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第4章・2:アテネでの邂逅

¡CRACK!


ポータルは、

まるでトランプのピラミッドのように崩れ落ちた。


その光景を、

テンザクはただ一人、静かに見つめていた。


冥界の獣たちでさえ、

その場を支配する圧倒的な静寂に胸を締めつけられた。


笑顔は消え、

騒音も皮肉も消え去り、

ずっとそこにあったはずの“沈黙”だけが、

今になって強く感じられた。


……


「幸運を祈る……エデン」


眩い光が、

一瞬でエデンの視界を覆い尽くした。


「くそ……」


……


カモメの鳴き声が空に響き、

穏やかな波が海岸に打ち寄せる音が重なる。


太陽は、

どこか特別な美しさで輝いていた。


エデンは、

目の前に広がる光景に言葉を失った。


美しい海沿いの都市が、

その視界いっぱいに広がっていた。


活気に満ち、

人々の声が絶えず響く街。


そして、

潮風には説明のつかない懐かしさが混じっていた。


エデンは思わず呟く。


「……綺麗だ」


「アテナへようこそ、エデン」


「この場所……」

「まるで、歴史の授業で学んだすべてが、

時間の中に閉じ込められているみたいだ」


シュンは、

エデンの瞳に宿る抑えきれない高揚を感じ取り、

静かに尋ねた。


「散歩でもするか?」


「本当か?」

エデンは、無邪気な笑顔を浮かべて聞き返す。


「ああ。試験が始まるまで、まだ時間はある」


「ただし、その前に一つだけ忠告しておくが……」


――――


¡フゥゥゥゥン!


突風が吹き抜け、

一瞬、その場の空気が張り詰めた。


「……冗談だろ……」


シュンは、

山の上から迷いなく飛び降りていくエデンを見て、

引きつった笑みを浮かべる。


「まあ……」

「自分で思い知るだろうさ」


そう言って、

肩をすくめた。


……



その瞬間、

シュンの表情が鋭く引き締まった。


「……隠れてないで、姿を見せたほうがいい」


そう警告しながら、

彼は剣の柄に手をかけた。


「まあまあ、シュン」


威圧感のある声が響く。


「そんなに攻撃的になる必要はないだろう?」


シュンは視線だけを向けた。


そこに立っていたのは、

両性具有のような姿をした存在――

比類なき美しさを持つ者だった。


絹のような髪。

威厳と温かさを同時に宿す瞳。


「……お前みたいな奴が、

こんな場所で何をしている?」


振り返ることなく、シュンは吐き捨てた。


「とぼけるな、シュン。

俺がここに来た理由は分かっているはずだ」


「なら、そのご高説で照らしてくれ」

シュンは皮肉を込めて呟く。


「お前は今まで散々な愚行を重ねてきたが……

今回のは、群を抜いて最悪だ」


「なにを証明したい?」

「こんな聖域に、あんな悪魔を連れ込んで」


「お前の知ったことじゃない、

クソったれの大天使」


「その通りかもしれないが、

俺はお前に会いに来たわけじゃない」


「“あいつら”が、

穏便にお前を止めろと言ってきた」


「穏便に?」

シュンは皮肉な笑みを浮かべた。


「今さら善人ぶる気か?」


「骨の塊どもに伝えろ」

「用があるなら自分で来い」

「狂犬みたいなペットを寄こすなとな」


――――


¡ザスッ!


冷たい刃が、

シュンの背中に触れた。


しかし、

彼の表情は一切変わらない。

ただ静かだった。


「殺すなとは言われたが……」

「その舌を切り落とすくらいは問題ないだろ?」


苛立ちを滲ませ、

その存在は吐き捨てる。


「どうした?」

「残っているわずかな誇りでも傷ついたか?」


「次に口を開いたら、

切るのは舌だけだ。――クズ」


それでも、

シュンは余裕の笑みを浮かべたまま言った。


「天使ってのは、

世界のためとか、創造主の命令に従うものだと思ってた」


「だが……」

「お前たちは、兄弟を失ってから、

随分と堕ちたな」


大天使は、

剣先をシュンの背中に深く突き立てた。


それでも、

シュンは微動だにしない。


「黙れ……今すぐその口を閉じろ!」


「未だに理解できない」

「なぜ“彼”が、

あんなにも卑しい存在であるお前に、

あの剣を託したのか」


「――あの格の剣は、

お前のような者が持つべきじゃない」


そう言い放ち、

彼はシュンの顔に唾を吐きかけた。


……



シュンは落ち着いた仕草で顔を拭い、口を開いた。


「……道具にしては、随分と口数が多いな」


「人々に“完璧”と崇められる存在なら、

もう少し自尊心があると思っていたが……」


「だが、今ここにいるのは――」

「兄の光を失い、道に迷った臆病な赤ん坊だけだ」


その言葉は、

天上の存在の自尊心を容赦なく打ち砕いた。


「黙れッ!!」


怒りに満ちた拳を震わせ、叫ぶ。


「戻って、あの老いぼれどもに伝えろ」

「何人送り込もうと、結果は同じだ」


その言葉と同時に、

大地が激しく揺れ始めた。


シュンの身体から、

あまりにも神々しいオーラが溢れ出す。


その威厳に、

獣たちですら地に伏した。


「軍勢だろうが、国だろうが……」

「――お前のようなクズであろうが」

「俺を止めることはできない」


……


「そして――」

「もし、お前や誰かが、

俺の弟子に指一本でも触れようものなら……」


¡CRACK!


あの荘厳な剣は、

花弁のように脆く砕け散った。


「……殺す」


シュンの視線は、揺るがなかった。


大天使は、

反射的に一歩後ずさる。


(なんだ……この力は……?)


その瞳は、

恐怖に大きく見開かれていた。


シュンのオーラは決して巨大ではない。

だが、異様なほどに静かで、

意味の分からないほどの調和と安らぎを湛えていた。


黄金のように輝き、

濃縮され、

まるで見えない壁のようだった。


シュンは彼を見下ろした。

そこにあったのは侮蔑ではなく――哀れみ。


「今は理解できなくてもいい」

「あの少年は、この世界を変えられる」


「よく見ていろ」


「もし俺が間違っていたなら……」

「好きなだけ俺の墓に唾を吐け、ガブリエル」


……


「この世界は、あいつを受け入れない」

「奴は呪われている」


「創造主を殺した“穢れ”の一部だッ!」

ガブリエルは怒りを露わにする。


「この世界は憎しみに沈んでいる」

「ルールですら歪んでいる」


「悪魔は善になれない」

「天使は過ちを犯さない」

「火と水は共存できない」


「……だが」

「いつか、必ず超えるだろう」


シュンは静かに手を差し出した。


「君の兄なら、

“ただの悪魔”以上のものを見ただろう」


……


¡PUM!


ガブリエルは、

その手を乱暴に払いのけた。


「俺を、あいつと同じにするな」


「人間性こそが、あいつを殺した」

「もし、天使として振る舞い続けていれば……」

「今も生きていたはずだ」


ガブリエルは立ち上がり、

砕けた剣の残骸を鞘に収めた。


「相変わらず頑固な人間だな」


「この戦争に勝てると思うな」

「――あいつらには、決して勝てない」


「次は、もっと優しくはしない」


そう言い残し、

彼は時空の裂け目へと消えていった。


……


「……あんな顔しておいて、よく言うよ」


シュンは苦笑しながら立ち上がり、

山の頂から巨大な都を見下ろした。


人で溢れる通り。

笑い声と喧騒。


それを見て、

彼の口元に苦い笑みが浮かぶ。


(どうやら運命は、

お前に楽な道を用意してはいないらしいな、エデン)


(最初から、お前は乗り越えきれない試練に晒されてきた)


(だが、あの夜――)

(はっきりと分かった)


(どれほど過酷でも、

お前は決して諦めない)


(迷い、道を外すことはあるだろう)

(それでも、必ず戻ってくる)


(そして今日――それを証明する時だ)


(賞賛の視線が、

蔑みへと変わった時……)


(選ぶのは、お前自身だ。エデン)


……


アテナイの喧騒の中、

予期せぬ衝突が起きた。


地面に倒れ込んだエデン。

その瞳には、苛立ちと怒りが宿っている。


彼の前には――

傲慢な態度で立つ一人の少女。


翠の瞳。

圧倒的な存在感。


試験にすら挑んでいないにもかかわらず、

エデンは最初の試練に直面することとなった。

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