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第14章・3:幕

ドン――クラック!!


アレスは迷いなく踏み込んだ。


音を置き去りにするほどの速度で。


次の瞬間――


彼はすでにパペットの目前に立っていた。


その瞳は、炎のように燃え上がっている。


(……速い)


アレスは何も言わず、


そのまま槍を突き出した。


ドンッ!!


圧倒的な一撃。


パペットの身体が吹き飛び、数メートル先へと叩きつけられる。


シュンッ!!


だが、間髪入れず――


アレスは再び距離を詰めた。


「終わらせる」


そのまま、


怒涛の連撃が始まる。


ドン! ドン! ドン!!


衝撃のたびに、


地面がひび割れる。


砕ける。


崩れる。


一撃ごとに威力が増していく。


パペットは反応する暇すら与えられない。


(骨が何本折れようが――)


アレスは止まらない。


呼吸が重くなる。


(血がどれだけ流れようが――)


額から流れ落ちる汗が、


地面を打ち砕くほどの重みを持つ。


(構わねぇ)


瞳がさらに鋭くなる。


(てめぇを殺すためなら――)


「何でもやる!!」


アレスは槍と一体化したかのように舞う。


迷いはない。


躊躇もない。


一歩踏み込み、


さらに加速する。


連続する突き。


止まらない攻撃。


その一撃一撃が、


パペットの肉と骨を引き裂いていく。


ザシュッ――!


バキッ――!


「――――ッ!!」


パペットの絶叫が風を裂く。


AAAAAAARGHH!!


(死ね)


(死ね!!)


(――死ねぇぇぇぇぇ!!)


アレスは地を踏みしめた。


その槍に、血がまとわりつく。


落ちていった兵たちの血。


想い。


叫び。


すべてが、その一撃に宿る。


「これで終わりだ」


そして――


咆哮した。


「――グリート・オブ・ザ・フォールン!!」


槍が唸る。


風を裂き、


空気すら貫く速度で。


戦場に散った者たちの血を纏い、


その一撃は矢のように放たれる。


アアアアアアアアアッ!!


アレスの咆哮と共に――


槍は一直線に突き進んだ。


そして――


ドンッ!!


パペットの胸を、


完全に貫いた。


. . .



アレスは、重く息を吐いた。


怒りと疲労が混ざり合った、重たい吐息。


そして――


動かなくなったパペットの身体を見下ろし、低く告げた。


「……これが」


「てめぇが踏みにじってきた戦士たちの意志だ」


その場に、静寂が訪れる――


はずだった。


だが次の瞬間、


それは無残にも引き裂かれた。


「――ッ、プフッ……!」


「ははっ……ははははははははは!!」


狂気に満ちた笑い声が、空気を裂いた。


「……なに……?」


アレスの瞳が揺れる。


その笑いは――


あり得ない。


「ははは……っ、ああ、もう無理だ……!」


パペットは顔を覆いながら、


壊れたように笑い続ける。


その声には、嘲笑と侮蔑が滲んでいた。


「人間って、本当に滑稽だね……」


肩を震わせながら呟く。


「“戦士たちの意志”……?」


その言葉を、まるで嘲るように繰り返す。


「――ぷっ……ははははは!!」


「気持ち悪いくらい理想に酔ってるじゃないか」


涙を拭いながら、


パペットはゆっくりと顔を上げた。


「想像以上に哀れだね、戦神様」


「ここまでとは思わなかったよ」


……


(どうなってやがる……?)


アレスの思考が追いつかない。


(首を貫いたはずだ……)


(心臓も、急所も関係ない……)


(それなのに……)


恐怖が、背中を這い上がる。


(弱点が……ない?)


(核もない……?)


(こんな存在……あり得るのか……?)


パペットの唇が、ゆっくりと歪んだ。


アレスの恐怖を感じ取ったように。


「いいねぇ……その顔」


くすくすと笑う。


「その絶望、コレクションにしたくなる」


その瞬間、


アレスは反射的に動いた。


槍を握りしめ――


そのまま全力で叩きつける。


ドン――クラッシュ!!


パペットの身体が壁へと激突し、


瓦礫が吹き飛ぶ。


(くそ……!)


アレスは歯を食いしばる。


(なんでだ……)


(なんでこんなに震えてやがる……!)


拳が、わずかに揺れていた。


(俺は……戦神だぞ……)


(何も恐れねぇ神のはずだろうが……)


(いつからこんな――)


(弱ぇ存在になった……?)


瓦礫の中から、


ゆっくりとパペットが立ち上がる。


まるで何事もなかったかのように、


軽く埃を払う。


その姿は、あまりにも異質だった。


(死にたくねぇ……)


アレスの喉が鳴る。


だが、


その目は逸らさない。


(でも――)


(こいつをここから出すわけにはいかねぇ)


脳裏に浮かぶのは、


燃え続ける街。


戦っている仲間たち。


(他の奴らも……)


(俺たち以上の化け物と戦ってるはずだ……)


(ここで俺が負けたら……)


(全部終わる)


パペットは、自分の身体を見下ろした。


穴だらけの肉体。


「……あーあ」


「穴だらけじゃないか」


呑気に呟く。


(関係ねぇ……)


アレスの瞳に、再び火が灯る。


(震えようが、関係ねぇ)


(戦うしかねぇんだ)


(何があっても――)


(戦う)


巨大な気配が、再び膨れ上がる。


鋭く、荒々しい戦気。


それを見たパペットの顔が、


楽しげに歪む。


「へぇ……」


「まだ諦めないんだ?」


「思った通り、しつこいね」


アレスは槍を構えた。


その手は震えている。


だが、


その目は死んでいない。


(死ぬとしても……)


(てめぇだけは道連れにしてやる……)


(このクソ人形……!)


その誓いは、


静かに、


しかし確かに燃えていた。


. . .



しかし――その瞬間。


パペットの顔に、鋭く歪んだ笑みが浮かんだ。


その笑みを見た瞬間、


アレスの全身が強張る。


次の瞬間――


空が、一変した。


鮮やかな深紅。


血のような色が空を覆い尽くし、


無数の糸が空間を埋め尽くした。


「……何だ、これは……?」


理解が追いつかない。


「なら――」


パペットが静かに呟く。


「お前の“意志”を潰すしかないね」


無数の糸が蠢き、


絡み合い、


一つの“形”を作り始める。


アレスは動けない。


指一本すら動かせない。


完全に拘束されていた。


「――血塗れのテアトリーノ」


その言葉と同時に――


世界が“変わった”。


一瞬で、


巨大な舞台が出現する。


天からは、黄金と深紅の幕が垂れ下がり、


歪で grotesque な劇場を形作る。


中央には、


血のように赤い巨大な緞帳が、


堂々とそびえ立っていた。


そして――


観客席。


そこにいたのは、


人間だった。


いや――


もはや人間と呼べる姿ではない。


焼け焦げ、


四肢を失い、


死の淵に立たされた者たちが、


そこに“並んでいた”。


その口から漏れるのは、


割れた声。


「……いけ……」


「いけぇ……!!」


「やれ……!!」


拍手。


歓声。


絶望の中で響く、狂った応援。


アレスは目を見開く。


「……なんだよ……これは……」


視界に映るすべてが、


狂気に満ちていた。


その時――


バンッ、と


強烈な光が中央を照らす。


二つのスポットライト。


その中心に、


アレスは立たされていた。


そして――


ドン……ドン……ドン……


リズムが鳴る。


太鼓の音。


だが――


その演奏者を見て、


アレスの思考が止まる。


腕がない。


両腕が存在しない男が、


そこにいた。


それでも、


彼は叩き続ける。


自分の“頭”で。


狂ったように。


頭を叩きつけ、


血を撒き散らしながら。


眼球が飛び出しかけても、


止まらない。


止められない。


リズムは続く。


狂気の演奏。


……


理解する前に――


緞帳が、


ゆっくりと開き始めた。


ギィ……と、


不気味な音を立てながら。


アレスは即座に構える。


槍を握り、


全神経を研ぎ澄ませる。


(来る……!)


だが――


その先にいたのは、


“敵”ではなかった。


いや、


最も恐ろしい存在だった。


パペット。


舞台の中央に立ち、


優雅に、


そして異様に――


観客へ向けて一礼する。


「ようこそ――」


ゆっくりと顔を上げ、


アレスを見据える。


その目には、


嘲りと狂気が宿っていた。


「壊れた舞台へ」


パペットは微笑む。


冷たく、


歪んだ笑み。


……


――そして、


戦いは、最終局面へと突入する。


幕は上がった。


もはや後戻りはできない。


この舞台の上で――


二人は、


己の信念と命を賭けて、


最後まで踊り続ける。

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