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午前6時のアラームが鳴った。しっかり睡眠をとった私はアラームに従って素直に起きる。昨日は採集した薬草全てを調薬して、カリスマさんに卒業した旨をメッセージで伝えた後はすぐにログアウトしたのだ。日付も変わらぬうちから小学生の如く熟睡した私は元気いっぱいであった。


洗濯と朝食を済ませて7時にはログインした。∞世界では丁度夜明けの頃で、カリスマさんとの約束に間に合う時間だ。イルに魔力を渡していざ出発。今日は南門にて待ち合わせである。


「おはようお姫様。今日もよろしくね。それにしても、卒業が思いのほか早くて嬉しいわ」


「おはようございます、カリスマさん。私も驚きました。そんな素振りなんてなかったのに、急に一人前扱いされたもので」


仲良く話しながらニサウス洞窟を避けて南の関所に向かった。完全にゴーの街行きの関所と同じつくりである。厳めしい顔の兵士が通行を妨げるところも同じだ。


ギルドカードの提示を求められ、見せる。注意事項はトレインの事ではなく、MPKに関してだった。MPKとは自分で相手取った魔物を他人になすりつける行為の事である。


「気をつけます。ありがとうございました」

「ご親切にどうも。お兄さん素敵ね」


二人でお礼を述べて、草原を進む。イチの街の周辺の草原とあまり変わった様子は見られない。兎が時折はねているのが見える。街道を進んでいると、体高がカリスマさんくらいありそうな兎が丸まっているのが見えた。立ち上がったらもっとあるだろう。額の角が強そうである。


『Warning!! Field Rabbit Appeared!!』


見た目通り、この兎がフィールドボスであるようだ。カリスマさんが棒を構え、ウールちゃんがやる気満々でカリスマさんから降りた。イルはどうする?


「せっかくだから参加します。あんま強くなさそうですが」


言いにくい事をストレートに表現したイルがフードから抜け出した。では、私も糸を解して向かいましょうか。


「おオッ!!」


初手はカリスマさんであった。金剛力士の体躯を存分に生かした恐るべき打撃が側頭部を狙う。兎は俊敏にそれをかわした。ファングラビットと違い、歯はげっ歯類の物のようだ。


「シッ」


イルが風を巻き起こして兎の左耳が裂けた。ボス相手に易々と損傷を与える辺り流石である。HPバーも目に見えて減った。とりあえず私は足を止める方向で援護に入ろう。ウールちゃんが蹴られるところは見たくない。


「キーッ」


兎が声を上げて跳んだ。大きい分脚力も強いのだろう、鋭い角が刺さったら即死しそうな勢いで突き進む。とは言え、狙ったイルは空中にいるし、紐みたいなサイズでしかない。ひらりとかわしてしまった。その後ろ頭をカリスマさんがぶん殴る。森熊から考えると、この兎は少し弱すぎる気がする。


糸を刺すには少し足が速いか。となれば網に追い込む方が確実であろう。網を編むが、腕輪が仕事をしているらしく随分楽だ。カリスマさんに右側に追うように声をかける。上から覆う様に展開させて、


「……ンメ!」


ウールちゃんが先にかかると言う悲しい事態。引っかかった場所が端に近かったので、そこだけ解くが間に合わなかった。解けたところに兎が角を付きこんで網をはねのけてしまったのである。


「ウールちゃん!」


とりあえず、網と踏まれそうなウールちゃんを回収することにした。飛行を駆使してウールちゃんをかすめ取る。兎の脚力はかなり強いので、踏みつけと後ろ蹴りが最も気をつけるべき攻撃だろう。


「……ンッメメ、メメェ!」


これは私にもわかるぞ、ウールちゃんはなぜ邪魔するのだと怒っている。ごめんって。兎から少し離して降ろし、ちょっと考える。


「お姫様、角だけでも絡め捕れない!?」


カリスマさんからの要望が聞こえた。成程、一か所だけなら素早く編めるか。


「3秒後行きます!――今!」


合図と同時に角を捕った。大きくとも角だけなら精々人の脚くらいの太さである。強度を上げるのも自由自在だ。


「ンギィーー!!」


にわかに角を引っ張られた兎は頭を振り回した。踏ん張るが、体格差がありすぎて私の脚が浮いた。こんな綱引きは初めてである。どう往なせばいいのかよく分からず、ひとまず糸の端を解いて地面に刺し込んだ。後は地面に戦ってもらおう。


次に狙うのは後ろ脚だ。一本ずつだと蹴り飛ばされるので太く縄状に縒り上げ両足にかけた。輪を締めあげれば頭と足を固定された兎の出来上がりである。これならウールちゃんも蹴られまい。


後は袋叩きで終了であった。一度足を止めてしまえば、地面と縫う便利な技も使えるのである。終わった後、ウールちゃんにお説教を食らったのが一番堪えた。


「ウール。辰砂だってちょっと協調性がないだけなんだから、そんなに怒るなですよ」


と言うイルの悲しいフォローが心に痛かった。


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