最終駅
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「皆さま、もう出てきても大丈夫です。」
ベンが声を掛けると、奥の壁の一部からカタっと音がして切り込みが入った。
回転扉のように縦に動く。
その隙間からひょこっりとカイルが顔を出した。
続いて、ハロルド、エマと続く。
彼らが居たのは、クロスター領が臨時で追加した車両の最奥で、壁が二重に作られており、その壁と壁の隙間に身を隠していた。
秘密の物をクロスター領内から運び出す時に利用しているらしいので、今回使わせてもらえるが、門外不出である。
ちなみに、要人を秘密裏に出国させたい時など使用する機会があるのだと、オリヴィアは昨日、キャサリンから内緒だけれどと教わっていた。
狭い隙間から出るのに、エマが手を貸して次に出てこようとするリナの補佐している。
オリヴィアの事も補佐をしようとエマが手を差し伸べると、大きな手が横からすり抜けて行き、その手がオリヴィアを掴んでいた。
ハロルドだ。
丁寧な扱いに、エマは感心な声を漏らす。
皆が狭い空間から這い出ると、貨物所の中では箱を折り畳まれ、空間が作られていた。
丸めてあったカーペットを引き、他の木箱に入っていた椅子、クッションなどが外へと出され、大きな樽の周りに並べられていく。
樽の上に磨き抜かれた丸板を嵌めると、即席の円卓が出来上がった。
「しばらくの間、こちらでおくつろぎください。普段お使いになるようなソファやテーブルセットのような座り心地とはかけ離れておりますが、このような状況でご用意できるのはこれが精いっぱいでございます、御辛抱ください。」
ベンが頭を下げるので、
「分かっています。椅子に座れるだけありがたいです。お気遣いありがとう。」
と、リナがベンに礼を述べた。
席に着くと、エマがお茶を入れる。
ポットの中のお湯はどうしたのだろうか?と疑問に思いながらも、湯気の立つティーカップに手を伸ばして、オリヴィアは紅茶に口をつけていた。
先程のやり取りを聞いていて、酷く汗を掻いたのだ。
「乱暴な方だったから、壁に杖を刺されなくて本当に良かった。」
ホッと一息をつき、オリヴィアはそう口走っていた。
「本当に、そう思います。今頃、腹に穴が開いていたかもしれません。」
ハロルドがオリヴィアの意見に同意し、付け足した。
「それにしても、高級フルーツをダメにしてしまったけれど、良かったの?どなたかへの贈呈品であったのではなくて?」
ベンへとオリヴィアは問いかける。
「ああ、あれですか?あれは赤い液体の香料なのですよ。マーレンの香りを再現しています。マーレイはご存知の通り希少な高級フルーツだというのは世界共通の認識ですので、高貴な方々に好まれる香りなのです。特に南国の方々に人気でして、そちらへ届けている品です。いつもは専用の入れ物に入っているのですが、今回はそれを、その木箱の中に入れて、運んでいました。クロスター家作戦その一だそうです。一袋分ほど敗れて中身がダメになってしまったようですが、さほど支障はありませんので、ご安心ください。」
ベンがそう言うと、オリヴィアは安心し、頷いた。
「それにしても、野蛮だわ。あんな者を寄こしてくるなんて、ドルトムントって性格が本当に悪いわね。」
リナが悪態をつく。
「糞ヤローですよ。」
エマも嫌な顔を浮かべ、力強く毒づく。
のんびりと会話をしながら列車に揺られ、途中駅も寄ることの無いまま、終着駅タルーニャへと辿りついた。
終着駅でも、謎の見回り隊はやって来た。
クロスター領主から雇われて積み荷を貨物列車から運び出している者達の横で、首を伸ばして中を覗き込んでいる。
あやふやな理由を述べ、荷物確認するといいはり観察していたのだ。
荷物を運んでいる者を強引に引き留めて、大きな箱を軽くトントンと叩いたりして謎の確認をしたりしていた。
ベンがその横で、見回り隊を激しく睨みつけている。
少し離れた位置で監視だけをしている爵位のあると思われる男がベンの視線に脅え、酷く汗を掻いていた。
先程、この貴族にベンがグロ男爵と知り合いかと問いかけたのだが、声を裏返し全力で否定したのである。
大量に汗を流し髪の毛がぐちょぐちょになった貴族が空になった貨物列車を最後にもう一度覗き込むとし、捜査を終えたのだろう、間髪入れずに異常なしと大声を張り上げ、猛ダッシュで去っていった。
素早い行動であった。
監視していた貴族には出発時にやらかした不手際の話がすでに伝わっていたようだ。
鉄道内で起こった事なので例のフルーツの弁償をさせられるのではと考えているのかもしれない。
あの貴族は高級フルーツ代も払えないほど貧乏なのだろう。
空の列車内に、ベンが入って行き、壁を叩く。
すると、壁が動き、5人が壁の裏から姿を現した。
壁が二重になっていて、隠れられるスペースとなっていた。
荷物は国外への持ち込みの為に検疫所で積み荷検査がある。
それなので、今頃、不審だと思われた箱の中身を勝手にあけられてチェックが行われているだろう。
5人は列車から降りると、堂々と、改札口へと歩いて行く。
ハロルドが汽車を降りるオリヴィアに手を貸してから、その腕に自信の腕を回し、終始ラブラブで話しながら歩いていた。
昨夜スキンシップを増やしたいとオリヴィアから言われたハロルドは兎に角遠慮がないのだ。
そんな2人に、リナがついにキレる。
「ちょっと、2人が新婚でそう言う時期だってのは大いに分かっているのだけどね、一つ言わせてもらうわ。今は隠密行動中だって事を忘れないでよ。オリヴィアの姿は隣国の国王似だからね!少し外では自嘲しなさいよ。」
二人に向かってお叱りの言葉を述べる。
無意識にラブラブしてしまっていた2人は、ハッと気づかされ、少しだけ離れた。
だがすぐに、肩がぶつかる距離へと戻り、ハロルドがデレデレと笑い、オリヴィアも国王の威厳が全くなくなるようなフニャっと崩れた笑みを返している。
その様子にリナとカイル、エマは大きく溜息をついた。
汽車の中でもこの状態であったから次の移動の馬車の中までそうなるかもしれないと、ウンザリと言った無意識の反応であった。
ベンとはここでお別れである。
彼は別の荷物を受け取り、ラックランド領へ向かうという任務がある。
別の誘導策を実行すると言っていたが、詳細は教えられなかった。
5人が改札まで来ると、そこに居た者は鼠であった。
だが、リナがちょいと力を使い幻影を創り、音を操って脳を刺激し記憶をあやふやなものとし、改札を通過することに成功した。
周りに居た人たちも、どこぞの貴族が通過したくらいしか認識していないだろう。
堂々として居れば、なんてことはないと言いながら、なかなかの強引な手段で通ったなとオリヴィアは苦笑する。
遂にアドラシオンから出国しました。
リナのやり方が少し粗かったのは、ラブラブ娘夫婦の行動にイラっとするが強くは出られないので、その八つ当たりが混じっていたとか。




