王族
「ヨウイチくんならわかってくれると思ってたよ」
リビングに設置してあったテーブルの前にある椅子に促すと、イスに座りながらそう言ってカーネリアは楽しそうに笑う。
「いや、弟うんぬんの話なら信じてねえよ。というか、いくつか聞きたいことがある。だから家の中に入れた。わからないか?」
「?」
「おまえはおれをとりなし上手く懐に入ったつもりだろうけど、おれがおまえを家の中に招き入れたのは、途中で逃げられることを防ぐためだよ」
そう言う。その瞬間、セレナはイスをドアの前に移動し、腰の剣に手を当てたまま、カーネリアを睨み付ける。
カーネリアもすぐさま立ち上がったが、すでに遅かった。もう、逃げ場はない。
「ふ。フフ。そう言うこと。なるほどぬかった。罪人には容赦ないってわけ? 家に連れ込んで、なるほどこれならわたしにどんな制裁を加えても罪には取られない、と」
「いや……おれは」
「わかったわ」
そう言ってうつむきながら、いきなりカーネリアは胸元のボタンを開いていく。
「ってぇっ! な、なにしてっ!」
「痛いことされるくらいなら、こっちのほうがいいもん……」
「バカ、何考えてっ! 脱ぐな……」
服を脱ごうとするカーネリアを制止しようと、燿一はカーネリアに手を伸ばす。
その瞬間カーネリアはニヤッと笑う。そして胸元を抑えていた右腕をそのまま燿一の方に伸ばす、が。
「……やっぱりね」
燿一はそれを掴み取る。
「な、ぐ……」
「そう来ると思っていた。だからすでにおまえに近づいてすぐにフェイントで体を引き戻すって決めていた。手だって最初から来るとわかっていれば、つかめるさ。そして、やっぱり、おれの思ったとおりだ」
「どういう意味だ、ヨウイチ?」
「カーネリアは王族だ」
「っ!」
その言葉に、カーネリアとセレナは双方驚愕の表情を浮かべていた。その驚愕の向けるところの意味は、双方で異なっていたものの。
「バカな、ヨウイチ! 王族がこのようなところにいるわけがないだろっ!」
「だけど魔法ってやつは王族しか使えないんだろ? 魔法石が体内に宿る一族しか。そしてカーネリアは魔法を使える。眠らされたあのときは、一瞬のことでどうして眠ってしまったのかまでは確定的なことは言えなかったんだけど、今の行動でわかった。カーネリアは相手の額に手を触れさせることで、その相手を眠らせられる力を持っているんだ。これって魔法じゃないの?」
「……な、なに言ってるの? 魔法なんて、平民のわたしに使えるわけないでしょ。だいたい王族がカジノでバニーなんてすると思う?」
「そこが解せない。だからカーネリアが王族だって言うのはおれの中でも半信半疑だった。眠ったのは偶然とか、何か気づかぬうちに薬とかで、ともね。でも、今ので分かった。カーネリアは魔法を使える。もう化かし合うのはやめにしようや」
「く……」
「この世界のことをてんで知らないおれには、どうしてこんなところに王族がいるのか、なんてことはわからない。だけど、カーネリアは金を必要としてるんだろ? よくわからないが、三万シェル程度じゃまったく足りないんだ。だから危険を犯して、大金を得たおれのもとへまたやってきたんだ。舐められたもんだ。また騙せると思ったのかよ」
「……」
しかしカーネリアはそれに答えない。
「なんのために金を欲している?」
それにも答えない。
「それは、八億シェル、おれの全財産で足りるのかよ?」
「っ……」
が、キッとカーネリアは燿一のことを睨み付ける。
「足りるわけないでしょっ! そんな額でっ!」
と、涙を浮かべながら叫ぶ。
「ば、バカな? そんな額、だと……八億シェルだぞ」
それに対して驚愕の言葉を漏らすのはセレナだった。当然だ。八億と言えば、もう……。たとえようのないくらいの大金だ。それでも、例えば普通の一般市民が年間で稼げる額が、10万シェルから20万シェル程度だ、といえば、その額の大金さがわかるだろうか。
「わたしが買いたいのは、国よ」
涙を流しながら、それを告げる。




