第11話
セーンは電話を切って、皆で騒いでいるキッチンへ行ってみた。
「わっ、執事さんしっかりして」
セーンは無意識に癒し始めていたようで、倒れていた執事さんはすぐに目を覚ました。
何事もなかったかのような目覚め方だったが、ヤモちゃんは『執事さん、天国行きそうだった』と呟いた。
「お助けいただいたようですね。ありがとうございます。えーと、魔物は・・・」
『皆が集まったら、逃げた』
「ヤモちゃんによると、逃げたそうです。何があったんですか」
「はい、私がキッチンに行ってお茶を淹れようとしました所、忍び込んでいた魔物が飛びかかって来て、私より魔力が多い奴で、そいつともみ合っているうちに、面目ない事に気を失ってしまったようです」
「何時ごろかな」
ヤモちゃんが執事さんの腕時計を指さす。6時52分で止まっている。
「僕が下に行こうとしていた頃だ。あいつがやったのかな」
「あいつとは?」
「偽物っぽい親父だよ」
「レン様が来られていましたか」
「それが偽物っぽかったんだけどな」
「偽物っぽい、本人でしょうね」
「どうして本人だと分かるの」
「私は彼とは長い付き合いになりますからね。気配でわかるんですよ」
執事さんは分かったそうだが、セーンはいよいよ分からなくなっていた。
「どうするかな、今から」
『しろいく』
「ふうん、使い手が分からない時は、使い魔の言うとおりにするのかな」
『ヤモいうとおり』
「分かったよ。行こう。えーと、荷物は・・・」
『もてく』
「今のは、ヤーモちゃんだね」
『そ』
両ポケットに使い魔を入れて、セーンは城へ行った。門番さんはセーンを顔パスで通してくれた。有名になったものである。
係の人に聞くと、ニキ爺さんたちは宰相の部屋に居るそうだ。どういう事だろうか。疑問で膨れ上がるセーンである。ノックだけして、取り次ぎ無しで自分でドアを開けたセーン。
「この宰相様はどっちなのかな」
ユーリーン婆さんは、
「セーンったら、いつの間にかお城になれちゃってる」
かなり感動している。しかし、ニキ爺さんは、
「セーン、此処にヤモ一家は無しだからな」
「はいはい。すぐ恩を忘れちまう爺さん」
「言っておかないと、お前に付いて来たヤモたちが壁に張り付くぞ、お前が城に入り浸ったらヤモも入り浸るからな。それを想像したくないな。俺が責任を取らされる」
正体は不明なリーが、
「爺さん、意外だな、保身を考えているのか」
「セーンが一人前になるまで、王にガン付けられるわけにはいかん」
セーンはここに来た理由を思い至った。
「爺さん、それはそうと、こいつは本物のリー?それとも親父?」
あきれて、爺さんは、
「お前の親父じゃないか、分からないのか」
「今朝、館にも来たのはお前か?」
呆れたようにリーに化けた親父が、
「俺はずっと此処に張り付いているんだ。一応見張りをしているから、此処を動くわけにはいかない。魔王が出てきそうだからな」
「そこんところは同じことを言っているな。化けて無い親父を見た事がないから、本物かと思ったけど、偽物だったらしいな。だけど執事さんは本物だと言うんだ、魔物にやられたから、具合が悪くて間違えたのかな」
「なにっ、魔物が来たのか、館に入ったのか」
そこで、この場の全員が大声を上げた。声を合わせている。さすが親子。こっちが本物で正解だろう。ユーリーン婆も興奮すると、男言葉になる。若い頃、兵役があって、しばらく兵隊さんだったかららしい。
「うん、僕が癒しで助けたけれど、魔物にやられて死にそうだったんだ。そうなると、あいつは親父に化けた魔物なんだろうな。黒蛇軍団には入るなとか、もうすぐ魔王が出てくるから黒蛇は忙しくなるし、危険だと言って、自分が剣術を教えてやるとか言ったよ」
ニキ爺さんは、
「おのれ、おそらくそいつは魔王の側近だろうな。お前をさらいに来たが、能力を見て、自分にはさらう能力が足りないのが分かって、帰ったのだろうな」
リーに化けたのも言った。
「魔王の側近も尻尾を巻いて逃げ帰ったか、セーンは別に剣の技など無くてもパワーで勝つんだろう。なまじっか剣を持たせた方がパワーを出すのを忘れて危険だろうな。そのままで良いだろう」
「そう言われても、何をしたら偽親父が逃げたのか知らないよ。あ、ちょっと腹が立ったから怒ったかも」
『おこたら、こわかた』
「あ、ヤーモちゃんが怖かったって言ったね。怒っていたらパワーが出るらしいな」
「まあ、そんな小さな子とも話せるのね。セーンって不思議な力もあるのね」
ユーリーン婆がまた感心し出した。昨日のように不可思議な会話が始まりそうだとセーンは感じた。しかし、聞かずに済ますわけにはいかない。
「小さいのと会話したら不思議なんだ。どうして」
「だって、赤ちゃんと会話はできないものでしょう。その子、先月生まれたのよ」
「そんなはずないよ、それほど小さくないよ。お婆ちゃんは違う子と間違えているんだよ」
すると、ヤモちゃんが、
『ヤーモは先月生まれた』
「あ、ヤモちゃんが教えてくれた。お婆ちゃんの言ったことは正しいよ。先月生まれたって。でも、人間と違ってすぐ大きくなるんじゃないかな」
「体は大きくなっても、たった一か月で会話はできないでしょ。人間じゃなかったらなおさら言葉は分からないものと思ったけど。あ、人間はもちろん一か月でしゃべれないけど」
段々お婆ちゃんの話が不思議になって行く。この辺りでやめたいセーン。
リーに化けたのが、
「テレパシーだよ。言葉じゃないな。他の奴ともテレパシーで会話している。あ、会話じゃなかった」
こいつも不思議系になって行く。親子だな。
ニキ爺さんが、唐突に違う話題に変える。
「館に魔物が来たって事は、住めるかなあ、あそこは。魔王の側近だろ。ひょっとしたら魔王ご本人が来るかもしれない。ユーリーンは若い頃魔王にさらわれたし、どういう訳か、魔王に目を付けられるんだよな。こいつら、しかし、ユーリーンの孫だからな、子供を飛ばしている。一代飛ばした理由が分からんな。あ、似たのが生まれていなかったからか」
すると、リーに化けたのが、自説を披露する。
「飛ばしていないんじゃないか。古の王女似が居たじゃないか、狙われるのは古の王女似の奴だろ。ジュールがそうだったろう。戦死したって?死体は家に戻ったのか、俺は付き合いが無かったから、葬式にはいかなかったが、爺さんたちは親類だし行ったんじゃないか。本人だったのか」
ユーリーン婆は、
「行ったけど、遺体は見せてくれなかった。魔物に燃やされて炭になったとか言って」
リーに化けた親父言う、
「という事は、本人の遺体とは限らないんじゃないか。魔王の所に攫われてしまったんじゃないか」
「いやっ、何てこと言うの。誰かに聞かれていないでしょうね。そこドアちゃんと閉まっているの。ただでさえ気鬱のクーラにはとても聞かされない話よ。もう黙っていてよ。リー様」
セーンは思った。『クーラ叔母さん気鬱なのか。だけどどうして気鬱になったんだろうな。ジュールさんは親の決めた婚約者だったのではないかな。もし、相思相愛だったら、婚約破棄とかするかな。普通は』
事態はとうとう混沌としてきたように感じたセーンである。




