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そして再び相見え(4)

「……し、生涯をあなたの(そば)で……って、花言葉……」


 へぇ、それは何ともロマンチックな。まるでプロポーズの時に使いそうな……。


 …………。


「あ、あと、蛍照石も花の形に加工してあるけど……」


「……ん? あ、あぁ、何だっけ……ヨウセイタンポポ、だったかな?」


「こ、この花は。かつて占い好きの妖精が、見かけた人間の恋が成就するかどうか、勝手に占って暇を潰す時に花占いに使っていた物らしくて。ただ、これだけ花弁(はなびら)が多いから、人がこの花で占うのは凄く大変で。だから、この花で占いをする人は、相手の事をとっても強く想っていないと最後まで占えないから……その、花言葉は、この想いとこれからの時をあなたの為に……っていう」


「…………」


「そ、それから……蛍照石(けいしょうせき)も。そこまで強く光るわけじゃないけど、温もりを感じるような優しい色の光を放つから。石に込められた意味は、あなただけを照らす光でありたい……なんだけど……」


 ふーむ、成る程。流石は女の子とは思ったが、まさかここまで詳しいとは。

 ……だが、しかし。ここまで聞いて確信した。


「……あの野郎、こうなる事を分かっててやりやがったな……!!」


 だってそうだろう。

 どんな物を贈るか。何を材料にするか。加工するデザインに関してだって。

 決めたのは、徹頭徹尾ゴル爺だったのだから。

 職人をナメるなとか言っていたわけだし、ゴル爺がそういった素材の成り立ちや由来を知らない筈が無い。対して俺が花言葉も、鉱石の性質以上を知っている筈が無いと判断し、そして渡す相手が女の子であるなら、どれか一つくらいには覚えがあるだろうから渡した所で一悶着起これば良い、と考えたわけだ。


「俺が知っていれば……いや、せめてゴル爺が教えてくれていれば……」


 ……教えてくれていれば、どうしただろう。素材やデザインを変更してくれと頼んだだろうか。

 ──いや、恐らくそれは無い。変わる事があるとすれば、事前に意味を知っておく事で俺の気恥ずかしさが少しだけ軽くなる程度だろう。

 いや、だって、ねぇ? ……でしょ? (具体的な根拠は特に無い)


「あー……まぁ、察しの通り。俺は花言葉も何も知らずに、そんな大層な意味合いの三重奏を渡してしまったわけだ。何つぅか、申し訳無い」


「う、ううん、そんな謝らなくても……」


「……えっと、()()()()()の物はいつかまた別に用立てるので……とりあえずは、それ、受け取って貰えます?」


「そ、それは勿論! 本当に嬉しいです。リュウトさん、ありがとうございます……ふぇ? あの、リュウトさん……本来の用途って」


「さーて、久々にアリスの手料理を食べられるなー、楽しみだなー」


「え、あの、棒読みで誤魔化さないで」


「タノシミダナー」


「いやあの、リュウトさん」


 その後、「本来の用途」発言に対するアリスの質問を諦めるまで躱し続け、俺は久し振りにフィリンダでの穏やかな日常に戻ったのだった。


           *


 それから一〇日程度は経っただろうか。死蝿群(ベルゼブブ)討伐の報酬はいつ頃支払われるんだろうか、とぼちぼち考え始めた朝だ。我が家のドアがノックされたのは。


「……はい?」


 レイジなら(本来なら非常識だが)ノックなんぞするわけもなく入ってくるだろうし、他にフィリンダでわざわざ家を訪ねてくる奴もまず居ない……と、思う。

 だったら果たしてノックの主は誰なのか、と首を捻りながら、俺はそれを確かめるべくドアを開けた。


「来ちゃった(はぁと)」


「よし、帰れ」


 あまりに既視感のある物言いに、俺は脊髄反射でドアを閉めた。が、目に映った人物の印象に違和感を覚えてその場で考え込む。


 まず、ミッドよりは背が低かった。それに体格も線が細かったし、顔も若い感じだったし、髪も金色だったし……。


「……って、あれ? ちょっと待て……いや、まさか」


 その外見に一つの心当たりを見出し、しかしその可能性の馬鹿さ加減が尋常ではなく、そんなわけ無いだろうと半笑いでもう一度だけ確認しようと再びドアを開ける。


「来ちゃった(はぁと)」


「…………いや、何て言うかさ」


 そして、全く同じ台詞を吐くその人物に呆れ八割、「あ、馬鹿なんだコイツ」という感情二割の大きな溜め息をプレゼントしてから真意を問い質した。


「──何してんの、王様」


 そこに立っていたのは、嗚呼、何かの間違いであって欲しいが。

 爽やかに微笑むグランサス国王、ランファード・アルヴィレートその人だったのである。


「いや、ほら。死蝿群討伐に関しての報酬をまだ支払っていないだろう? だから直々に渡しに来たんだ」


「……いや、だから改めて言うわ。何してんだよランファード」


 この言葉は行動そのものではなく「貴方はそのご身分で何をしていらっしゃるんですか? いやマジで」という、ランファードの頭の中身を疑う意味である。


「酷い言い草だな、リュウト。僕が来ては駄目だと言いたいのかい?」


「駄目だろ常識的に考えて」


「報酬の一〇万マールをこの手に携えていてもかい?」


「それを俺に渡し俺が受け取るのは当然の流れだ頂こう」


 ここが謁見の間で、周囲に近衛騎士が並んでいたら即刻略式処刑されそうな態度だという自覚はある。が、ランファードとは七聖剣時代からの付き合いであり、そもそも最初から礼儀を正すよう言われた覚えも無い。当人であるランファードが「良いんじゃないかな? その方がリュウトらしいし」と容認していたし、今更変えるのも面倒臭い。

 そんなわけで重量感たっぷりな革袋をランファードから受け取り、俺はアリスに声を掛けた。


「アリス。この袋に報酬が入ってるから保管しといてくれ」


「あ、うん。いつもの場所だよね」


 パタパタと駆け寄ってきたアリスに、頷きながら革袋を渡す。その流れで、アリスとランファードが一瞬だけ顔を合わせて──。


「……な……」


 俺でさえ見た事が無い驚愕の表情を、ランファードが浮かべた。


「……ランファード? どうかしたのか?」


「あぁ、いや」


 ただ、それも本当に一瞬の事で。瞬きをした後には普段のランファードに戻っていた。いつも通りの微笑で、アリスに会釈をしてから俺に視線を戻す。


「確か、レナードの娘さんだったかな? どうしてリュウトの家に?」


「何だ、知って……って、騎士団の武器を扱う企業なら面識もあるか。まぁ、色々あってな。話すと長くなるから、詳しく知りたかったらレナードから聞いてくれ」


「直接の面識は無いけれどね。経緯に関してはそうさせて貰うよ。しかし……そうか、こういう運命もあるのか」


「……は?」


「いや、何でもない」


 何やら意味深な事を呟いたランファードに問い返したが、あっさりはぐらかされてしまった。こうなると問い詰めても無駄なので、俺も肩を竦めるだけでそれ以上は聞かない事にした。


「……まぁ、良いか。それで? 本当に報酬を渡す為だけに、わざわざ王様が出向いたとか言わないよな」


「確かに、報酬を渡すのはついでだね。城を出る為の大義名分だよ。……と言っても、近衛隊が許してくれる筈も無いから抜け出してきたわけだが」


「今頃、連中が卒倒してるぞ」


「何、すぐに帰るつもりだしね。一つだけ、聞いてみたかったのさ」


 ランファードが「構わないかい?」と目で問い掛けてきたので、俺は先を促すように頷く。ゆっくりと周囲を見渡してから、ランファードは俺に向き直った。


「──リュウト。今、君は幸せかい?」


「……難しい質問だな」


 アリスは俺から受け取った報酬入りの袋をしまいに行ったので、この場には居ない。

 普通に街の知り合いに同じ事を聞かれたなら、間髪入れずに「当たり前だろ」と返したかも知れない。だが、相手がランファードだと都合が変わってくる。そもそも質問の奥にある意味合いが違ってくるからだ。


 即ち。

 何もかもに絶望したような顔で騎士団を出ていったけど、お前は過去を客観視出来る程度には今の生活を楽しめてるの? と。


「……正直、全部を割り切れたわけじゃない。割り切るべきじゃない事も、あの時の俺はやっちまったしな」


 だからこそ、しっかり考えた上で。俺はランファードにこう答える事にした。


「けど、今の俺の在り方は過去から逃げる為のものじゃねぇ。始めた頃はそうだった部分もあったけど、今は違う。後ろめたさも、恥も無い。昔の俺を切り捨てるつもりは無いけど、昔の俺と正面から喧嘩出来る程度には、俺は万屋(フリーター)としての俺に誇りがあるからな」


 それに、と呟いた俺の表情は。

 無意識に、笑顔になっていた。


「今は、アリスが支えてくれてるからな。だから、まぁ──そうだな。今の俺は、幸せだよ」


「……そうか。それなら良かった」


 俺の答えに満足したのか、ランファードはそう呟くと(きびす)を返した。


「今の質問にいつまでもグジグジするようだったら、一発殴ろうと思っていたけれど。そう言い切れるなら安心だ」


「こっちは安心出来ねぇよ。アンタに殴られたら命が危ないっての」


「良い結果だったんだ、気にする事は無い。……さて、レイジにも報酬を渡さないとね」


仲介所(ギルド)が混乱の坩堝(るつぼ)になるぞ」


「それもまた一興、かな」


 呟き、ランファードは仲介所の方へ歩き出してしまった。ふと逆側の通りに視線を移すと、ランファードを乗せてきたらしい馬車の御者と目が合った。

 ……動きが冷凍庫に二時間閉じ込められた後みたいにガチガチだ。まぁ、乗せてきたのが王様だしな。どれだけ軽装でも変装とかはしてないから、分かる人には普通に分かるし。そりゃ緊張もするか……お疲れ様。

 とりあえず家の中に入り、一連の流れでもたらされた疲労感で溜め息を()く。


「……え、と。リュウトさん。今の人って、やっぱり……本物?」


 戻ってきたアリスが、少し強張った笑顔で確認してくる。元々グランサス育ちなので、色々と覚えがあったんだろう。


「まぁ、本物だな。あんな厄介な奴の偽物なんか居るわけない」


「……あぅ、その、リアクションしづらい」


「五年も一緒に居たら、今の言葉に頷くしかなくなるぞ」


「えぇ〜……」


 ランファードに対するあんまりな評価に、苦笑するしかないらしいアリス。その首から上をゆっくり観察して、俺は首を傾げて聞いてみた。


「……なぁ、アリス。リボンも髪留めも見当たらないのは俺の気のせいか?」


「ひぇぅ」


 しゃっくりみたいな短い声を出して、アリスは気まずそうに視線を逸らす。


「え、えっと……着けた方が、良い?」


「そりゃ、まぁ……もしかして、実は好みじゃなかったか?」


「そ、そうじゃなくて。その、分かる人が見たら、素材とか分かっちゃうだろうし……そしたら、リュウトさんに迷惑が」


「……あぁ、成る程な」


 そういえば、意味合いとしては婚約相手に贈るような代物だったっけ。それだと確かに勘違いはされそうだけど……はて。


「何か俺の迷惑になるような事ってあるか? 冷やかされる程度は今更だろうし」


「ぇぅ……わ、分かった。私の覚悟が出来たら、着けるね」


「……? そっか。楽しみにしておく」


 ……覚悟が必要なアイテムなのか? という言葉は口に出す寸前で飲み込んで、やけに神妙な面持ちをしたアリスの頭を撫でる。


「ふぁ……えっと、リュウトさん?」


「あぁ、いや。本当に……無事に帰ってこれて良かった、と思ってさ」


 今回の依頼は、あらゆる意味で、運が良かった。もしレナードの作った鎧がなかったら。ミッドがワインを多量に飲んでいなかったら。レイジが協力していなかったら。討伐隊に参加する騎士が少なかったら。『匿名情報(ジョン・ドゥ)』が知識を貸してくれなかったら。グリムドラゴンに対してランファードが動かなかったら。

 俺がこうして、無事にアリスの隣に帰ってくる事は出来なかったかも知れない。最悪、死んでいた可能性だって充分あり得た。


「今回の依頼に関わった全員に感謝しないといけないな。報酬から幾らか使って差し入れでもしようかな」


「あ……だったらその差し入れ、私も一緒に考えて良い?」


「あぁ、勿論構わないけど……でも、何で?」


「ふぇ? だ、だって……」


 アリスは俺の問い掛けに、少し照れ臭そうに微笑みながらこう答えた。


「だって、私も感謝してるから。リュウトさんが無事に帰ってきてくれて、凄く嬉しかったし……」


「……俺の嫁が可愛過ぎる件について惚気(のろけ)たいんだが、受付はどこだろうか」


「ょ……ぴゃぅっ!?」


「しまった、ここはツッコミ不在だった」


           *


 ──更に、後日。

 竜鱗城(りゅうりんじょう)・謁見の間……普段は有事の際に即座に対応出来るように配備される近衛隊の騎士も排した、たった二人で使うには広過ぎる空間で。

 グランサス国王、ランファード・アルヴィレートと、夢之國工業社長、レナード・アンダーワールドが話を交わしていた。


「やぁ、直接話すのは久し振りだね。忙しい時にわざわざ済まない、レナード」


「構わないさ、ランファード。部下が良くやってくれているし、最近は私も楽をさせて貰っている」


 誰に対しても礼節を重んじるレナードとは思えない、砕けた口調。それを咎める様子を見せないランファード。その一度のやり取りだけで、この二人の関係性がただの取引先というだけではないと判断出来た。


「まずは、礼から始めないとね。死蝿群(ベルゼブブ)討伐の際は色々と力を尽くしてくれてありがとう」


「良いさ。出来る事があるなら、それに全力を注ぐのが私の役目だ」


「うん、そう言ってくれるなら本題に入ろう……どうして、リュウトの所にあの()が?」


「っ……どうして、それを?」


「この前、私用でリュウトを訪ねた時にね。つい気になってしまった」


「──あぁ、分かった。経緯は話すから、頼むから最後まで座ったままで聞いてくれ」


 深く溜め息を()いてから、レナードは一連の出来事……アリス誘拐から『(ふくろう)』の出現、解決までを全てランファードに話した。


「と、言うわけだ。それで……」


「リュウトは信頼に足る人物だと判断して、アリスを託した……か。成る程ね」


「納得はしてくれたのかな?」


「元より、知りたかったのは成り行きだけさ。まぁ、運命そのものには驚きを隠せなかったけどね」


「……? どういう事だ?」


「リュウトが()()()()だとしたら……レナード、君はどう思う?」


「……! そう、か。それは確かに、私にとっても予想外だ」


「……まぁ、しかし。決して悪くはないと、僕は思っているよ。これから先が楽しみですらある」


「君がそう言うなら、私には是非も無い。この運命を見守るだけだ」


「そうと決まれば、仕事の話をしようか。炙り出しは済んだんだろう?」


「あぁ。後はやり方を決めるだけだ──」


 二人はその後、数時間に及び話し合った。その結果、ある事柄が確定する。


 ──夢之國工業・グランサス国王連名による、カミカワリュウトへの依頼要請である。




本来だと、リュウトがリア充化するのはもうちょっと先の話でした。しかし気付けばアリスをフライングゲットしていたあたり、安定の俺クオリティですね


これにて第三章、グリムドラゴンと死蝿群に関わる話は終わりました。目には目を、歯には歯を、チートにはチートを。最近リュウトが決定打になってない気がしますが、それはそれとして


次回は……出来れば一度キャラまとめるかもです。第二章でサボりましたし。その後第四章に入ろうかと思っております


リュウトくんリア充になったのに新キャラで女子が出るよ!

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