41 から揚げ
「あなた、良いじゃないの。家族だけじゃあ、意見も偏るわよ。せっかくいい匂いだって言ってくださってるんだしご試食いただきましょう?」
強い援護射撃が入り、イッテツさんは一つ頷くと手早く皿に盛りつけてくれた。ああ、なぜ半分に切る。折角の大振りさが台無しだし肉汁が流れるじゃないか。あー!ソースなんかかけなくていいのに!しかも2種類!?何するんだ!
失礼、取り乱しました。内心の動揺を抑えつつも席に着き、運ばれてくる。近くで見ると、から揚げではなく素揚げとフリッター様の衣の2種類だった。ナイフとフォークが添えられているが、もう切られているのでフォークで刺して口に運んだ。
うーん。熱々なのは良いけれど、上のデミグラス風ソースは相当邪魔である。なんで揚げ物にデミグラス。そしてもう片方はホワイトソースっぽい。くどい。レモンが欲しい。そして大きい肉に火を通したかったのはわかるが揚げすぎでパサパサである。パッサパサである。
肉自体に下味はなく、したがって素揚げの方はソースの味で食べる物体であった。ソースじゃなくて塩の方がだいぶ美味しく食べられる自信があるぞ。フリッター風の方はフリッターに塩と砂糖が入っているのか?衣がふわっとして口当たりは優しい、が、くどさ倍増である。思い描いたから揚げとのあまりの乖離に、一口ずつ以上食べることは難しかった。
「……どう、なんて……聞かなくてもわかるわね……」
多分相当解りやすい顔をしていたのだろう。女将さんが絶望さえ感じさせる青い顔で呟いた。いけると思ったのに、と吐きだすような嘆きが聞こえた。ごめんなさい。
「……何処が、気に入らなかった?」
イッテツさんも難しい顔をしているが、こちらはいたって真剣であり、まず間違いなく料理を改善しようとしている。期待してもいいだろうか?
「はっきり言うと、くどいです。ソース自体はとても素晴らしかったのですが、揚げた肉と相性がいいとは思えませんでした。また肉に火が入りすぎて口の水分が失われます。素揚げの方は肉自体に味がないのも辛いですし、衣の方は衣の優しさと大きい肉の存在感が調和していません」
「辰砂ひでぇ……」
イルがぼやいたが、だって仕方ないのだ。この際言うが、本来の私は食い意地が張っているのである。だから初期スキルに【料理】も取ったし、【吸精】の味も気になるのである。腹が膨れないとしても、いや腹が膨れないこそ美味しいものが食べたいではないか!
「私の故郷にも、肉を揚げる料理があります。不躾なお願いではありますが、私を厨房に立ち入らせていただけませんか?故郷の料理と比較してみて頂きたいんです、私の言いたいことがきっとわかっていただけると思うのです」
我知らず立ち上がって熱を込めて頼み、頭を下げた。この料理が間違って、失礼、本当に優勝してしまったら類似した料理がどんどん出てきてしまう。どうせ広まるならから揚げがいい。私欲の塊と化した私の背をイッテツさんは見下ろしていたと思う。
「……来な。そこまで言うんならひとつ、やってみてもらおうじゃねえか」
イッテツさんが厳しい顔で告げた。職人の顔だ。ただの食いしん坊ではあるが、から揚げの素晴らしさを伝えてみせると私は決意して厨房に続いて入った。おっとその前にステータスでスキルを入れ替えておこう、役に立ってくれ【料理】。
「肉はファングラビットだ。安い割に肉汁があってしっとりしてるんでな。調味料類はこっちだ、揚げ油はセサミフロッグ油とキャノンフラワー油が半々ずつ、この袋が小麦粉。卵はガーデンニワトリだ、農場が近くにあるんでな」
手早く材料一式をそろえて説明してくださった。お礼を言って肉を大きめの一口大に切る。これは小さいのより大きいのにかぶりつくのが好きだからと言う私情による。簡単に塩を振ってひとまずボウルに置いておく。
「放っとくのか?辛くなっちまうだろうに」
「大丈夫です、そうですね、置くのは20分くらいですから。ハーブか香辛料の類は何がありますか?あと柑橘類」
世界観とそぐわないためなのか、∞世界には日本の調味料は存在していない。大豆はあるのでそのうち誰かが作るだろうが、とりあえず今は無い。胡椒とか香草類で味を決めることになる。
「あんまり使わんからな……胡椒、ナツメグ、ローリエ、生姜にニンニクに、そうだ、裏庭にバジルが植えてある。柑橘類はうちにゃあレモンしかねえよ」
十分過ぎた。しかも、イッテツさんが棚を探しているときに全然違う素敵なものも目に入っている。
「イッテツさん、その束ねてある麺は?」
「スー麺か?二日酔いの客向けだが、何に使うんだ」
素麺でなくスー麺ときたか。一本齧ってみるが完全に素麺である。いいじゃない。少し貰ってボウルに折り入れて麺棒で突いて細かくした。イッテツさんの目が丸くなっていて面白い。
油を温め始めてから肉に【水の宰】を使う。表面の要らない汁を除去した。キッチンペーパーはさすがにこの世界は存在しなかったのだが魔法って便利である。
表面を触ってべたつかないことを確認。味をつけよう、いつもなら醤油ダレに漬けるがそんなものは無いのでニンニクのすりおろし汁単体、生姜のすりおろし汁単体、両方入りと何も無しのグループを作る。塩とも一緒にもみこんで小麦粉をまぶす。このとき好みで小麦粉に胡椒を混ぜておくと美味しい。私はたっぷり派だ。
粉を着けたら鍋に投入。混ざるとわからなくなるので、グループごとに揚げて行こう。
「お、おい!」
制止の声が聞こえたが、大丈夫です。温度が低いと言うのだろう、わかっています。どうせ肉を入れたら温度は下がるのだ、1度目から目くじらを立てることはない。大事なのは後工程である。
たっぷりの油で肉が泳ぐ、温度が低いので出る泡の量は穏やかである。凡そ4分、温度を上げ過ぎないように調整しつつ、音を立てる肉を引き上げる。一旦金網の上で休ませる。物凄く疑いの視線を感じながら、次を投入。生姜とニンニクは焦げやすいのでもう少し気を使いましょう。
次を引き上げたら油の温度を上げる。手をかざしてこんなもんだとあたりを付けたら最初のグループを再度投入する。後ろで息を呑む音がした。もうじき出来ますよ。2度目の揚げは、きっちり高い温度で短い時間が肝である。1分足らずで取り出した。油を切ったら皿に盛り、レモンを添えて出来上がり。
「できました。レモンは好みで絞ってください」
皿を二人の前に置いたら鍋の前に戻った。まだ揚げるべきものは沢山あるので。
辰砂 Lv.38 ニュンペー
職業: 冒険者、調薬師
HP:690
MP:2060
Str:400
Vit:200
Agi:400
Mnd:555
Int:555
Dex:530
Luk:230
先天スキル:【魅了Lv.7】【吸精Lv.2】【馨】【浮遊】【空中移動Lv.5】【緑の手Lv.2】【水の宰Lv.2】【死の友人】【環境無効】
後天スキル:【魔糸Lv.3】【調薬Lv.15】【識別Lv.13】【採取Lv.21】【採掘Lv.19】【蹴脚術Lv.4】【魔力察知Lv.6】【魔力運用Lv.8】【魔力精密操作Lv.14】【料理Lv.3】
サブスキル:【誠実】【創意工夫】【罠Lv.12】【漁Lv.2】【魔手芸Lv.6】【調薬師の心得】【冷淡Lv.2】【話術Lv.2】【不退転】【空間魔法Lv.6】【付加魔法Lv.10】【細工Lv.2】【龍語Lv.5】【隠密Lv.3】【暗殺Lv.2】【宝飾Lv.5】【隠密Lv.3】
ステータスポイント:0
スキルポイント:17
称号:【最初のニュンペー】【水精の友】【仔水龍の保護者】【熊薬師の愛弟子】【絆導きし者】
イルルヤンカシュ Lv.15 仔水龍
HP:6200
MP:3800
Str:1000
Vit:1000
Agi:300
Mnd:500
Int:500
Dex:300
Luk:100
スキル:【水魔法Lv.8】【治療魔法Lv.4】【浮遊】【空中移動Lv.3】【強靭】【短気】【環境低減】
スキルポイント:14
称号:【災龍】【水精の友】【天邪鬼】【絆導きし者】
行動指針は自分の興味の向いた方向、それが辰砂さん。




