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翌朝。顔を水龍が横切っている以外は爽快な目覚めである。掴んで放ろうとして、思い直してベッドの端に投げた。一応パートナーとやらになったんだった、物凄く成り行き感があるものの。
水龍、イルルヤンカシュの方はいたって普通で、そうなんだ程度の反応しかしなかった。こいつ本当に解っているのだろうか?うっかり結んだ絆のせいでこいつは湖だか海だかに居付く事が出来なくなったのに。
「んぐぁ……すぴー……ふしゅー」
涎垂らして腹を上向けている姿には『災龍』だなんて物騒な枕詞が結びつかない。人違いならぬ龍違いなのではないか。
「いい加減起きろ。飯要らないのか」
「おはよう辰砂!飯だメシ!」
狸寝入りだったのかと疑うレベルの寝起きの良さである。魔力塊を渡して椅子に座る。今日も食欲旺盛だ。食べる様子を見守りつつ、そう言えばと思いだした事があった。
「イルルヤンカシュって呼びにくい。イルとルルとヤンとカシュだとどれが良い?」
そう、まあ確かに謂れもある立派な名前ではあるのだが、いかんせん呼びづらいのである。咄嗟にこの名前が呼べるかと言われるといささか自信が無い。
「その中ならイルかなー。なんか昔そんな呼ばれ方してた気がするし、しっくりくる」
むしゃむしゃと魔力を平らげつつも回答は明瞭であった。まあ魔力を咀嚼するわけでもないしそれはそうか。
「わかった、イルだな。親か何かが呼んでたのかも知れないな」
マナポーションを二本飲む。昨日の急激なレベリングのせいで、手持ちのマナポーションの回復量では追いつかなくなってしまった。しかし、手持ちの薬草と調薬道具では品質Cも危ういわけで。
「イル、私は暫く読書する。騒がしくしなければ遊んでいいし、暇なら寝ててもいいぞ」
邪魔するなよと言い含めて、私は『ニーの街周辺の薬効植物』を読み始めた。白黒だが特徴を良く捉えた絵がわかりやすい。驚いたのが、薬効は劣るものの代用品として使えるものにイチの街で使っていた薬草類が記載されていたことである。つまり、材料を変えるだけで効力がぐんと上がったポーションなどができる可能性があるのだ。
薬草類の名前も覚えやすくて素晴らしい、草の名前の頭にスーパーと付いているだけと言う手抜き仕様である。スーパーナオル草ってなんやねんと思わず突っ込みを入れてしまった。
材料を仕入れてポーションを作ってみるのが先決か。ニーの街の薬草が初心者セットでは扱いきれないようだったら、フェンネル氏を訪ねるべくイチの街仕様のポーションを地道に売り続けるしかない。
図鑑から気になる所をメモ帳に抜粋し終え、図鑑は最後のページに辿りついた。作者の名前が印字されている。『グレッグ・モグリ』。グレッグ先生であった。田舎町に居るけれど、実は有名人なのかもしれない。
マントを着てフードをかぶる。イルはすっかり心得ていて、マントを取り上げたら背後に張り付くので互いに手間がない。
「次のマントを仕立ててもらう頃には、目立たなくなっているといいんだが」
1パーティに1体くらいの割合で連れていればイルが浮いていても目立つまいに。わざわざ首辺りがこそばゆいのを堪えることもないのだが、気の長い話になりそうである。
「俺らとまず意思疎通しないと駄目なんだっけ?俺もばあちゃんから頼まれてなきゃあんな一生懸命話しかけてないしなー。難しいんじゃね」
イルもそう思うか、私もそんな気がしている。まあいい、行こう。部屋を出ると、香ばしいいい香りが漂っている。腹は膨れないのだけどから揚げ食べたい。
「んはあー。いい匂いすんなー」
イルまでそんなことを言う。なんだ、魔力しか食えないのではないのか?聞いてみたが、私と同じである旨が返ってきた。
「腹は膨れないけど食えるよ、辰砂と一緒。こんないい匂いする食い物なら食いてえなあ」
「そうか。朝食としてなら頼めるかもしれないな、1つやろう」
「1個だけとかケチかよー」
どうでもいい掛け合いをしつつ階段を下りて厨房の方を見やった。イッテツさんが鍋の前に立っていた。側のバットとボウルに少量ずつ肉が並べられており、どうやら複数のパターンを揚げ分けているらしい。
揚げ物は邪魔するとしくじるので、ちょっと待つことにした。まず間違いなくコンテスト向けの料理だろう、出す客がいないのに朝食を作る意味がない。おいイル耳元でふんふん匂うんじゃない。音が気になるだろ。
揚げ終わったのを見計らい、声をかけた。こちらに気付いていなかったらしく驚いていたが気にせず手元のから揚げ風の物体に話題を持っていく。
「それはコンテスト用の献立ですか?もしよかったら朝食分も支払いますので少し食べさせて貰えませんか、物凄くいい匂いでお腹がすいてしまって」
食事は要らないと言っておいた手前、ちゃんと払うアピール位はしておかなければね。イッテツさんはなぜか躊躇っているようだった。そこに、表を掃いていたのか箒を持った女将さんが戻ってきた。
辰砂 Lv.38 ニュンペー
職業: 冒険者、調薬師
HP:690
MP:2060
Str:400
Vit:200
Agi:400
Mnd:555
Int:555
Dex:530
Luk:230
先天スキル:【魅了Lv.7】【吸精Lv.2】【馨】【浮遊】【空中移動Lv.5】【緑の手Lv.2】【水の宰Lv.2】【死の友人】【環境無効】
後天スキル:【魔糸Lv.3】【調薬Lv.15】【識別Lv.13】【採取Lv.21】【採掘Lv.19】【蹴脚術Lv.4】【魔力察知Lv.6】【魔力運用Lv.8】【魔力精密操作Lv.14】【隠密Lv.3】
サブスキル:【誠実】【創意工夫】【罠Lv.12】【漁Lv.2】【魔手芸Lv.6】【調薬師の心得】【冷淡Lv.2】【話術Lv.2】【不退転】【空間魔法Lv.6】【料理Lv.1】【付加魔法Lv.10】【細工Lv.2】【龍語Lv.5】【暗殺Lv.2】【宝飾Lv.5】
ステータスポイント:0
スキルポイント:17
称号:【最初のニュンペー】【水精の友】【仔水龍の保護者】【熊薬師の愛弟子】【絆導きし者】
イルルヤンカシュ Lv.15 仔水龍
HP:6200
MP:3800
Str:1000
Vit:1000
Agi:300
Mnd:500
Int:500
Dex:300
Luk:100
スキル:【水魔法Lv.8】【治療魔法Lv.4】【浮遊】【空中移動Lv.3】【強靭】【短気】【環境低減】
スキルポイント:14
称号:【災龍】【水精の友】【天邪鬼】【絆導きし者】