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“王太子ざまぁ”を目指したはずが、家族と第二王子が過激すぎて大勝利になりました  作者: ぱる子


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第5話 黒幕か? セバスティアン登場②

 数日後、いつものように屋敷で情報整理をしていた私のもとに、突然「第二王子殿下がお見えです」という報告が飛び込んできた。もちろん、その名前を聞いただけで胸が騒ぐ。なにせあのセバスティアン・イグナシオ――先日、散々な出会いをしたばかりだというのに、また私の前に現れるなんて。


「わざわざ公爵家までいらっしゃるなんて……。一体何の用なのかしら」

 私がソファから立ち上がりながら尋ねると、使用人は首をかしげつつ「玄関でお待ちとのことです」とそっと答える。妙に落ち着いているのも不気味だ。あれほど性格の悪さを隠さない男が、どういう理由で私の屋敷を訪れるのか。

 渋々ながらも応接室へ足を運ぶと、そこには相変わらず完璧な美貌を誇るセバスティアンが、涼しい顔で立っていた。おだやかな微笑を浮かべながらも、その眼差しは底の見えない冷たさを宿している。


「リリエッタ・フォン・グラディス。急な訪問を詫びるよ。少し話がしたかったものでね」

「光栄だわ、殿下がわざわざうちまで足を運んでくださるなんて。……何か特別なお話でも?」


 素っ気なく口にしたつもりだが、彼は気にする様子もなく椅子へ腰を下ろす。まるで我が家の主人であるかのように堂々とした振る舞いに、私は内心カチンときた。


「おまえが王太子に恨みを抱いているのは周知のとおりだろう? その復讐、いっそ手伝ってやってもいいと思ってな」

「……はい? 手伝うって、そんな簡単な言い方をされても困るんですけど」

「そう突っかかるな。兄の愚かさには俺も辟易しているところだ。王位から降りてほしい、と考えるのは自然だろう?」


 セバスティアンはそう言って肩をすくめる。王位継承権を持つ王太子を“愚かだから引きずり下ろす”とあっさり口にするあたり、やはりただ者ではない。兄弟仲が悪いことは知っていたけれど、ここまで露骨に企んでいるとは。


「そりゃ私も、あの方には一度痛い目を見せたいとは思ってますが……あなたがわざわざ協力を申し出るなんて、信用できるわけがないでしょう?」

「信用しろなんて言っていない。ただ、目的が一致するなら利用しあうのも悪くないってだけだ。おまえも、俺を通じて得られるものは多いはずだぞ」

「目的が一致、ね……。私がやりたいのは、婚約破棄の不当性を世に知らしめること。あなたは王太子を排除したい。それは似ているようで別だと思いますけど?」


 冷えた空気の中で言葉を交わすと、まるで高度な取引をしているような感覚に陥る。セバスティアンは美しきイケメンでありながら、毒蛇のような眼差しを向けてくる。その奥では何を思っているのか、私にはまったく読めない。


「結果的に兄が落ちれば、おまえも恨みを晴らせる。俺も邪魔な兄を失脚させられる。互いにウィンウィンだろう? これを利用しない手はないんじゃないか?」

「……確かに、一理はありますわ。でも、あなたは本当にそれだけの目的で動いているのかしら? 私を利用して後で裏切るとか、考えていないとは言い切れないでしょう?」

「その可能性はあるかもしれない。いや、むしろおまえも俺を利用してやろうと考えているんじゃないのか? 俺たちは対等だ。違うか?」


 私は視線をそらさない。セバスティアンは、私がどう出るかを観察している風。まるでどちらがより強かかを試し合う場面のようだ。何より、その態度が憎たらしいと同時に妙に刺激的で、悔しいけれど少しだけ心をざわつかせる。


「正直、あなたに借りを作るのは気が進まないんです。自力で殿下に報復する方法を考えてますし」

「なるほど。なら、必要になったらいつでも呼べばいい。俺のほうはいつでも、喜んで手を貸してやるつもりだからな」

「まるで気まぐれな猫ですね……。実際に手を貸すかどうかも怪しいものだし、そもそもあなたが裏で糸を引いている可能性だってあるんですよ?」


 そう言うと、セバスティアンは悪びれもせずに軽く微笑んだ。


「おまえをだます気がないとは言わないさ。むしろ、便利な駒として使ってやろうという思いがゼロだと言えば嘘になる」

「……やっぱり、最悪……!」

「はは、怒るなよ。俺は正直者だと言っておこう。ともあれ、おまえの復讐には興味がある。兄上がちょろまかしている金の動きやら、女関係やら、全部暴露するのは痛快だろう?」


 確かに、私が探っているネタはそのあたり。セバスティアンが持っている情報を引き出すことができれば、王太子を追い詰める大きな武器になるに違いない。けれど、それと同時に私がこの男に踏み込ませたくない領域まで見透かされそうで怖い。


「……あなたの提案、受けるかどうか保留にしておきます。いずれにしても、私は慎重に動きたいので」

「そうか。まあいいだろう。急いで決めなくても、おまえが困ったときに連絡してくれればいいだけさ」


 毒のある微笑を浮かべたセバスティアンは、さほど執着のない様子で椅子から立ち上がる。まるで最初から“はぐらかされる”のを想定していたみたいにあっさりとした態度だ。これはこれで怖い。


「では、またおまえと会う日を楽しみにしている。俺はそこまでヒマではないが、少しぐらいなら時間を作ってやるつもりだ」

「いえ、あまりお構いなく。私も忙しい身ですので」

「……ふん、素直じゃないな。まあ、その強がりがどう崩れるか、ちょっと興味あるかもしれないが」


 最後まで底意地の悪い含みを持たせて、セバスティアンはやけにスマートな足取りで部屋を出て行った。去り際に見せたちらりとした視線が、まるで「俺はまたおまえの前に現れるからな」と警告しているようで、私は息を詰まらせる。


「何なの、あの人……。イケメンなのに性格最悪すぎるわよ。王太子の呑気さとは別の意味で厄介だわ」


 思い返すと、嫌なことばかり言われた気がするのに、どこかで自分も彼を利用する算段を考えているのがまた腹立たしい。彼が“実は有用な存在”であることは、私自身が薄々感じているからだろう。

 復讐のために、彼の協力を仮に受け入れたとしたら、最終的には私が痛い目を見るような展開にならないとも限らない。それでも、うまく立ち回れば“あの方”を思いっきり追い詰めることができるかもしれない。


「うう……どうすればいいのよ、こんな危険な助力」


 長いため息をつく。私は“腹黒い第二王子”とのやり取りに頭を悩ませながら、しかし同時に微かな期待を抱いてしまっている自分にも気づく。

 ――結局、セバスティアンと共闘するかどうかはまだ決めきれない。けれど、もし彼が提示するカードが強力ならば、私の復讐も一気に進む可能性がある。危険な取引だが、心をぐらつかせるには十分な魅力だ。


 頭を振って邪念を払う。このまま流されてしまうのは危険だ。だけど、もっと情報が欲しい。冷たくも甘い誘惑のような彼の言葉が、私の胸の奥にしこりのように残っている。それを上手く扱えるのかどうか――それこそが私の今後の勝負なのだろう。

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