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残念ながらここまでの人生でやった手芸はビーズ細工と組紐くらいという若干悲しい女子力の私に出来る事は、大人しくポーションを巣または瓶に注ぐことだけだった。うん、【調剤】ですごい正確に同じ量を注ぎ分けられるからいいの。計量カップ要らずなの。
ちょっと深夜でおかしなテンションになりつつも、予定通り夜明けとともに作業場を出発した。久しぶりにまとまった量の調薬をしたおかげで備蓄が増えた。ボス戦で投擲ポーションを少し使っていた分も補充できたし、スーパーシリーズの薬草は全部使えたし。流石にハイパーは全部はけなかったが、良い調薬時間だった。丁度メッセージも返ってきたし。
「よし、少年少女も丁度クーの街に向かってくれてるみたいだから神殿に行こう」
タイミングとしては朝食を取りたいところだが、何しろこのクーの街は朝が遅いようだった。夜が遅い分、朝もゆっくりするのだろう。闘技場の一階のフードコートに行きたいので、開店するのを待とうかな。
クーの街の中心は正しく闘技場だ。何しろ神殿はじめ全ての施設が闘技場の周辺に建設されているのだから。闘技場から離れれば離れるほど、建物の密度は薄くなる。ここまでの街とは少し構成が違うようだ。感心しつつ、神殿に入る。
「ここは神様が三柱祀られているんですね?初めて見るのはこれかあ」
イルも神殿をいくつか回ってきているので、もう主神とトクメ・イキ・ボウ様の像は覚えたらしい。結婚したい神の像は、そういえばニーの街にしかなかったから、メインで祀られているのはこの二柱なのだろう。
「何々、『欲望と涙とひと匙の希望を司るもの イッチ・カバッチカ』……ひと匙ってまた少ないな」
司るのならひと匙とか言わずにきちんと司っていただきたいような。ううむしかしこの分量が賭け事には丁度良いバランスだからこの街で祀られているのかも?考えつつ、イッチ神の像を見上げた。横から見るとずんぐりむっくりなのに、正面から見るとやたら薄っぺらい6本足の特徴的なフォルムには見覚えがある。
おそらく蚤だ。選定理由をあれこれ考えたけれど全然わからなかった。
久しぶりに運営のセンスがわからないと思いつつ、行き交う人波を眺めることしばし。街間移動の青い光から少年少女が現れた。
「あ、辰砂さーん!おはようございまーす」
「お久しぶりです!」
「ふん、魔力チャージ頼むわ」
「ちょ、可愛いブレスレット無い?新作見せて」
「ハイパーのみ納品できるってことでよかったですかね、ちょっ、皆いっぺんに喋りすぎだよ」
現れるやいなや賑やかな集団である。各々言っていることが全然聞き取れなかった。かろうじて、クランドが最後に言った嗜める部分だけは聞こえたけれど。
「おはようございます。いつもご注文ありがとうございます。すみませんが、全然聞き取れなかったので順番にお願いしても良いですか?あ、カルビ丼さんは多分装飾品ですよね?イル、お相手してあげて欲しい」
とりあえず挨拶すると、少年少女たちは律儀に二列に並んだ。女子二人がカルビ丼の後ろに並んだのは思春期故か。しかし指示に素直なあたり、なんとなく田舎っぽい純朴さを感じるなあ。先陣を切るのはまあ当たり前だがクランドである。装飾品類をまとめて入れた袋をイルに渡して、私はクランドと商談開始。
「えっと、スゲーはまだ作成できないってことでしたよね。ハイパーの普通のとマナと、各200本ずつで幾らになりますか」
「今回は品質Cで揃えてあります。両方合わせて764000エーンですね。一週間後にはスゲーシリーズに着手するつもりなので、もしご入用でしたら今注文受けておきますが」
必要事項を告げると、クランドは先にトレード画面を表示して支払いしてくれた。明朗会計で何よりだ。それからマリエとシュンを手招きして相談している。10秒くらいでクランドは再びこちらに向き直った。
「じゃあ、スゲーシリーズの品質C以上、できればBを各300本ずつ注文します。また新しいダンジョン見つかったんで、出来るだけ早くお願いしたいです」
また大口の注文である。ホクホクしながら了承すると、今度はシュンが身に着けた付加守を取り外して突き出してきた。




