第20話
クーラは機嫌よく家に戻って来た。
寝間着だけしか着ていないが、皆とは子供のころからの付き合いなので、クーラは気にせず、
「ただいま。みんな元気そうねー。元気じゃなかったのはあたしだけか」
ユーリーンは、
「クーラ、無事に戻れたわね。良かった。苦労させたわね。でももう城には返さないからね。で、荷物は無いの」
「洗剤に浸かったのばかりよ。見たくもないわ。置いてきちゃった。ママがゆすげば売れるとか言いそうだとは思ったけど」
「いいのよ。ママの言う事なんか気にしないで。メイドさんたち、前にクーラが来ていた服出してみて、サイズ痩せちゃったから合わないかしら」
「最近、若い子の普段着は、ぶかぶかなのがはやりよ」
「そうなの、はやりの服になってて良かったじゃないの」
能天気な母と娘の会話を聞きながら、ニキ爺はこれからどうするかなと思っていた。王が帰ってくれば取り戻しに来るだろう。来るかな、しかし。
セーンは、
「近衛兵や、王立騎士団じゃあ、壁の上一家にはかなわないだろうな。爺さん」
と言って安心させてやった。
「良い勝負なのはレンの軍隊だろうけど、あいつは俺らとやりあう気はないのが分かっているし、安心だな。後、もしかしたら前の地下の魔王の兵の残党が居そうだけど、レンの兵に負けたって事は、俺らにも勝てるはずないな。でも油断せず見張りはしないとね。ヘキジョウさん達に任せておけば安心だよね。ヘキジョウさん達、頼んどくよ。この間やって来た馬鹿狼はきっと残党の一味になったんだろうな。レンの所から逃げた奴らだと言っていた。昨日言い忘れていたけど」
『ヤモが言った』
「あ、ヤモちゃん報告していたのか、俺のフォローも出来てるねぇ」
爺さんは、
「最近は、ここも壁の上一家で持ってるようなもんだな。レンのとこでのことも大体の話はヤモちゃんから聞いたぞ」
と感慨深げに言った。セーンも、
「どうせ俺がちゃらんぽらんだと言いたいんだろうな、あは」
「いや、ヤモちゃんはセーンはレンより能力が有ると言ったよ。レンも、そうとらえていると分かったそうだ。だからレンがグルードにどうこうしてくるはずがない。地下からやって来るのは、王達に対する遺恨からだな。近々城で争いが有りそうだとヤモちゃんは感じている」
「げっ、そうなのかな。じゃあ、これからは何でもヤモちゃんに聞いてね。俺はヤモちゃんの手となり足となってこの館を守ろうかな。行く末は、ヤーモちゃんがきっと盛り立ててくれるよ」
「セーンは情けない奴だな。どういうつもりなんだ。そんな事言って」
「俺の行く末は、セピアでてきとうに暮らしたいけど、あっ、又、つねられた。最近ヤモちゃんの意向に沿わないと、脇腹つねられるんだ。もう黙って居よう」
そんなこんなで、家族そろった感じで、昼食を食べ終わり、皆ですることもなく、まったりしていると、外の方が騒がしく感じられた、まったり一家だ。
執事さんは、
「はてさて、どなたか来られたかな。王はまだ来ないと思うが」
と言いながら、ノックの音がしていた玄関を開けた。
「どちら様でー、げっ、随分と大勢さんですがえーと。外にいらっしゃって構わないと、中にお入りなのは、あ、本物の方々。どうぞお入りください。皆様リビングにお揃いです。どうぞどうぞ、ご遠慮なく。いえ構やしないでしょう、取り次ぎに行かなくても。セーン様からこちらの皆様方には遺恨無しと報告が有っています。そういえば先ほどクーラ様も城からお帰りで、あ、御存じ。それでこちらへ?はいはい」
執事さん、リビングルームのドアを開け、
「レン様と、ジュール様のお帰りでーす」
と言って彼らを通した。すっかり何事もなかったような雰囲気である。出かけていたけど戻って来た感じ。それで間違いは無いと言えるが。
「えぇ?」
思わず驚きの声、まぬけ風と言える声が出たセーン。
セーンは執事さんの平常心のお世話ぶりに、平常心をなくしそうになったが、クーラはまだ寝間着のままでも、気にせず、
「あーら、久しぶり」
とか言い出した。生憎普段着を出したものの、ぶかぶかすぎて現在補正中である。分かっているのはリビングでまったりの面々だけで、
「わっ」
やって来たレンとジュールはクーラの格好に大慌ててある。思わず部屋を出ようとすると、
「あら良いのよ。今日は出血大サービスの日なの」
とクーラが言うし、ユーリーン婆も、
「クーラ奪還記念日の大サービスなの。あたしも寝間着で良かったのに、ニキが着替えろって言うから、あたしのサービスは要らないのっ、ニキ」
「要らないよ、此処に鏡を置こうか」
そこへ、レンとジュール用のお茶と、女性の御機嫌取り用のスイーツを運んできた執事さんが、
「ささ、大奥様。プリンがようやく固まりましたよ。今日はコックが何故か休暇を取っていて、不手際でございましたね。お待たせして」
するとレンが鼻にしわを寄せた。
「匂うな。そのプリン」
「マッ、何の匂いよ」
ユーリーン婆、プリンが変だと分かり大いに不機嫌になった。
「下剤用の薬草が多量に入っているな。まぁ、下剤じゃ死ねないが」
「まぁ、食べたらきっとおいしくないわよ。ダレッ、意地悪なのは」
怒りのユーリーン、辺りを見回す。この面々の中に居るとでもいうのか。
「あたしの侍女の意地悪に限りなく似ているやり口ね。侍女付いて来たのかしら。まさかね」
「レン、誰がやったのかわかるかな」
こんな時も冷静なジュールか言うと、
「あー、だいぶ前に地下に行く時、使えないから捨てた使い魔の奴ら、使用人で入っているな。俺が戻って来たから行動に移しやがった。ごめんママ。俺の所為だな」
「へぇ、この家、使い魔に恨まれていたのか。そいつらも魔物だったりして?」
セーンは台所の様子を観察すると、コックは居ないが他はいつものメンバーである。
ため息交じりにニキ爺は、
「俺の館はどうなってしまったんだ」
そこへ台所の担当の女性が、見習いコックさん数人に引き立てられ、泣きながらやって来た。
「離してー離してよー」
見習いコックさんのひとりが、
「こいつ子供のころからお館に居たくせに、最近様子が違って来たから、注意して見ていたが、今日、とうとう、変な薬入れてケーキ作っていやした」
ニキ爺さんはじろりと、そいつを見て、
「こりゃ、何処の使い魔かな。内のじゃないのが混じっていたな。いつの間に入れ替わったのかな」
「今朝の朝ご飯は普通だったよね、ユーリーン婆」
「そーね、まだ下っていないし」




