52 執拗にユリを探すシャース王国と、スタンピード発生予兆……。
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――その日は生憎の雨模様だった。
ただ、恵みの雨とさえ言われるこの雨は嫌いじゃなく、レインコートを着た冒険者や一般市民を窓から見ることも出来たし、ちょっと誇らしくなりながらもドマと一緒に次なる商品を考えていた時、ソレは届いた。
「え? 商業ギルドからの緊急依頼?」
「ええ、ユリちゃんに緊急依頼ですって。何でもインク会社が王家に納める為の石が全く取れなかったみたいで慌ててるらしいの。助けてあげることは出来るかという事だったわ」
「王家の色って確か、青でしたよね?」
「ええ、取り敢えず何の石が必要なのか聞きに行ってみて助けてあげたら?」
「インク会社に恩を売っておくのもアリですね。こちらは万年筆がありますし」
「それもそうね。ドマと一緒にいってくるわ。お爺ちゃんもタキも行きましょう」
そう声を掛けるとドマと一緒に傘を差して馬車に乗り込む。
しとしとと降り続ける雨の中、商業ギルドに到着するとレイルさんが慌てて走ってきた。
「待ってたよ! お願い出来るかなぁ!?」
「応接室に」
「そうだね、急ごう」
そう言うと応接室に入るや否や、大きな箱に布を敷いた物を三つ持って来て、これいっぱいに【ラピスラズリ】が欲しいのだという。
なるほど、昔妹が言っていたけれど、青のインクや絵の具はラピスラズリを原料にしていたって言ってたっけ。
「でも、ラピスラズリって宝石じゃないですよね。この国でも出るんですか?」
「数年前までは少しずつでも出ていたんだが、今では採掘され過ぎて鉱石の国ノシュマン王国からの輸入に頼っていたんだけど、その船が座礁してね……。乗組員は助かったんだけど、インク会社が頼んでいたラピスラズリは一つも入ってこなかった。急ぎ注文をしたけれど、鉱石の国ノシュマン王国では海が荒れているらしく出る事も帰る事も出来ない。そんな中、王家からインクが無くなりそうだという連絡があった」
「「うわぁ」」
「つまり、インク会社の為にひと肌脱いで欲しいんだよ~~!! もう今にも首を吊りそうでね!! もし助けてくれたら私の方から万年筆専用のインクも作ってくれないかと頼むからさ!」
「それなら……もし万年筆用のインクを作ってくれるならお安くお出ししますって伝えておいてください」
「助かるよ!!」
こうして箱に向けて手を伸ばし「アイテム生成・ラピスラズリ」と口にすると魔法陣が浮かび上がる。
ラピスラズリは宝石としては金が付いてる方が高いのよね。なんて思いつつあちらの世界では平均的な丸いラピスラズリをドンドン出していき、三つの布で覆われた箱が満タンになる頃にはレイルさんが拍手していた。
「いや~~見事なもんだ! これなら喜んでくれるよ!」
「さっきの万年筆の事、お忘れなく?」
「勿論! 王家のインクはここしか作ってなくてね。いや~本当に助かった!」
「あと、今後お願いしますって言うのにこれも出しておきますね。アイテム生成・ラピスラズリ」
そう言うと大きな塊でドン!! と三つ出し、これで文句はないだろう。
「本当に君は容赦がないな」
「そうですか? 喜んでいただけるかと思ったのに」
「凄く喜ぶと思うけどね? 魔法契約しないと話せないからね?」
「お願いしますね?」
「甘え上手だな。仕方ない。何とかしよう」
こうして私とドマは仕事が終わったので馬車に乗り込んで帰る事になったけど、ドマは不思議そうに私の手を見ていた。
どうしたのだろうか。
「【石を出す程度の能力】と仰っていましたが、とんでもないですよね。姉様を追い出したシャース王国の王太子とはどれ程の馬鹿だったんでしょうか」
「そうね、巻き込んで召喚した癖に、知らない土地に女性一人を外に放り出すような王太子よ。意地でも生き残ってやると思ったわ」
「俺はその王太子に会ったら殺してしまいそうです」
「殺しちゃ駄目よ、国際問題になるわ」
「むう」
「まぁあ奴はまだまだ国中から糾弾され中だからのう。国中でユリを探しているが見つかる筈など無いのじゃがな」
「そう言えば、英雄として召喚された他の四人は結局どうなるのかしら?」
「国の為に働かなかった者として、国民達の前で断頭台に立って死んどるよ」
「え!?」
「先月の頭じゃったかな……」
「そう……」
「じゃあ姉様も見つかったら断頭台に!?」
「そうするつもりなら、ワシ等がどうなるかお主でも解ろう?」
「そうですね、あり得ない事でした。申し訳ない」
「うむ」
でもそうか、あの四人は既にこの世にはいなのね……。
そもそも行き成り召喚して置いて「さぁ、人を殺してこい」なんて、普通の子が出来る筈ないじゃない!!
本当にあの王太子クソだわ!!
「金の価格落してやろうかしら」
「お、それはええのう!! あの国は金輸出国。金をこの国が買うにしても値段の価値が下がれば国に入る金も少なくなるわい」
「ですが、態々あの国から買いますかね? 姉様がいらっしゃるんですよ?」
「付き合いでちょろっと買う程度じゃろうな」
「アルジミタイニ キレイナ キンカイ ツクレルワケ ナイモンネ」
「シャース王国はまずは国内の安定を今は目指している所じゃろうて。その為には輸出出来るものは輸出して外貨を得る事もまた重要。しかしそこを潰されれば?」
「国の安定は遠のく……かしら?」
「そうじゃな」
「トムライニハ チョウドイインジャナイ?」
そうタキちゃんが口にし、「そうね、私にできる弔い方よね」と小さく零すと、ドマが心配そうに「姉様」と声を掛けて来た。
この事は陛下にはお伝えした方が良いだろうかとお爺ちゃんに聞くと、「一応伝えてみるとええ」と笑顔で言われ、明日納品の時にお伺いを立てるという旨をロザリオスさんにお伝えし、国王陛下宛に手紙を書いて貰った。
すると、「納品が終わった後に執務室で是非」とのことだったので、納品が終われば王様の執務室にお邪魔する事になった。
仕事の話が出た場合を考えてエンジュさんにもついて来て貰うけれど、心はしとしとと外の雨のように小雨が降っているようだ。
私の事を馬鹿にしていた少年少女たちだったけれど、未来ある彼らを斬首刑にするほど、あの国は荒れているのね……。
誰かの責任にして祭り状態にしたい。という感じの国民性かしら?
――凄く馬鹿げてるわ。
「国が負けた責任を取るのは、シャース王太子とシャース国王夫婦だけでいいのにね」
「全くじゃのう。だが国民の声は大きい。まだまだ炎上するんじゃろうな」
「はぁ……ダンさんに久々に手紙書こうかな」
そう言うと二号店に到着して開発部の中に入ると手紙を出して書き始める。
自分と同じように召喚された子供たちが死んだことを今日知った事や、何か彼らに弔いをしたい。その為金の価値を下げていいだろかと書いて送ると、直ぐにシャース冒険者ギルドのダンさんから手紙が届いた。
『金の価値を下げるのはもちろん止めはしない。そろそろシャース王国から冒険者ギルドも撤退する予定にしている。最早俺達もシャース王国にいる意味はなくなってきた。近いうちにシャース王国は滅ぶだろう。スタンピードによって。他のギルドも撤退を始めている。そう遠くない未来に滅ぶだろう』
「スタンピード……?」
「スタンピードが起きそうなんですか?」
「ええ、そう書いてあるわ」
「ほう? スタンピードとは魔物が溢れて町や国を襲うものじゃ。戦争にかまけて魔物を処理しなかったのじゃろう。ダンジョンが確かあった筈じゃが、そこから魔物が一気に溢れ出そうとしておるのじゃろうな」
「なるほど」
「冒険者ギルドや他のギルドが撤退……早い段階で起きそうですね」
「ダイヤ王国に被害は出るのかしら?」
「他国にも影響は出るじゃろう。生き残って逃げ延びたとしても、スタンピードを起こした王家は大抵逃げ延びても後は逃げ延びた他国での死が待っておる。それこそ【オリタリウス監獄】行きじゃな」
「オリタリウス監獄?」
またも知らない単語が出て来て首を傾げると、ドマが説明をしてくれた。
【オリタリウス監獄】は最も重い罪人を連れて行く、斬首刑よりも重い刑に処されたものが辿り着く場所だと。
近隣の国々にとって、また王族にとっても最も恐るべき死に場所だと教えてくれた。
だとしたら――。
「ノヴァ様は大丈夫なのかしら?」
「ずっと奴はこっちに居るじゃろう? 責任をといっても無理な話じゃろうて」
「なるほど」
それならノヴァ様は安心ね……。
しかしスタンピード。
これがダイヤ王国や他国にどれだけ被害を出すのか分からないけど、覚悟はしておいた方が良さそうね。
「【命の花びら】の量産を考えた方が良さそうだわ」
「そうじゃの、一応毎日ここでは作られて居るが、数が足りるかはまだ分からんのう」
そう語るお爺ちゃんに私は溜息を吐き、何かお守りを作れないだろうか……と考えた。
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