おしまい
それは、突然の依頼だった。
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「第一開発部との合同プロジェクトが立ち上がることになって」
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(第一開発部)
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一瞬で、空気が変わる。
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「総務側の窓口として、入ってもらえますか?」
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(戻る……?)
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心臓が、少しだけ速くなる。
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「……はい」
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会議室のドアの前で、私は一度深呼吸をした。
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(観察者じゃない)
(今回は、仕事で来てる)
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ドアを開ける。
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そこには——
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(いる)
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何も変わっていないようで、
少しだけ懐かしい光景。
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「お久しぶりです」
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誰かが言う。
私も軽く頭を下げる。
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(始まる)
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プロジェクトの説明が進む。
新しいテーマ。
複数部署の連携。
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そして、案の定。
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「その前提、少し曖昧では?」
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(出た)
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三浦さん。
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「曖昧っていうか、実務上は問題ない範囲で——」
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(危ない流れ)
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別部署の人が、少し困った顔をする。
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(あ、この空気……)
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理解できない側と、詰める側。
いつもの構図。
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(ここで止まるやつだ)
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ほんの一瞬、迷う。
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(私は、どっちでもない)
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でも、次の瞬間には口が動いていた。
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「すみません、少し整理してもいいですか」
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全員の視線が、集まる。
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(言った)
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「三浦さんが気にされているのは、“どの条件までを保証するか”の範囲ですよね」
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「……はい」
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「一方で、こちらのチームは“実務上問題ないか”を基準にしているので、少し視点がずれているかもしれません」
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少しだけ間。
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「なので、“保証する範囲”と“運用上の許容範囲”を分けて定義すると、話が進めやすいと思います」
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静かに、空気が整う。
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(……あ)
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「なるほど、それなら整理できますね」
「確かに、その方がわかりやすい」
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(通った)
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三浦さんも、小さく頷く。
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(止まらなかった)
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議論が、進む。
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少しして。
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「この挙動、少し“硬すぎる”気がしますね」
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(詩人型)
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長谷川さん。
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「硬すぎるっていうのは?」
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(また詰まる)
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私は自然に口を開いていた。
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「自由度が低くて、変化に対して反応しにくい状態、という意味だと思います」
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「……ああ、そうです」
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(翻訳できた)
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「少しパラメータを緩めて、変動の余地を持たせる方向でしょうか」
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藤原さんが、静かに頷く。
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「……それならすぐ試せます」
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(繋がった)
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カタカタ。
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数分後。
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「……このくらいですかね」
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「うん、今の方が自然です」
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(全部、繋がってる)
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定義。
比喩。
実装。
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バラバラだったものが、
一つの流れになる。
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(これ、前は見てるだけだった)
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今は違う。
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(間にいる)
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午後。
議論は順調に進む。
驚くほどスムーズに。
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「今回、話が早いですね」
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誰かが言う。
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「そうですね、整理されてる感じがします」
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私は、少しだけ笑う。
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(そう見えるんだ)
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会議の終わり。
片付けをしていると、
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「……さっきの説明、助かりました」
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声。
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秋山さん。
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(推し)
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「ありがとうございます」
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「……ああいう整理、得意なんですか?」
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一瞬、考える。
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(得意……?)
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違う。
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「ここで教えてもらったので」
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自然に、そう答えていた。
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ほんの少しの沈黙。
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「……そうですか」
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それだけ。
でも——
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(ちゃんと、繋がってる)
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帰り道。
私は、久しぶりにメモ帳を開く。
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> ・“一般的って何ですか?”
> ・“きれいになります”
> ・“音が合っていない”
> ・“5分で試せる”
> ・“特別じゃないとわかると楽になる”
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その下に、新しく書き足す。
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> ・言葉は、渡せる
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手を止める。
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観察していた言葉たち。
理解しようとしていた思考。
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それは、
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(ちゃんと、使えるものになってる)
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最初は、ただ面白かった。
インテリが好きだった。
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今も、もちろん好きだ。
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でも——
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少しだけ、変わった。
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ご飯も好きだけど。
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少しだけ笑って、
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私は静かに思う。
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インテリの言葉を、つなぐのが好きだ。
お付き合いいただきありがとうございました!




