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【別視点】キルハイトの感嘆1【従者side】

 シオンさん曰く、腹芸の微笑みと呼ぶウィスタリアお嬢様の微笑を貼り付けたまま、『根回しするよぉ!』と便箋に『オルクス殿下とアザレ嬢はとてもお似合いなので、是非王妃殿下のお力をもって婚約者に据えて下さい。私も誠心誠意お支えします』といった内容を書き出し、一転悪い笑顔で『愛する者同士の結びつきが力を生むとでも言いたいみたいだからね、あたしゃあ優しい愛のキューピッドだよぉ!』と言いながら、ユースティティア卿に『添削お願いします。父様のお力でより説得力のある文章で一つ』と頼み込み、出来上がった文章を婚約者候補であるグロースターべ侯爵令嬢とマスキュール辺境伯令嬢に『この内容で嘆願するけれど、もし同様の内容で送るのであれば心強い』と送りつけた。

 強くお願いしなくても良いのですか?と問えば、


「強要されるのと自分で決断を下すのは大きく違うからね。連名にして王妃さんが好意的に受け取ってくれれば良いけれど、悪く取られたら誘ったウィスタリアの立場が悪くなる。逆恨みされるのはごめんだね」

「どの様な結果になるとお考えですか?」

「送るね。ほぼほぼ送ると思って良い」

「確実にではなくて、ほぼですか?」

「あたしゃあ断言するのは嫌いだよ。世の中に絶対は無いって死んだ婆さんが言ってたし、お天道様が東から登って西に沈むのだって、突如人知の及ばない力が関与して逆向きになるかも知れないよね?まあ、そん時には地球ごと吹っ飛ぶ衝撃を受けて、確認したくても出来ないんだろうけれどさ」


 相変わらず訳の分からない事を引き合いに出して、ウィスタリアお嬢様であればそれこそ絶対に浮かべない無邪気な笑顔を浮かべながら、ティーカップを掴んで紅茶を飲む。

 取り敢えず無言でその手を睨めば『ちょっとくらい気ぃ抜く時間をおくれよ』と、綺麗に微笑むのだからタチが悪い。


「王妃さんもアザレさんを候補に入れた時点で、三人の逃亡を考えているはずだよ。大いにメリットのある三人を我儘王子さんがずっと邪険に扱っていれば、どうしたって各家との亀裂は深まるし、誰と結婚したとしても夫婦関係は冷え込むよ。ユーさんの記憶と同じ道を辿れば、エルトベーレさんは隣国へ留学、プリュネさんは領地へ療養、どちらの家も王家との縁を結ぶより娘の心と尊厳を守る優しい親がいる事は、王妃さんだって知っている筈だ。ユーさんは責任感と王子さんやら幼馴染達を支えたいという優しさで辞退の『じ』の字も考えなかったけれど、気楽なあたしは既に爺様から辞退のお願いを出しているからね。婚約者候補達が協力したいと好意を持っているうちに、アザレさんをひっ捕まえて、婚約者候補としてのお勉強を叩っこむのが一番安全だ。それに王太子さんもまだまだ若い。王妃さんはその辺も考えて動いていると思うんだよね。ユーさん基準の考え方をしてお相手しているけれど、王子さんが絶対王位に着かなくなって良いんだから」


 お嬢様の顔でにやっと笑うのはやめて頂きたい。


「エルトリアの守護神ルクラティさんは一夫多妻を認めているもんねぇ。あたしの国は宗教は自由だったけれど、憲法、法で一夫一妻、重婚禁止、理由は色々あるけれど、貴族みたいに多くの富を持った階級が無いからね、複数の奥さんを抱えるにはその分の経済力が必要だけれど、そんな人はほんの一握りだし、女性が自立出来る収入を得るのも難しく無いしね。実際、あたしも26歳で結構な収入のある一人暮らしだったし、防犯の方法も多種多彩、身を守る術はここより遥かに多かったよぉ」


 元26歳独身の大人の女性がお嬢様の姿で胸を張る。今にも騙されそうだ。

 シオンさんはかなり強かではあるけれど、優しくて素直すぎるからあっという間に悪漢に狙われそうで、一人暮らしと言われても想像が付かない。凄腕の職人については実際に目にしているから認めるが。


「それにしても、何故メガイラ嬢は婚約者候補に推されて文句を言ったのでしょうか?」

「さてね。あたしはアザレさんじゃあ無いから何とも言えないけれど、想像で良いのなら幾らでも言えるよ」


 シオンさんと同じ世界から生まれ変わった魂と記憶を持つメガイラ嬢の気持ちは、確かにシオンさんが一番予想出来るのだろうけれど、自由に振る舞って良い場所での彼女の言動を見る限り、どうも元の世界でも考え方の特殊な人では無いだろうかと感じる。

 果たして、変わり者らしいシオンさんの想像が正しいのか。とはいえ、政治や生活の根本から異なる世界なのだから、やはり意見は参考になる筈。


「お願いします」

「面倒だって気が付いたんじゃないかね?」

「面倒とは?」

「アザレさんはこの世界にそっくりなゲームをして、ぞろっぺぇ連に囲まれて幸せになるってぇ体験をしたんだよね。でもそれはゲームであって現実じゃぁ無い。あたしはゲームをしないたちなんで、どういうもんか知らないけれど、実際に色々なお勉強をする必要は無い訳だ。傘屋の婆さんが『けえぽっぷのいけめんを育てるゲーム』とやらに嵌って、ちょいとばかり見せ(みし)て貰ったけれど、座ったまんま手元を(いご)かしてれば進むんだよ。で、難しい所は情報交換している場所があるからそこで調べる」


 手元の紙に線だけは綺麗な四角の中に、合体したマカロンみたいな絵を描き出すシオンさん。あんな素敵な細工を作れるのに、絵心が無さすぎる。何が何やら分からない絵を描かれても……。

 暫く何とか形にしようと動かしていた手を止めて、ぐるぐると塗りつぶし『何で絵にするとダメなのかねぇ…』と眉を顰めて呟く所は可愛らしいかも知れない。言葉遣いはとんでも無いけれど。


「で、意気揚々と王子さん達と仲良くなった所までは良いけれど、王孫婚約者候補になる為には他者を納得させるだけの力量が必要で、その為には呑気にクッキーを作ったり、ぞろっぺぇ連とお気楽に街を散歩をする代わりに、王家の選んだおっかない先生方についてお勉強しないといけない。伯爵家令嬢として身に付けるべき事は習得しているだろうけれど、それじゃあ全然足りないよ。伯爵家よりも高位の教育を受けているユーさん達だって、王家に入る為に更なる努力を要求されたんだから、遊びを優先させているであろうアザレさんにはたまったもんじゃあ無いよね」

「エルトリアの伯爵令嬢として分かっていた筈では無いでしょうか?」

「分かっていたつもりだったってところだろうね。実際にやってみたら大変だった。だからギリギリまで婚約者候補三人に押し付(おっつ)けて、自分は良い顔だけ見せていられるポジションに居たいって所だと思うよ」


 うんうんと頷くシオンさん。

 いや、だが、そうすると……?

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