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93 選択

寝るに寝られず、徹夜になってしまった。砂漠の水も徐々に引いて来ており、今なら脛くらいまで濡れれば地面に足がつくだろう。イルを抱え続けて腕が疲れたので、今はクッションに一緒に寝そべっている。もう空は明るい、早く起きないかな。


「Aaaaahhh――ああ、あ?」


急にイルが叫んでびっくりしてしまった。寝そべったまま飛びあがったのは初めてだ。イルの方も、体感的には一瞬前と随分景色が変わったせいか驚いてきょろきょろと首をめぐらせている。


「おれ?俺――あれ?」


今にも弾けんばかりだった魔力が穏やかになっていく。どうやらレベル30になったのであの狂乱状態からは脱したようだった。


「なんか色々あって、イルはちょっと時間を止められてたんだけど。鷹龍さんって方がイルの為に何かしてくれたみたいで夜明けとともに解放されるって聞いたから待っていた。進化できるみたいだぞ、どれになりたいか選んでくれ」


我ながらだいぶ端折った説明をして、ウィンドウをイルの前に引っ張った。


「鷹龍……え?おさが何で?だって俺追放されて――ッ」


鷹龍さんの事はやはりイルも知っているようで、そしてやっぱり偉い龍であったようだ。そうだよなあ、指5本あったしな。イルが大事そうなことを暴露したけれど、聞こえなかったふりをしてウィンドウをイルの顔の前に再度引っ張る。


「何になりたいんだ?龍絡みならこの3種類、竜も幾つかあったけれど一応見るか?」


イルはしばらく私の顔を見て呆然としていた。何故聞かないのかとでも言いたそうだ。だが、私の方には詮索する気はないので早いところ進化先を決めてほしい。好きなだけ迷ってもいいように、私は糸を海に伸ばす。折角なので、普通の魚を少し捕って帰りたい。今のところ魚料理を一切見かけていないので、そろそろ食べたいのだ。


「り、竜の方はどうでもいい……です。水龍と、嵐龍と、龍人……?なんか、詳しく分かったりしませんか」


ん、確かウールちゃんたちはレベル1のステータスを見比べたと言っていた。名前を一度つつくと別ウィンドウに簡素なステータスが表示された。見比べると確かに特色が違う。無意味に強力なのには変わりないが、水龍はStrとVitがより伸び、嵐龍はMndとIntが高く、龍人はDexとAgiに優れるようだ。どんな形かすら教えてくれない辺り不親切である。


「殆どわからないままですね。わからない、けど……」


イルは、ウィンドウから海に目線を外した。遠くを見ている。隣で魚を釣っていて申し訳ないような真剣な眼差しである。あ、当たった。釣れたのは鯖っぽい魚である。ついでに糸で頭を落として腹を開け、ストレージに回収した。内臓は――まとめて埋めておこう。


伸ばした糸にじゃんじゃん当たる魚たち。現代日本では有り得ない入れ食い状態である。いろいろ釣れる魚から食べられる魚だけ下処理をしてストレージに収納すること小一時間。イルは心を決めたらしく顔を上げた。


「よし決め――って、辰砂それ何ですか」


カワハギみたいな鱗のない魚が続けざまに釣れたので、皮をまるっと剥いで海水に漬け、糸で干しているところである。一夜干しだと答えると、イルは脱力してクッションの上に伸びた。


「なんだよー……気が抜けたじゃないですかー」


それは悪かった。けれどもイルの龍生であるのだから、私には口出しする筋も権利もないわけで、そうするとちょっと暇だったと言うだけの事である。


「まあいいじゃないか。それで、どうするんだ?」


どうしたいか決まったのだから、釣りは終わろう。でももう少し乾くまで干しておきたい、いっそ飛ぶ時後ろに流そうかな。風で乾きそうだ。


「ん、俺は龍人になろうと思うですよ」


あれ?私の予想とは違った。一番選ばないと思ったのに。イルの抱える事情からして、成りたいのは水龍だけれど成るのは嵐龍だと勝手に思い込んでいた。


「辰砂が聞かないでくれるから言わないけれど、俺は水龍には成れない――選べるけれど、成りません。嵐龍の事は、辰砂は何か知ってますか」


嵐龍に関して?知っていることなど皆無である。せいぜいイルルヤンカシュと言う嵐を司る龍がいて、どこかの神だか英雄だかと戦ったくらいしか知らない。


「最も有名な最初の嵐龍は神殺しで、嵐龍は最も邪龍に近い龍だと言われてるのです。その証拠に嵐龍は、光の下に居られない。嵐を纏って影を作らなければ生きていけない龍なのです」


一度言葉を切ったイルが、息を吐いた。


「俺は、邪龍に成っても仕方ないと思ってました。そういう風に育ってきたと思います。だからいずれ成るなら早く成れと思ってました。でも、ここにある選択肢は邪龍じゃなかった。俺はもしかしたら……陽の当たる処で生きていいのかも知れないから、龍人にします」


イルがこちらを真っ直ぐに見て笑い、龍人に決定したのが見えた。迷う様子もない、そう決めたのならそれでいい。ウィンドウが弾けてイルが光り始めた。眩しい。


「それに、辰砂が戦う調薬師なんですから、俺は手芸家の龍人ぐらいにはならないと釣り合わないじゃあないですか?」


ええ?最後の理由はだいぶ蛇足だろう。後でデコピンしてくれる――手が届けば、だが。今は眩い光が収まるのを待つばかりである。


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