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「随分集めたんだねえ……ストレージでなければできない量だね」


 取り出した薬草は、端数を覗いてポーション600本分くらいあった。スーパーポーション用の薬草より沢山生えているとはいえ、幾らなんでも集めすぎたかもしれない。


「以前の依頼の時と同じ値段で構わないかな? ……ああ、心配しないで。お金だけは沢山儲かったから、問題なく払えるよ」


 本数が本数だけに、金額もかなり大きくなってしまうが、先生は手早く計算して、ポーションとマナポーション、計10種で135000エーンを支払ってくれた。流石に端数分はこちらで遠慮した。弟子としては気が引ける。


「そう言えば先生、以前のように依頼を出されればよかったのではありませんか?」


 ふと、思い出して聞いてみた。そうだ、この薬品店に出会ったのはギルドの依頼がきっかけだったのだから同じようにすればよかったのではないか?


「うん、そう思って出していたんだけどね……正直実入りの良い依頼ではないし、時間もかかるからなのかな。引き受けて貰えなかったんだよ。自分で行かないと間に合わなかったから今はもう引き上げているんだ。まあ、草むしりって面白くはないだろうしねえ」


 先生の肩が落ちた。涙を禁じ得ない悲しみの裏事情である。つくづくこの世界は調薬師に優しくない。


「せ、先生。良ければせめてお手伝いしますが」


「ああ、いや、それはいいよ。まだ営業中だしね。それと、すまないが。魔法鞄の方は200000エーン以内でおさめてもらえると嬉しいよ、どれくらいの容量になるかはわからないけれどね」


 手伝いの申し出は断られてしまった。まあ、無理強いすることもない。鞄の予算についても確認したし、そろそろ精霊さんの所へ行こうか。


「辰砂、投げつけるポーションの話聞いてないですよ。いいの?」


 そうであった。元々その話をしに来たのに私は何をしているのだ。我ながら流されやすくて嫌になる。


「先生、ポーションを投げつけて使いたいのですが瓶が勿体ない場合、何か便利なものなんてご存じないでしょうか?」


「え、投げつけるのかい? ああ……ああ。いくら言っても瓶が返ってこないと思ったよ……そうなんだね。うーん。投げつける前提で、運搬出来て。容器、いや液性を……粘る……そうだ、ゴーの街には行ったことがあるかな?」


 グレッグ先生も、瓶が返却されないことを不思議に思っていたらしい。私の質問には何か心当たりがあるのだろうか?


「いえ、なんでも森で迷うと聞いたのでまだ行っていませんが」


 多分まだプレイヤーはたどり着いてないはずだ。グレッグ先生はそうかいと残念そうに言った。


「ゴーの街辺りに出るストレッチワスプの巣がね、向いてると思うんだけど」


 なんでも打撃攻撃に強い耐性を持つ蜜蜂型の魔物で、巣が独特の形状をしているらしい。ハニカム構造ではあるそうなのだが、採集した巣に衝撃を与えると部屋一つ一つがばらけるのだそうだ。


 ばらしたものを乾かすと、丈夫なのにある程度の衝撃を与えると弾けると言う性質が備わるそうで。ゴーの街で行われる水弾をぶつけあう祭りの弾として使われているらしい。


「ぴったりですね」


「ぴったりだろう?」


 顔を突き合わせて悩む羽目になってしまった。最前線組プレイヤーでも行けていない街に用事が出来るとは露ほども思わなかったのだが。


「あの森はね、先導者がいるんだよ。ドングリンと言う、何なんだろう、精霊の類なのかな。彼らを無視したり、機嫌を損ねると迷うんだ。森の入り口で挨拶するだけでいいんだけどね。『どんぐりころころどんぐりこ』って」


 あっさり出てきた攻略情報の扱いに困る。そして合言葉が格好がつかなくてまた戸惑う。そんなのでいいのか。


「ああ、後は水を持って行って森を抜ける途中にある祠を掃除すると、ゴノース森で採集するときに運がよくなるんだって。ドングリンは掃除の恩は忘れないでくれるんだそうだよ、まあこれは言い伝えの域を出ないんだけど」


 一応私も通るときは掃除しているよ――と、相変わらず信心深いグレッグ先生の助言を得て私はノース山へ向かったのであった。自分では使わない容器よりも、私たちは精霊さんを優先するのだ。


「まああ辰砂ちゃん! よく来てくれたわねえ」


 精霊さんと思しき方が私たちに飛びついて来てくれた。イル共々驚きながら、精霊さん(仮)を受けとめる。


「ばーちゃんがばーちゃんじゃなくなってるです! なんで?」


 とても失礼だが、イルの叫びは実に的を得ていた。だって精霊さんが老婆ではなく初老の女性になっているのだから。老いの影が薄れてきている。


「うーん、辰砂ちゃんがくれたブレスレットを着けてたらだんだん若返ってきたのよねえ。特別何か感じたりはしなかったんだけど、ブレスレットの色は薄れてきちゃってるの」


 ご本人にも若返りの仕組みはわかってないと言う事か。ひとまず、色が薄くなったというブレスレットを見せてもらおうか。外してもらって一旦預かる。識別すると、耐久度が残り11と言うことになっていた。


 一度イルに魔力を引っ張りださせて空にし、再度限界まで魔力を注ぐ。これ以上入れたら壊れるな、と言うのが感覚的にわかるようになっているので苦労することもない。壊れるギリギリが2500MPほどだった。精霊さんに改めてお返しする。


「きゃあ、辰砂ちゃんたら凄い魔力ねえ。こんなに使って大丈夫なの? そう? ならいいけど、おばあちゃんの為に無理しちゃ嫌よ」


 気遣わしげな精霊さんに大丈夫ですと頷いておいた。それにしても、魔法も使わないのに魔力が減るとは不思議なものだ。いや、イルは魔力を食べるわけだし精霊さんも無意識に食べているのかもしれないなあ。


「ばーちゃん、俺ねえ憧れの人がいるんだですよ――」


 イルがにこにこしながら離れている間の出来事を一生懸命喋っている。精霊さんもにこにこしながら聞いている。はあ……久しぶりの空間は居心地が良くて素晴らしい。水筒に水を汲んで、後は二人のおしゃべりに耳を傾けることにした。


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