タダでは働かない
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オリヴィアがそっと囁いた。
「ジョージ、私から君へ誕生日プレゼントとして、とっておきの情報をあげるよ。ジョージはお別れした令嬢との後始末を私にやらせたでしょう。特にあそこにいるような高位貴族のご子女たちは、かなり骨を折ったわ。その他にも多くのお別れしたご令嬢がいたわよね。でもね、実は、かなり楽をさせていただいてたの。」
「ん?楽をする?」
「うん、後始末の必要が無かったってこと。つまり、ジョージと別れた令嬢が直ぐに、あそこにいるジョージのご友人たちへと乗り換えたのよ。私が知る限り、何もせずに済んだ女性がそれはまあ、何人も居たわ!一番右の彼は、胸の大きい娘が好みで。ほら、子爵家のお胸がはち切れんばかりに大きい令嬢とか商家の娘もあの方のもとへ行ったわね。あなたにフラれたのちに彼が声を掛けてお持ち帰りって流れで、幾度も見たわよ。彼はだいたい6人いや8人ほどかな。真ん中の彼は、スレンダーで足の綺麗な人が好みだよ。赤毛の男爵家の令嬢と伯爵家の眼光の鋭い令嬢もあの人が連れて行ってたわ。あとお忍びで出かけた街で出会った美しい未亡人、あの人もよ。彼はだいだい10人…いやそれ以上だったかな。左の人は、見た目が小動物のような幼い感じの娘が好みみたいで、そう言う子ばかり狙っていたわ。ジョージの許容範囲が広いと噂が広まってから、年下すぎると断った令嬢、堕さんな親に紹介された初等科のあの可愛らしい令嬢とかも、ほら、数年後が楽しみって言っていたあの娘いたでしょう。彼女たちの将来のためにも言っちゃまずかったかもだけれど、あいつは、あの子たちにも声を掛けていたよ。いくら何でも下衆だから私が手を回して逃がしていたけどね。とまあ、そんな感じで、私は彼らによって後処理をしなくて済み、ラクをさせてもらっていたの。だから学院での女性関係以外のジョージが起こした揉め事にも私は取り組めていたってわけ。そうじゃなかったら、ジョージの起こす問題が多すぎて、かなり逼迫していたはずだから、私はウンザリして今頃、陛下に泣きついて領地へ帰っていたはず。本当に彼らの女癖には、あっ、いやいや、彼らの失恋した女性達への慰めにはとても助かっていたのよ。ジョージ、いいお友達を持ったのね。へへへ。」
早口でそれを言いきった瞬間、ジョージが顔を真っ青にしていた。
「それ、本当なのか?今、お前が言った令嬢達の事、あいつら…あいつらに乗り換えただなんて。だってあいつらが言ったのだ。彼女達はよくない噂があるから次期王としては関係を切った方が良いと、俺に知らせてきて、熱心に別れた方がいいと説得してきて…親身になって助言してくれていたのだと思っていたのに…リヴィ、今の話は真実なのか?」
そのジョージの言葉に、オリヴィアが心の中で悪魔の顔を、現実では天使の微笑みで答える。
「ええ、残念ながら本当の話よ。よかったら証拠や報告書いる?うちの屋敷に行けば山の様にあるから渡すよ。あなたには胸クソ悪いものだけれど、いる?」
上手くいきすぎて心が舞い上がっていたのか、オリヴィアは地が出てしまった。
「ああ…ああ、分かった。あとで叔父上の屋敷に取りに行く…」
ジョージ、ついに墜落。
そして、奴らの第一王子側近への道は終わりを告げた。
よっしゃああーこれで奴らは終わりだ!
へーん!さようなら、おマヌケ共。
この私がタダ働きで面倒な事を引き受けていると思ったら大間違いだからね。
この国の将来の為に、そして王子に借りを作ることと、弱みを握ることを目的にしていたのよ。
奴らの復讐にも役立てられてラッキーだわ。
ジョージ殿下の自称友人となった者達を見て、ニヤリと微笑んだ。
今、奴らには悪寒が走っている事だろう。
令嬢達の座るテーブルへ殿下と共にやってきた。
「長らくお待たせしてしまったね、小鳥ちゃん達。さあ話の続きをしよう。といっても、お相手は、本日の主役、我が国の王太子ジョージ殿下ですよ。さあ、殿下、私の居た席にどうぞ、素晴らしい花達に囲まれた特等席ですよ。」
「ん?リヴィは座らないのか?」
「ええ、殿下のお茶会ですよ。お邪魔虫はこれにて下がらせていただきます。私はもう彼女達との楽しい時間を大いに満喫させていいただきましたので。とても楽しいおしゃべりでした。そうだ、私と話していたようなことを、皆さんは殿下と話すとよいですよ。私よりも殿下は色々なことをよく知っておられますから、是非聞いてみてください!とても話が弾んで、よい思い出の時間となるでしょう。それでは、私はこれで失礼します。」
そう言い残すと、もの凄いスピードで庭園の端にあるテーブルへと移動した。
ジョージがギリギリ見える位置である。
***
「はあ~疲れた。」
「お疲れ様、エライことに巻き込まれていたわね。アハハハッ。」
椅子に腰かけると、メアリーがすかさずやってきて、隣に座った。
「あ~メアリー、さっきは助け船をありがとう。」
「どういたしまして。それよりも、貴女、よくこんなことを引き受けたわね、こんなこと…ブッ、ククッ、マヌケすぎる。」
「引き受けたというか、やらされたと言ってほしい。王城に到着してすぐに拉致されて、気が付いたら、この姿よ。殿下の計画もずさんだし、やりたくなかったけど、頭にきていたから仕返ししてやろうと一先ず話に乗ってやったの。はぁ、この国の未来には不安しかないわね。」
オリヴィアは溜息を最大に着きながら紅茶を口に運び一息つく。
「確かにね。ほら、ジョージ殿下がキョロキョロ見回しているわ。あれ、あなたを探しているのではなくて?助け船はなさるの?あはは、見て見て、挙動不審過ぎるよ。グフフフ。」
メアリーが口を押え変な笑いを漏らす。
「そうよ、私があの場から立ち去るまでに、殿下から聞いた話なのですよ~と彼女達の事をあたかもすべて殿下から聞いた風にさんざん会話して、令嬢の趣味や好きな物を題材に得意げに語って場を盛りに盛り上げたからね。その続きは殿下とどうぞと押し付けて退席して来たのよ、きっと付き合っていた令嬢達の事をほぼ何も覚えていないから、彼はかなり困っているはず。フッ、助けてやるものか、本当にいい気味。」
「なるほど、殿下の自業自得ってわけね。あ、でも、ほら、殿下の悪友の三馬鹿トリオが助けに行くみたいよ。」
だが、すぐさま悪友は、殿下によって追い払われた。
「あれ、あれれ?どうしたのでしょうか?」
頬に手をやり、首を傾げてわざとらしく不思議と言った表情をするメアリーに対して、
「ジョージは、三馬鹿に取られるって考えているのよ。」
と、オリヴィアは5個目のケーキを大きな口で頬張りながら話す。
「ほぉ、例の件をやっとバラしたのね。調子に乗っていたものね、いい頃合いだったわ。あ、見て見て~取っ組み合いになる前にチャールズ殿下が仲裁に入ったわ。もう喧嘩は御仕舞いなのね。短かったわね。あ~あつまらない。もっと血の飛び散るような殴り合いとかが見たかったのに。」
「フッ、殴り合いだけなんて甘いことを…彼らにはこれから破滅が待っているのよ。早く悪を消し去る資料をジョージに届けなきゃ。転げ落ちるのを特等席で見てあげなきゃ。」
「オリヴィアは優しいから殿下の手助けもしてしまうのでしょうね。楽しみだわ。」
ポンポンと三馬鹿やジョージに対する遠回しにした嫌味が止まらず交わされていく。
まるでボール遊びでもしているかのように愉しげに。
「ク、ククククッ。」
楽しく会話する2人の背後から、笑い声が聞こえてきた。
次回、笑い声の主は?