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“王太子ざまぁ”を目指したはずが、家族と第二王子が過激すぎて大勝利になりました  作者: ぱる子


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第13話 兄の暗躍とノエルの情報網①

 朝の涼しい空気が、廊下の奥からふわりと流れ込んできた。私は書斎で書類を眺めながら、本日の予定を確認していたところだった。ぼんやりと「もう少しゆったりできればいいのに」と思っていた矢先、足音を荒らげたレオンハルト兄さまが、重い扉を勢いよく開ける。


「リリエッタ、ちょっといいか?」


 いつも以上に険しい表情をしているのを見て、嫌な予感がした。兄さまがこんな顔をするときは、たいてい物騒な話を持ち込んでくる。案の定、彼は勢いよく部屋へと踏み込み、眉をひそめながら言い放つ。


「アルフレッドが謹慎だの何だの言われてるが、どうせ裏で何か企んでるに決まってる。あいつの身辺を徹底的に探らせるぞ。俺の部下を使ってな」


「……またそういう物騒なことを言い出すのね。兄さま、王太子の件はもう十分に痛い目を見せたでしょ? 公務停止と謹慎が決まった今、わざわざ尾行なんてしなくても……」


 私は困惑顔のまま兄を見上げる。王太子アルフレッドがあれだけ公衆の面前で恥をかいたのだから、当分はおとなしくしているはずだ。しかも国王からも厳しいお咎めを受けて、謹慎の身分。普通の感覚なら、これ以上派手に動くのはリスクが大きすぎるはず。


「普通ならそうだが、あの男に普通が通じるとは思えん。そもそもおまえに理不尽な婚約破棄を突きつけたバカだぞ? どうせ謹慎のフリをしながら、裏で復讐なり逆襲なりを企んでるだろうさ」


「逆襲って……あれだけ追い込まれたのよ。もう自暴自棄になってるんじゃない? わざわざ裏で動く余裕もないと思うけど」


「わからん。万が一ってこともあるだろう。おまえがこれまで散々いじめられたのを見て、俺はもう二度とあんな思いはさせたくないんだよ」


 レオンハルト兄さまは、そこで唇を引き結んで真剣な目を私へ向ける。彼の中には“妹の敵はどんな手段を使ってでも潰す”という極端な愛情があることを、私はよく知っている。だけど、だからこそ止めなければと頑張るのも、私の恒例行事だ。


「気持ちは嬉しいけど、余計なことはしないでってば。下手に尾行して失敗したら、こっちが責められるかもしれないのよ? 最悪の場合、捕まったりして……」


「誰が捕まるものか。俺の手配なら痕跡を残さずに動ける。公爵家が本気を出せば、王太子一人の動向を探るくらい造作もない」


「いやいや、造作もないかもしれないけど、そこまでやる必要ある? 今の殿下はただの謹慎中でしょ。派手に表を出歩けないんだから、逆襲も何も……」


「リリエッタ、甘いな。あいつがどれほど自由気ままに動いてきたか忘れたか? 今まで散々遊び回ってきたような男が、大人しく謹慎に徹するとは思えない。裏でいらん扇動をしたり、おまえを罠にはめようとしたり、何でも考えられるだろう?」


 兄さまの理屈にも一理はある。アルフレッドが真っ当に改心すると断言できるほど、私も彼を信用していない。いまだにコーデリアというやっかいな協力者(?)も、またどう出るか分からない。それでも、あまりにも過剰すぎる行動をとるのは危険すぎる。

 私は何とか説得しようと、たっぷり息を吸い込んで言葉を選ぶ。


「わ、わかったわ。でも、私が危ないってなったときには力を貸してほしいけど、今すぐに調査隊を出すとか、そこまでしなくてもいいでしょ? そもそも大規模にやればやるほど目立つし、逆に殿下を刺激するかもしれない」


「うん……そうなのか? だが妹が心配でたまらん。王太子を信じられないのは当然じゃないか。……シスコンと言われようが構わん。俺は妹を守るためなら何でもする」


「兄さま、自分で言っちゃうんだ……しかも誇らしげに」


 思わぬ言葉に軽く目を丸くしてしまう。確かにレオンハルト兄さまは筋金入りのシスコンだけど、本人が堂々と認めてしまうのはあまり見たことがない。しかし彼の目は本気だし、そもそも私に危害を加える存在は問答無用で潰す気満々のようだ。


「当たり前だ。俺はおまえを守ることが第一だ。王太子だろうが、第二王子だろうが、コーデリアだろうが、なにか画策しているなら先に潰してやるさ」


「いやいや……気持ちは嬉しいけど、先手必勝みたいな物騒な発想はほどほどに! もう、そこまでやられたらこっちが捕まるんだけど」


 私は両手を振って全力で兄をなだめる。ほんの少しずれていたら私の行動を越えて父と兄が武力行使に走りそうなのが公爵家の怖いところだ。舞踏会で王太子を追い詰めた成功体験のせいか、彼らはさらに過激な手を使っても問題ないと考えていそうで、私としては気が気じゃない。


「……まあ、おまえがそこまで言うなら、今回は大人しくしてやる。だがな、もしアルフレッドが少しでも怪しい動きを見せたら容赦しないからな。覚悟しろと伝えておけ」


「どうして私が伝えなきゃいけないのよ。そんなこと言ったら王太子が震え上がるだけでしょ……」


 思わずため息をついてしまう。兄さまの言葉には愛を感じるし、頼もしいといえば頼もしいけれど、同時に余計な事態を起こしそうで怖い。でも、言い合いになっても落ち着く様子はないし、少しでも彼の不満を抑えるために、現状でできる“折衷案”を提示するしかない。


「わかった。もし殿下がまた私にちょっかいを出すようなことがあったら、そのとき協力してもらうわ。事前にちゃんと相談するから、無断で動かないでね」


「ふん……最初からそう言えばいいんだ。まったく心配性なんだから、おまえは」


「ちょっと、兄さまが言う? それを言うならあなたと父さまのほうがずっと……」


「あーあー、聞こえない。まあいい、そこまで言うならしばらく大人しくしてやる。アルフレッドの不穏な情報だけでも集めておくか……小規模に」


 多少の折り合いがついたらしく、兄は不承不承ながらも「出兵」は見送る構えだ。やれやれ、いつも心臓に悪い。今後もし父までこの話を聞いたら、と考えると頭痛がしてくる。アルフレッドへの危機感は必要だけれど、そこまでやるのは度が過ぎているのだ。


「とにかく、何かあればすぐ教えてよね。私が一番王太子の動向を知りたいし、危なくなったら私から助けを求めるから。いいわね?」


「わかったわかった。ったく、おまえがそんなに強気になれるとはな。昔はもう少し可愛げが……」


「うるさい! とにかく約束よ。余計なことはしないでね」


 私はレオンハルトの腕を軽く抓んで釘を刺す。兄は苦笑いで腕を振り払うが、その表情には妹を守るという意志とともに、控えめに言っても“血の気”を感じる。正直、また別の騒動が起こったら彼を完全に抑えきれる自信がない。

 でも、今はこれが精一杯。もしアルフレッドが本当に裏で動いているなら、やはり先に情報を集めたほうがいいだろう。兄がほどほどに動いてくれる分には助かるし、私だって無策でいるわけにいかない。


「……はあ。なんで私の周りは過激な人ばかりなんだろ。ノエルまで暴走しないようにしなくちゃね」


 心中でそうぼやき、私はひとまず兄を落ち着かせて書斎から送り出す。彼は「分かったよ、騒ぎにならない範囲で情報探ってくる」と言い残してさっさと出ていった。気遣いなのか暴走の第一歩なのか判別不能だけれど、今は信じるしかない。


「……王太子に関しては、自業自得って気もするけど。でもまあ、本当に懲りてるのかどうか、気にならないと言えば嘘かしら」


 私としては、アルフレッドが謹慎でおとなしくしてくれればそれでいいが、しつこく逆襲を図る可能性も確かに捨てきれない。兄の過激発言を否定しながらも、少しだけその不安が胸に残る。

 でも今は、コーデリアの失踪やセバスティアンの暗躍など、他に考えるべきことが山積みだ。そちらのほうがよほど大騒ぎになりそうな予感がするだけに、あまり王太子にばかり振り回されたくないのも事実。


「もう、みんなして好き勝手言いすぎだわ……。父さまも兄さまも落ち着いてくれないと、こっちが捕まりかねないんだから」


 そう自嘲気味に呟き、私は椅子に深く腰掛ける。いつになったらこの家の男性陣の暴走は落ち着くのだろう――そんな愚痴をこぼしつつも、実際に何か起きれば彼らは最強の味方になるのだから、喜ぶべきか悩むところだ。

 とにもかくにも、兄は“王太子を探る”と言い出したわけで、何か情報が入れば教えてくれるはず。それまでは私もセバスティアンやコーデリアの動向に気を張りつつ、地道に日常をこなしていくしかない。この家に生まれた定めといえばそれまでだけど、いつになったら普通の平穏がやってくるのか――遠い目をしながら、私は散らかった書類に目を戻した。


「はあ、せめて今日は普通に過ぎてほしいけど……そんな甘い期待をしても無理かしらね」

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