汽車の中
お読みいただきまして誠にありがとうございます
今、オリヴィアが居るのは列車の中だ。
貨物列車に秘密裏に乗るので、5人は狭い空間に押し込まれている。
「おい、この列車はクロスター家のものか?」
偉そうにそう発言する声が聞こえてきた。
「はい、我が主、クロスター公爵家の借り入れた列車でございます。私はこの貨物車両の責任者でベン・ベックと申します。恐れ入りますが、お名前を伺っても?主人に報告いたしますゆえ。」
ベンが対応しているようだ。
「ふん、私はグロ男爵だ。ここに来る前に、この辺りに盗人が駆け込んだと言う通報があったのでな、車内を確認して廻っている。その車両も念のために賊が潜んでいないか中を拝見したいのだが、よいか?」
一階の使用人を相手にかなり丁寧に接するこの貴族は、緊張しているのか、酷く額から汗を掻いていた。
「ああはい、いいですよ。心配でしょうから、よーーーく、中をご覧になり確認していってください。」
ベンがハッキリとした声でそう答えると、待っていましたと言うかのように、男爵は従者たちへ指示を出し、貨物車両内を調べていく。
箱の中で、緊張しながら、このやり取りが終わるのを待つ。
「男爵様、何も異常はありません…」
男爵の従者が報告する。
「こちらも異常なしです。」
他の者達も報告する。
「そ、そんなことはないはずだ!おい、よく見たのか!?!?」
男爵は自ら乗り込み、箱の間や叩いたりして、物音がしないかを確認している。
そのうちの大きな箱に目をつけて、こう言った。
「この箱が怪しい!開けてみせろ!!」
ベンにそう命令する。
「いやあ、その箱は空けたらマズいことになるんで、主から開けてはならないときつく言われているのですよ。すみませんが、ご要望には添えません。」
丁寧にベンが断ると、男爵が何かを確信したのか不敵な笑いを浮かべた。
そして、再び言い放つ。
「この箱を開けろ!!私は王族から依頼されてこの任務をこなしている。四の五の言わずにサッサと箱を開けよ!」
今度は箱を杖で叩きながら、激しい口調で命令する。
「…ですが、私も主から命ぜられている身、主の許可なしではどうすることも出来ません。ちょっと、箱を強く叩かないでください。」
ベンが箱と男爵の間に体をねじ込み、箱を庇うように立ってベンが食い下がると、男爵が激しく激昂した。
「うるさい!!そこをどけ!もういい、私が確かめてやる!!」
そう言うと、男爵は箱を横から杖で突きさしたのだ。
ベンが
「何を!!」
と声を上げる。
箱の中のオリヴィアは真っ青になる。
次に瞬間、箱の穴から赤い液体が流れ出てきた。
「なんてことだ…」
ベンが嘆く。
「これは…」
男爵が言葉を飲み込む。
当たり一面が甘い匂いに包まれる。
「男爵様、どうしてくださりますか!!この箱の中身は高級フルーツマーレンですぞ!!一玉50万ポインドもする。王家でも珍しがられる貴重な果実ですのに…どう責任を取ってくださいますか!!」
ベンがそう叫ぶように追究する。
事の重大さに気が付き、たじろぐ男爵。
このフルーツは世界で幻のフルーツと呼ばれ、希少で手に入らない上に、高額なものであるのだ。
男爵の屋敷を売って探しても、代打品を用意できるか分からない代物だ。
「ご、ご協力感謝します。」
男爵がそう言うと、脱兎のごとく逃げて行く。
三人は他の車両など見向きもせずに、全力疾走で去っていった。
「ありゃあ、盗人なんて出鱈目だ。」
ベンが言うと。
カタンと奥から音がした。
貨物列車は無事に動き出す。
(おまけ)新婚のふたりはとても仲良しで、ハロルドに慣れたいというオリヴィアの意見から距離がとにかく近い、スキンシップも多めです。
その為、周りは空気となるしかありません。
汽車に乗るまでの単馬での移動中も危ないから自分の馬に一緒に乗ろうとオリヴィアを誘うハロルドでしたが、皆が全力で止めまして、疲労感タップリで移動しました。
恋愛脳恐るべしと二人以外はウンザリしています。
車内は非常に狭いです…果たして皆はこの拷問に耐えることができるのか!?
そして、鼠に見つからずに、無事に出国できるのか!?
本編が短くて、ごめんなさい。