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 ここしばらく週末が待ち遠しい日々を過ごしているが、昨日の夜更かしを引きずらないためあえて金曜日はログインしないまま寝ることにした。だんだん∞世界(このゲーム)との付き合い方を掴みつつあるように思う。うっかりはしゃいで睡眠時間を削ると、寝不足のせいでリアルで支障が出る、家に帰れない、ログインできない、夜更かしすると言う負のループができてしまうのだ。


「無理は、良くない」


 そういう訳で、朝食を食べたら掃除を済ませて洗濯物を干す。もちろん早く寝たのであれこれやってもまだ朝6時である。今ログインしたら真夜中だ。ちょっと迷ったが、少年少女に渡すハイパーシリーズを作っているうちに夜も明けるだろうとログインすることにした。本当はフェンネル氏のところに行きたいけれど、どう計算してもまだ一週間しかたってない。追い返されること請け合いである。


 クーの街の宿屋で就寝ログアウトしたせいで、天井が見慣れない感じである。そして蛇ちゃんは人の顔の上を通らないで欲しい。何かと思った。亀ちゃんはわざわざ腹の上で甲羅に引っ込んでいる。なぜそんな安定感に欠ける場所を選んだのだろう。


「おはよう」

「おはようございます。とは言え、深夜ですけど」


 蛇ちゃんを顔から避け、亀ちゃんを掴んで降ろしたタイミングでイルも登場した。今日の挨拶は全員一緒である。亀ちゃんは眠たいのか首がいつもの半分くらいしか出てこないが。


 目覚まし珈琲を堪能したら、クーの街の作業場を探しに行くことにした。


「珍しいですね、こんな時間から辰砂が動くの。フェンネルさんのところはまだ開いてないと思いますけど」


「うん、さすがにこんな時間からは押しかけない。まだ約束の日まで数日あるしね。朝までの間に少年少女に渡すポーション類を作ろうと思ってさ。もう結構待たせてるし、資金も心許ないからね」


 私の説明に、イルはああ、と頷いて口を閉じた。調薬道具は結構値が張ることを思い出してくれたようだ。何しろ彼らは私の太客ですからね。


 さすがに深夜の時間帯には賭博闘技場も明かりを落としていた。夜道を行ったり来たりして、見辛いながらなんとか作業場を見つけ出せた。宿屋と作業場の営業時間は正直世界観にはそぐわないが、こういう時には大変助かる。多分深夜に働く人は神託で特別手当とか出てるんだろうなあ。


「こんばんは、いらっしゃいませ」


 深夜でも変わらない営業スマイルの受付さんに挨拶して、お借りした部屋は汎用棟の207号室。二階の角部屋だった。早速ハイパーポーションの作成に取り掛かる。もうハイパーポーションも品質Bは余裕を持って作れるレベルまできているが、経験上品質Bまでもっていくと一段上のポーションの品質Dと同等の性能なのに値段が高くなるのでCに抑える。

 わざわざ品質を落とすのはあまり気に入らないので、道具さえ揃えばすぐにでもスゲーシリーズに着手したいが、まああと一週間の辛抱だ。


 少年少女向けのポーション類は全て投擲用で揃えて作る。ストレッチワスプの巣も一万個集めているから、400個使っても全然減った気がしない。在庫がたくさんあるって素晴らしい。鼻歌交じりにストレージに収納して、時間は微妙だったが少年少女に準備ができた旨のメッセージを送った。あとは返事を待つだけだ。


「ところでイルは今度は何作ってるんだ?なんか器用に作ってるけど」


「え?今は試行錯誤中ですね。基本の編み方の組み合わせで、模様が編み出せるみたいだから、ほら。お花っぽくないですか?」


 イルが掲げて見せたのは、いわゆるモチーフというやつだろうか?単色だが、確かに花のような形に見える。手のひらより少し小さいくらいの毛糸の花だ。


「編みぐるみみたいに立体的に作るのも楽しいんですけど、平面で模様を作るのも良いなって。これいっぱい繋げて柄の布みたいにしても良いし、刺繍糸みたいな細い糸で所々石を通して編んで、新しい形の付加守アッドチャームにしても良いかなとか色々考えてるんです」


 イルの女子力が著しい進化を遂げていた。何、え?お手本もなしにそこまで辿り着いたの?珍しく楽しそうなイルのお喋りと、いやにクオリティの高い試作品の数々に慄く羽目になった。……私も何か始めようかなあ。

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