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名残惜しいが精霊さんに別れを告げた。最後にイルが何やら内緒話をしていたのが気になる。精霊さんが楽しそうに笑ったので、悪い話ではなさそうだ。
サンの街に移動した。作業場を借りて投げつけるポーションを作りたい。手紙は……後回しである。急がないって言ってたし!と、自分に言い訳しつつ作業場108号室を借りた。
早速いつも通りに調合する。私の集めている薬草はほぼ全てが品質Aである。そろそろ調合もレベルが最大になりそうだと言うのに、どうしていつまでも品質Aが出来ないのだろう?だんだんBの割合が増えてきたことは間違いないが、Aは未だに作れていない。
うーむ。鍋が湧くのを待ちながら原因について思いをはせる。メモ帳をめくり、品質Sを目指すにはと題したページを読み返す。品質Aの材料を渾身の力で作りあげた時にSが出来るとあるが。
「なんで品質が上がらないんだろう……」
「辰砂は水にはこだわらないのですか?先生、確かノース山に水を汲みに行くって話をしてた気がしますよ」
一人ごちると、新しい根付のデザインを考えているのか難しい顔のイルがこちらを向いた。そうだったかな?しかし、試しに作業場の水を鑑定して見ると品質Cであった。案外低い。水筒のノース山産水は品質Aである。成程、盲点であった。
「イル、ありがとう。何か欲しい物を買ってあげよう」
「えぇ?どうしたんです急に……でも、欲しい物って言うと新しい色の糸かな?もう殆ど糸もないし」
イルはどれだけ大切な助言をくれたのか自覚がないようだった。けれどいいのだ、とにかく私の目から鱗が落ちた事には間違いないのだから。しかしシルクスパイダー糸はどの道買うつもりであったし、他の物にして貰いたい。
「他の物ねえ。んー、じゃあ手芸の本とか?あ!俺珈琲淹れたいんですよ!大人になったからもう道具も使えます!約束したでしょ」
思いを巡らせていたイルは不意にサイフォンの存在を思い出したようで拳を握った。すっかり忘れていたけれどそんな約束もしていたなあ。サイフォンをどこで手に入れるかと言えば、伝手はアルフレッドさんしかいない。ニーの街のほとぼりはそろそろ冷めただろうか。
あの繊細なガラス器具を一体どこで扱うのか考えつつも、普段通りにポーションを作り、冷ました。門外漢がいくら考えても解らないので、アルフレッドさんに教えを仰ごうか。今はそれよりも投げつけるポーションを試してみなければ。
空のストレッチワスプの巣を取り出して乾燥させ、一つ持ち上げてみる。カサカサしているな、女性の手に丁度いいサイズで投げやすそうだ。カリスマさんには小さいか。中に注いで、……どうやって蓋してやろうか。全然考えてなかった。
ストレージの中から蓋に使えそうなものを漁るが、良さそうなものは特にない。水風船祭りとやらの弾の作り方をもっと詳しく聞いておけばよかった。しばらく台の上の巣を見つめてしまうが、いやいや固まっていても仕方ない。巣を取り上げて、
「あれ?」
水面が揺れない。それ以前に巣が柔らかい。ちょっと振ってみたが、指が少し沈むだけだ。水面を触ってみると、薄い膜が張っていた。巣全体がシリコンゴムみたいな感触に変わりよく伸びる。何だこれ?
「入れるだけでいいのか……」
どんな仕組みなのかとか気になるところはあるけれど、便利な事には変わりない。何はともあれ次々注いだ。
『スーパーポーション玉 品質B 投げつけるために容器を変更したスーパーポーション。投げつけることで容器が弾け、HPを1200回復する。再使用制限時間5秒。(保存期間残り:5か月29日23時間50分)』
鑑定の結果、アイテム名が変わった。効能は変わっていないけれど保存期間が3か月延びているな。完全密閉になったからと言うことなのか。
よく分からないけれども、上手くいったと考えて良さそうだ。どんどん作ろう。マナポーションも同じように保存期間だけが伸び、上々の仕上がりを見せてくれた。試しにいつかイルが作ったアヴァンギャルドなアートを的にして投げつけると、ふわっと投げた程度では割れなかった。ぽよんと弾かれたのである。当たったら痛いんじゃないかなと言う程度の速度が必要なようだ。
「へえ、良さそうじゃないですか?ていうかアレ、取ってたんですね……今見るとちゃっちいなあ」
恥ずかしそうなイルがアートをごみ箱に捨てようとする一幕があったものの、何とか阻止して作業場を出ることができた。売り先を考えると、そろそろ少年少女とフレンドになって、注文を貰ったり営業したりと言う関係になってもいいのかもしれない。何故って彼らがいないと私の財布が危ういのである。
さて、ここしばらくの件が解決したところで、イルのおねだりを叶えに行こう。ついでにから揚げを買い食いしたい。ニーの街に移動だ。




