第十四幕:正義の問い再び
哲学者が人間の世界にいた時、
師からもらったテーマで敗北した。
いま、まさに同じ質問が繰り返された。
哲学者はどう動く?
やあ、君。女神は、長い間の沈黙の後で、ボクらを眺めていたよ。
そして、何度も問い直していた。
女神は、何者なのかってね。
この神は性格に難ありで、無計画に突っ込んでいく神だったけど、自分の違和感に気づけた。神だからね。
「私は地上にいて、汝らと会ってた?」と繰り返し呟く。
「どうでも良いことだ。ーー人と神々の関係とは終わりを迎える。」
哲学者が左手をさらに突き出す。
「その手は......なんだ?」と女神は怪訝な顔をする。
「ここまで来たんだ。土産をもらおうと思ってる」と哲学者。
「土産を?ふん。哲学者と名乗っているなら、問いでもくれてやろう。」
「正義とはですかな?」と哲学者は笑う。
「そうだ。それを贈ろう。正義とは?」
女神は微笑む。だが、すぐに自分の微笑みに疑問に思う。
「正義とは、まだ俺には決められない。そもそも、俺には本当に正しい答えが、見つかるものとは思えない。
きっと、何を言っても間違いと言われる」
一瞬だった。
ほんの一瞬、彼女は口を開きかけた。
そして唇が閉じられた。
女神は、彼女は一筋の涙を頬に伝わせていた。
「弟子よ。それが、無知の知なのだ」
女神の目が見開かれる。
ああ、女神は狼狽えた。
彼女の中にある記憶に。
「や、やめろ!!私に!触らないでくれ!!」と、後ずさる。だけど、彼女が後ずさるたびに、哲学者の方へと行く。
哲学者は動かない。
彼女が近づくのを黙って見ていた。
彼は左手を彼女の方へ向けている。
その手に吸い寄せられるように、
彼女は、階段を一段、
一段と降りていく。
そして、彼は女神を抱いた。
優しく?
せつなげに、さ。
苦しくてたまらないと言うように。
これが、最後とでもいうように。
左手で、彼女の手首を掴み、
彼の腕の中に引き寄せた。
女神は、二、三度、痙攣してから、
彼の肩に頬を寄せた。
哲学者は、彼女に聞くんだ。
「二人きりに、貴女は俺をなんと呼ぶ」と。
すると、どうだろう。彼女は彼の肩から頬を離すと、愛しげに彼の目を見つめた。
彼女の表情は、慈愛に満ちた者になる。
「ジュッシュ。貴方に会いたかった」
哲学者は微笑む。
もう、満足とでもいうように。
彼は女神から腕を離し、下がる。
女神はしゃがみ込む。
これから、何が起こるか分からなかった。
「俺は人の身でありながら、貴女を愛した。これは神々の法では死だ。
俺の死は、ここで決まった。
俺はこれから死ぬ。人として死ぬ。
愛を知って死ぬんだ。」
彼は女神に説明したんだ。
自分の末路ってやつをさ。
女神は、硬直した。
「待て!生きてほしいだけだ!君はーー」彼女の言葉が続かない。
彼女の口は、神々のもつ不死性により、囚われた。
神もまた法に縛られるんだ。
そんな囚われた彼女を彼は、微笑みながら見てた。
「君は俺を見つける。
ーー俺も君を見つける。」と哲学者は女神に微笑む。
雷の音がゴロゴロと近づいてくる。
慈悲深い雷神が、
彼の終わりを持ってきた。
轟音と稲光が神殿の中にぶつかった。
白と音が交互に揺れて、鳴く。
ボクは君を庇う。
ボクの肩越しで君は、哲学者だった灰の山を見た。
一陣の風が彼を虚空へと連れ去る。
女神は動かない。
「彼を見つけなきゃ。
ーー星の海を越えて」
しばらくして、彼女が立ち上がると、呆然と立ち尽くす黄金の女を、そのまま通り過ぎる。
女神は舟に乗り、漕ぎ出した。
どこか遠く。
彼を探しに。
(こうして、第十四幕は女神を乗せた舟と共に閉じる)
そして、物語は女神による愛する者を求める旅が始まったんだ。




