第21話
ユーリーン婆の笑える見解はともかく、
「昨日爺さんがクーラを連れて帰ると、発表したから、スイッチが入ったんじゃないかな。王家で飼っているのじゃないかな」
セーンはそう推理した。
「王が、此処に間者の使い魔を入れたな。何時からだろう」
「ひょっとしたらクーラがお嫁に行ってからかしら。あのころバタバタしていて、使用人の様子まで見る余裕はなかったわね」
そのタイミングで、執事さんが、
「さあさ、これが今月のお給金ですから。もうこの辺でお引き取り下さいね。グルード家もこれ以上の騒ぎは認めませんよ」
泣きながら、お金は貰ってさっさと立ち去ったのだが、メイドさんの豹変ぶりには驚いたが、違和感も感じたセーン。
「変な人だなと言うか、人間とも思えなかったな」
感想を言うと、冷静なジュールは、
「セーンもそう思いましたか、地下の元魔族が地上にやって来たかのような印象ですが、残党と言えば時間的に違っていますからね。残党は半年前ぐらいからしか現れては居ないはずです。そのころ地下に居た魔物は一掃しましたからね。しかしここに居た魔物は長期間大人しくしていたようですね」
「俺も、もっと前から魔族はやって来ていると思うな。ひょっとしたら地下では、小競り合いとかが頻繁にあっていたんじゃないかな。負けたら地下で暮せなくて、地上に上がって来て。地上で悪さを控えめにしていたとかね。人間にも質の悪いのが居るし、悪さ控えめだと出来の悪い人間と似たり寄ったりで、潜り込めていたんだろうな」
セーンは自説を述べた。最近自説を述べることが多い気がする。
「さしずめ、グルード家の敵達は、根性の悪さでは、地下の魔族に負けてはいないんじゃないか。少しさかのぼって先祖を調べれば、きっと地下の魔族の血が入っているな、あいつらは。俺の自説ってことで、良いけど。証拠はないからね。奴らは只の悪口と思っているだろうけど、割と真実に近かったりして。えへ」
ユーリーン婆が、何か勘付いていて、
「今日はセーンの弁舌がやけに冴えているけど、どうしたの」
「俺の冴えを感じたかな、婆さん。俺って視聴者が多いとやる気が沸くんだ」
そう言いながら、先ほど気付いた隠しマイク。花瓶の花の芯に入っているのだが、しゃべりながら、皆に取り出して見せた。ニキ爺さんはあきれて目をむく。
「最近、セーンは喧嘩を吹っ掛けるのが趣味か。あいつらは血の気が多いからな。結果の勝ち負けでは動かない奴もいるんだ。言わば本能だな。あの馬鹿狼に似ているな」
「爺さんも言うねぇ、まだ録音は続いているんだけど、確信犯?」
ジュールはレンに笑って言った。
「ほら、地上の方が面白いと思ったんだ。退屈しないや」
「冗談じゃない。俺はガブ家と遊びたいんじゃないんだ。王にひと泡吹かせるんじゃなかったのか、ジュール」
「王と言えば、さっきこの辺りまで兵隊を引き連れて、やって来ていたが、表の俺たちの軍隊を見て、あわてて帰ったな。きっと戻って編成し直す気だろうが、どっち道、歯が立たないんだがな」
ジュールも機嫌よくお喋りをする。やはり、聞き手が多いほど、弁舌したくなるタイプだ。セーンに似ている。顔が似たようなのは、性格も似たような感じになるようだ。
レンは顔をしかめて、
「ジュールは透視も出来るんだから、王たちが来ているんだったら俺に言えよ。まったりしすぎじゃないか。奴らが出直してくるまで待つ気なのか。さっさと城に行くぞ。邪魔したな爺さん」
「あたしには何か言う事ないの」
立ち上がっていまにも出かけそうなレンに、ユーリーン婆は声をかける。
セーンは、
「きっと話しかけたら長くなるから、無視されてんだよ。ユーリーン婆。状況を見ないとね」
「隊を組みなおす前にやっつけたいんだ。ママ。おそらく残党を連れてくる気なんだからもう出ないと。相手は魔族だからね。ここまで来させるわけにはいかない」
「ヤモちゃんたちは強いのよう」
「いくら強くても、争いを嫌う一族に迷惑はかけられないだろう」
「レンちゃん良い子ねぇ。こんなにきちんとした子だったなんて。ニキ、レンが跡取りで良いんじゃない」
「そうだな」
レン、なんだか歯を食いしばり、
「ジュール、クーラにへらつかないで早く立て」
「ほらほら、ジュール。もう行ってちょうだい」
同じくへらついているクーラに促され、
「あは、これ以上ここに居たら、レンが跡取りのサインしてしまいそうだし、行こかな」
そう言った途端、2人と表の魔物たちは瞬間移動して、きっと城に行ったものと思われた。
「あら、瞬間移動、軍隊まで出来ちゃうの。だったら、もう少しここに居ればいいのに」
クーラのお気楽な見解に、
「クーラ、レンたちは王に戦争を仕掛けに来ているんだ。お前の相手はまだ出来ないんだからな。少しでもあいつらは有利に戦わなければならないんだ。早めに移動して早すぎると言う事はない」
ニキ爺さんは律儀に教える。
「どいつもこいつも律儀だな。俺としてはとっても好ましい状況になって来ているな」
セーンは何時に無く好都合な展開に、『こんな事で済むのかな』と不安になって来た。つまり何か嫌な感じがするのだ。『こういう時は何か不味い事が起きそうだ』そう思えて来て、
「俺ちょっと城方面に行ってくるから」
皆に言いながら城の様子を無意識に伺いだしていた。
城にはすでに魔族たちが居て、レンたちの瞬間移動を手をこまねいて待っており、瞬間移動したレンたちは何と、魔族の残党が作っていた魔の空洞に落ちてしまっていた。
「何だ、あれは。魔の空洞?」
その名は急にセーンの頭の中に入って来ていた。首をかしげて呟くと、ヤモさん達が、「ぎゃっ」と叫び、大急ぎて皆は集まり、きっとレン達の加勢に出発の様である。訳が分からないが、セーンもついて行く。
「何、魔の空洞って」
ユーリーン婆が恐怖の叫びをあげた。
ニキ爺は悲壮な顔で、
「魔族のとっておきの必殺技だ。ああ言うのを造る事が出来る奴がまだ存在していたとは驚きだな。古に滅びた魔族の技だったはず。あの技を返すことができる奴に滅ぼされたと、言い伝えられているんだが・・・」
クーラが言った
「状況から見て、その返し技が出来るのはヤモ一家と違う?」




