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「ポーション屋さぁん」
もしかしてストーキングでもされているのか。どの時間にも登場する少年少女達にポーションを売りつける。しかしこれだけの勢いでポーションを購入していたら資金も付きそうなものだが、そんなに儲かるのだろうか?
「ああ、素材殆ど売ってますから。俺ら全員生産職じゃないから、装備を新調する分しか残さないんで」
いつの間にか財布係が変わったらしく、取引自体は一番影の薄い少年が行った。聞けば、装飾品にパーティ資金を突っ込んでしまった某メンバーがいるらしく強制的に役割を変えたのだとか。ポニーテールの少女があからさまに顔をそむけている。
「成程。優秀なパーティなんですね、ところで新しい街にはもう行かれましたか」
気まずい雰囲気を払拭すべく私はアップデートの話題を持ち出した。もう行っていれば多少情報が得られるかもしれない。
「ああ、行ってみましたよ。サンの街とヨンの街にはね。ゴーの街は行くのに条件があって、すぐにはいけないみたいなんですよね。俺らも今行き方模索してて」
サンの街はニーの街から南の関所を抜けた先、ヨンの街はニーの街の北の関所を抜けた先にあるそうだ。それぞれボスがいるのだが、状態異常も使ってこない普通のボスで、なんてことなく倒せたらしい。
「拍子抜けだったよな、狸と言い兎と言い」
「んーまあ、正直ね」
口々にちょろかったと告げる面々。まあ、パーティならそうかもしれないが。ゴーの街はイチの街の南の関所の先にあるらしいのだが、森が深すぎて迷った挙句気づいたらイチの街に戻っているらしい。抜けるための条件を探していると言う事だろうな。
「そうですか……ところでお嬢さん方、新しい装飾品はご入り用じゃありませんか?」
「ポーション屋さん! さっきの話聞いてくれてました!?」
財布係の悲鳴をよそに私はイル謹製の可愛い根付たちを取り出した。
「今ならご希望の魔法を付加できる付加守がお買い得ですよ。魔法の威力を上乗せしてくれる優れもので、使い切ってもわずかなお値段で再充填いたします」
「ふぁー……可愛い……」
「こないだのブレスレットもかっこいい系で良かったけど、これも良い……」
女子二人の心はつかめているが、財布係がうるさそうだ。一度買えば何度でも充填できるので財布にも優しいと思ったのだが。
「でもこれって一番要るのシュンじゃね?土も風も樹も全部シュンなら使えんべ?」
一番空気の読めなさそうな最後の一人が暢気な意見を述べた。女子たちの目が険しくなり、財布係もきつい顔になる。まあ、誰が買っても私は嬉しいのでもう少し様子を見よう。
「……くぅ」
「……次は水魔法取るもん」
前科があるせいか、睨み合いに負けたのは女子2人であった。財布係は嬉々として立ち去ろうとしたが、肝心のシュンが3連型の根付を握りしめている。威力上乗せと言うフレーズは思ったよりも効果が大きかったらしい。
「しょーがなくだからな! 風と土と樹で頼む」
はいはい。財布係はハンカチを持っていれば噛み切ったんじゃないかと言う顔であったが、きっちり10000エーン頂きました。毎度。
再度充填は一属性300MPにつき1000エーンで承る旨と、初回付加はそれぞれ600MP付けた旨を伝えて渡した。
「お気に召したら宣伝してください。返品は受け付けませんが」
「受け付けてほしかったです」
そんなわけがないだろう。恨みがましい視線を受け流してお見送りである。
「……ンメ」
ん? ウールちゃんが足元で鳴いた。話が終わったのか。試着室にイルを迎えに行く。明らかにイルが疲れた様子で項垂れていた。
「どうしたんだ?」
「……いや? 蓼食う虫も好き好きって言葉の意味を習ってただけ、ですとも」
よく分からないが、詳細は教えてくれそうにない事はわかった。身体を引きずるようにフードの中に隠れる。いったい何喋ったらこんなになるんだろう。
どこか満足げなウールちゃんとの様子が対照的ではあったが、カリスマさんはウールちゃんと言葉が通じていないそうだ。イルが口を噤んでいる限り真相は闇の中である。残念ながらそのあとは客も来ずに夜を迎えたのであった。帰って寝よう。




