燿一たちも他の通行人と同じように壁際に寄って道を開ける。三メートルを越えようという巨大なユニススは、しかし高貴そうにしゃなりしゃなり言わせながら中央街に向かって歩いていく。何というか行商人の使っていたものより毛色がいい。たぶん良いものを食べてるんだろう。


「……しかも、あんなに、奴隷を引きつれて」


 その後ろである。白いボロボロの布切れのようなものを着て、手錠によって繋がれる大量の奴隷たちが、場所の後ろに続いていたのである。どうやら貴族さまはどこか別の国に赴いて、目についた奴隷を大量に仕入れてきたのであろう。トリディマイト卿に聞いたところ、この国の相場はかなり高いらしいから。


「かわいそうに……おれたちと同じくらいの年ごろのやつだっているのに」


「しかたがないよ。彼らもそうして生活を保障してもらえるのだから、完全に悪だとは言いきれんしな」

「それはそうだけど……」


 その保証してもらえる生活のレベルが問題なのだ。人間としての生活すら保障されていない状況で、どうして生活を保証しているなどと言えるのか。


「……は!」


 そんな、中である。十数人の奴隷が引き連れられていく、その中。そのうちの一人を見て、燿一は思わず声を上げていた。


「な……なんだって?」


 その中にあった見覚えのある姿……。いやもはや体は灰に汚れ、わずかに痩せ細り、燿一の記憶の中にいる姿とは多少は異なっているとはいえ、それは。


「ルチルッ!」


 思わず名前を叫ぶ。その、名前。この世界で初めて知った、その人の名前を。


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