第9話 神妖の地②
《他の妖怪の仕業・・・・・・?》
すみれという神と妖怪の中間の存在がいるなら、妖怪そのものがいても不思議ではない。
「この手紙の文字には何か妖気のようなものがまとわりついているのを感じます」
《妖気なんて感じるのか。鬼太郎みたいだな》
「だからこれは絶対、他の妖怪の仕業です。すみれさんが寝ている間に、ユキさんを攫っていったんでしょう」
《うーん、まあその妖気? っぽいものは私も感じるから、多分サクの言う通りなんだろうとは思うんだけど・・・・・・》
すみれにも、文字に纏わりついているなんとなく嫌な雰囲気はわかる。それがおそらく妖気というものなんだろうから、サクの言っていることは本当なんだろうが・・・・・・
《でも理由がわからない。なんでユキを・・・・・・》
「多分、ユキさんが目的なんじゃなくてこの土地が目的なんだと思います」
相手の目的がなんだかわからず、すみれが首を捻っているとサクがそう言った。
《土地・・・・・・?》
「この土地はかなり特殊な土地なんです。神気と妖気、二つの相反する気が混じり合い、渦巻く地。神妖の地・・・・・・そんな場所は、唯一つ。この土地だけです。だからこそ、神と妖、相反した二つの存在が入り混じるあなたのような特異な存在が生まれたんですよ」
《そうなのか・・・・・・だから私はこんなどこぞの死神代行みたいな存在なのか・・・・・・》
「それで、まあそんな特別な土地だからこそ、ここは色んな存在から狙われているみたいなんですよ。妖怪とか、霊能者とか、神とかつまり、これはこの土地の所有権を奪うための犯行ですね。神域の外へ出た神は弱体化する、だからユキさんをエサにしてすみれさんをこの神域の外へ誘き出して倒してしまおうという魂胆なんでしょう」
《なるほどな・・・・・・それにしても、サクはよくそんなことを知ってるな》
「オカルト雑誌に書いてあったんですよ!」
《へー、すごいなあオカルト雑誌は。なんでも書いてあるなあオカルト雑誌には・・・・・・いや、そんなことまで書いてあるオカルト雑誌って何? アカシックレコード?》
まあ、そんなことで、呑気にサクの説明を受けていたわけだけど、こんなことをしている場合ではない。
「早く助けに行かないと、大変ですよ! ユキさんは幽霊ですから、最悪の場合でも死ぬことはありませんが、それでも死ぬほど苦しい目に遭わせることは出来ますから!」
《・・・・・・ああ。超速で行こう》
すみれは、とりあえず敵の誘いに乗って指定された場所まで行くことにした。
《あ、でもよく考えたらそもそも私この神域から出れなくない? そもそも行きようがなくないか?》
「ああ、それは大丈夫ですよ。神域から神を出す方法、それもオカルト雑誌に書いてありました!」
《マジでなんでも書いてあるな・・・・・・本当にアカシックレコードなんじゃないのか?》
「まあその方法っていうのは本当にシンプルです。簡易神域を作るんですよ」
《簡易神域?》
「この場合は、このすみれ草を鉢植えに植えて・・・・・・ちょ、私取れないんですみれさん取ってください」
《わかった》
と、まあこんな感じですみれとサクは攫われたユキを助けに行くことになった。
◇
『ん・・・・・・』
ユキが目を覚ますと、知らない森の中だった。いつもの森じゃない。いつもの森よりもっと暗くて、陰鬱で、忌まわしきものが立ち籠めている森だ。
ユキは、小さな神社のようなところの前で眠っていた。小さな神社というか、祠というか、神社と祠の中間みたいな感じだ。
《あら、ようやく起きた?》
その声にユキが顔を上げると、そこにはロリータ風のふりふりの服を着た縦ロールの少女がいた。
『えーっと・・・・・・どちら様、かな?』
ユキが尋ねると、その少女は意気揚々と答えた。
《わたくしの名前はキリカ! この辺り一帯を古くから支配する、悠久の時を生きし最強凶悪の妖ですわ!》
『へー、そうなんだね・・・・・・いやなんで悠久の時を生きる妖がお嬢様キャラなわけ・・・・・・?』
《お嬢様キャラっていうのはなんだかよくわかりませんけれど・・・・・・まあいいです。とりあえず、今のあなたの置かれている状況を、わたくしが直々に説明して差し上げますわ〜! オーホッホッホ!》
『普通に100満点のお嬢様キャラだな・・・・・・いや、キリカだからどちらかというとアンチジョーカーの方かな? 一文字違いだからね』
《何をおっしゃってるのかよくわかりませんが・・・・・・》
まあそれは置いといて、このキリカさんが今のユキの状況を説明してくれた。
『なるほど。つまり私はすみれちゃんを誘き寄せるエサになったんだ』
《そうですわ! 喜びなさい! これよりのち、あの土地はこのわたくしのものとなるのですから!》
『ふーん・・・・・・でも、大丈夫? すみれちゃん強いよ? 確か神域の主になるには今の主を一回は殺さないといけないんでしょ?』
神域の主となるには、今の主、この場合はすみれを一回殺さないといけないのだ。もちろん、すみれは神なので一回殺されてもいずれは復活する。でも、殺された時点で殺した人に神域の所有権は移る。そういう仕組みになっているのだ。
《ふん、そんなの余裕ですわ! いざとなれば、あなたを人質にして大人しくわたくしに殺されるように頼むだけです! それに、あなたを拷問してる姿でも見せつければ、精神が動揺して隙が出来るかもしれませんし・・・・・・やり方は無数にありますわ!》
『へー、拷問かあ。出来るの?』
《出来ますわよ! ちょっと試してみましょうか?》
ということで、試しに少し拷問することになった。
《拷問・・・・・・拷問?》
『もしかして拷問に関してあんまり造詣が深くない?』
《い、いやそんなことありませんわよ! そうですわね、まずは熱々のおでんを用意して・・・・・・》
『拷問じゃなくて昭和のバラエティだよ、それは』
《なら、この捧げ物のブラックコーヒーを飲むとか・・・・・・》
『私、ブラック普通に飲めるけど』
《そうなんですの・・・・・・大人ですわね・・・・・・なら、わたくしがここでトーストを食べるから、トースト食べたかったら秘密を喋ってもらうという・・・・・・》
『拷問は拷問でも、それは姫様の方でしょ。私には秘密なんかないし・・・・・・』
《なら亀甲縛りでもしますか・・・・・・》
『それは拷問じゃなくて特殊なプレイだから・・・・・・』
とりあえず、ユキは亀甲縛りで木からぶら下がりながら待つことになった。
《ポテチ食べます?》
『おー、食べる食べる』
なんか大丈夫そうだった。
◇
なんか大丈夫そうだったけど、そんなことを全く知らないすみれは急いでいた。
《ちょ、もっと速く走れ!》
「いや、これ以上速くは無理ですよ! 私は人間なんですから!」
サクも一緒に来ている。サクは簡易神域(鉢植えに植ったすみれ草)保持係だ。これが壊れたり盗まれたりしたら大変なので、今回はこれを管理する係としてついてきてもらっている。
近くに浮かんでいるすみれは見えないので、鉢植えを持って全力疾走する女子高生というなかなか奇妙でシュールな構図になってしまっている。
と、まあそんな感じで走っていると、ようやく指定された場所に辿り着いた。そこそこの大きさの山だ。この山が、キリカの支配する妖域である。
「来ましたね。ここがあの手紙に書いてあった場所です。ここは・・・・・・ここも確かオカルト雑誌で見たことありますね。確か、キリカという妖怪の支配する山なんだとか」
《へー》
「よし、早速入りましょう!」
と、山に入ろうとした、その時だった。
「ちょっと、何入ろうとしてるの! ここは私有地よ!」
サクは呼び止められてしまった。簡易神域はサクが持っているので、当然すみれもその場に止まらざるを得ない。
「ここは私有地だから、勝手に入っちゃダメよ? それに、ここはとっても危険な土地なんだから」
《・・・・・・なんだ? この人は》
「この山の管理人ですよ。この山を代々所有する家の一人娘らしいです。オカルト雑誌に載っていました」
《マジか・・・・・・》
急いでいて、そういう人がいるかもしれないという考えが完全に頭から抜け落ちていた。
その女性は、諭すようにサクに向かって言ってきた。
「いい? ここは私有地だし、それに普通の山より危険な場所だからあなたみたいな子供は特に入っちゃだめ。わかった?」
なんだか、入れそうな雰囲気にない。夜になるのを待ってこっそり忍び込むという手もあるが、そんなに待っていられない。一刻も早く取り返さなければ、大変なことになるかもしれないのだ。
《・・・・・・おいサク! アカシックレコードに何か書いてなかったのか!?》
「あ、アカシックレコード・・・・・・?」
《オカルト雑誌だよオカルト雑誌! 何かこの場を切り抜けられそうな情報載ってなかったのか!》
「いやそんなこと言われても・・・・・・あ」
何か思い出したみたいである。
「そういえば、この管理人さんってかわいい女の子が好きらしいんですよ。性的に。数人の女の子と何股かしてたんですっぱ抜かれてました」
《よし! それだ! ちょっと体貸せサク!》
「え?」
すみれはサクの体の中に入ってこう言った。
「《あー、いいのかな。このまま私を通してくれたら、水着撮影会とかしてあげるのにな・・・・・・》」
「え?」
「《それはもうすっごい際どいの着ちゃうのになー。すっごいの》」
「!」
TS神様転生女子高生体借りおじさん、渾身の色仕掛けである!!
《よっしゃ、色仕掛け作戦成功だぜえー!!》
「もー、すみれさんたらあ」
《喜んでんじゃねえ!!》
とにかく、これで管理人の許可を得てキリカの妖域に入ることが出来た。
《ありがとうオカルト雑誌! ありがとうパパラッチ! たまにはいい仕事するじゃねえか!!》




