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主人公は王子達の悪口を乱れ打ち注意されます

「最初にお伝えしますが、お爺様の大切なウィスタリア嬢はこの世界の女神さんに救われて安全な場所で保護されていらっしゃいます。これを念頭に置いて話を聞いて下さい。わたくし、いや、あたしは異世界からやって来た別の人間で、死にかけたとこを女神さんに助けて貰った藤 紫苑(ふじしおん)と申します。藤が家名で、紫苑が個人名です。歳は26歳で、金属で飾り(もん)を作る飾り職人と呼ばれる仕事をしていました。何でこんな事になったかってぇ言いますと、今から六年後、ウィスタリアさんを大きな不幸が襲いまして、真面目で頑張り屋なウィスタリアさんはお爺様やお父様に心配を掛けてはいけないという気持ちと、自分の力不足を責めて追い詰められて、女神に祈った所から始まったのでございます」


 話しているあたしですら荒唐無稽な内容だと思うけれど、爺様はうむ、と頷いて「ウィスの無事を最初に話してくれた事に礼を言わせていただきたい。では話を聞かせて貰おうか」と言ってくれた。鋭い視線で殺されそうだけれども。

 続きをと促されたので、女神さんからのお願いとして妖精とやらに聞かされた話を、初めっから仕舞いまで、出来るだけ簡潔に話した。大事な事を伝える時は、あっさりきっぱり要点を抑えてってえのがお約束だ。こっちから先回りして仔細説明した所で、回りくどくなるだけだし、仕舞いまで言った所で聴く側が質問する方が効率が良い。あたしが短気な面倒くさがり屋ってのは認める。


「荒唐無稽とも言える話を信じていただけるのですか?」

「ああ。儂は自分の目を信じている。ウィスに斯様な物は作れぬし話し方も全く違う。入学式から様子がおかしかったが、儂も息子もはっきりとした確信が持てずにおった。侍女達にも話を聞いたが誰かと入れ替わっているという事は無いと報告を受けておったし、学園に入って色々と考える事が増えたのは事実だろうしな」

「ご心配をお掛けしました」

「いや、女神の力でウィスの体に大人の女性の魂が入っているのであれば、奇跡とは言えるが全ての疑問が解消する。慣れぬ世界でユースティティア家の者達の事を気遣ってくれた事にも感謝する」


 爺様が胸に手を当てて頭を下げたので、こちらも一度席を経って立礼(りつれい)をして座り直すと、目があってどちらともなく微笑んだ。渋い爺様カッコイイ。

 人生長く生きていて軍なんてぇ色々な経験と思いが渦巻いている場所に身を置いている爺様なら、一通りの話を聞いてくれるだろうという判断は正解だった。


「つまり、藤嬢の世界は安全なのだな?」

「何を持って安全と定義するかは分かりませんが、魔法が無い分、医療レベルも高いですし、機械工学が進んでいます。文化としては陽に似ていますが、服装は洋装の割合が殆どで食事も他の国の物も取り混ぜて色々食べる人が多いです。国の象徴である王に相当する皇族がおられますが、国家の象徴として神に祈られたり他国との会合をされるものの、政治は国民が行うものとして関与されません。私と入れ替わりにあちらに転生したので、今は0歳の赤ちゃんの筈です。こちらの女神様に祝福を受けているので、きちんとしたご家庭に転生したかと思われます。乳幼児の医療も発達しておりますし、こちらでは出産の時に親子の命が危ぶまれるという事も珍しくありませんが、あちらなら必ずではありませんが多くの場合救う事が可能です。小さいうちは集団での検査もありますし、疫病を予防する薬も多数あります」

「うーむ、女神ルクラティの加護を受けておるのなら、こちらにいるよりも余程安全であろうな。そうか、ここより安全か」


 そうだよねえ、とにかく何度も安全を確認したいよねえ。

 事と次第によってはお前の首をもぎ取って四尺上に晒してやる、と言った眼光は消えたものの、元気が無い。あー、成程。大体分かった。爺様が落ち込むのは嫌だよ。


「私見を申し上げても宜しいですか?」

「聞こう。それと改まった態度を取らなくても良い。藤嬢は今現在、可愛い孫娘を守ってくれておるからな」


 守ってはいない。入れ替えられただけだ。面倒だから主張はしないけれどさ。


「ウィスタリアさんは爺様が好きなんですよ」

「うん?」

「あたしの言葉で話すと、ちょいと伝法になりますが、そこはお目溢しして頂くとして、ウィスタリアさんは爺様や家族の皆さんを信じていなかったから辛くても黙っていたんじゃあ無くて、家族が好きだからこそ、黙って追い詰められちまったんです。あたしはユーさん、えー、ユースティティアさんだから心ん中でユーさんってぇ呼んでるんですけどね、ユーさんの記憶を持ってるからこそ言えるんだ。ユーさんは自分を大切にしてくれる爺様も父様も大好きで、レル兄さんが悪意を向けて来る理由が分からなくて、愛する家族に心配を掛けたくない、仲違いして欲しくないと悩みに悩んで、自分でなんとか現状打破しようってぇ時に、大切な王子さん達に裏切られてしまったからこうなったってぇだけなんですよ」


 爺様の目がフッと緩んだ。


「大切な事だからもっかい言わせていただきますけどねえ、ユーさんは爺様を心から信用して愛しているけれど、王子さんの婚約者候補として、侯爵家の令嬢として、(しがらみ)と矜恃が負担になっちまっただけで、あん時、あの、すっとこどっこい唐変木あんにゃもんにゃ糸っクズ、空気ラッパアセチレンガス、デクの坊と朴念仁な、ぞろっぺぇの王子達が、集団でか弱いユーさんを嵌めようてぇ卑怯極まりない話を聞いちまった時に、運悪く爺様と父様が仕事で遠くに行ってたから頼れなかっただけで、流石に家にいたら伝えていたと思いますよ」

「そ、そうか」

「そうですよ。大概(てぇげぇ)やり口が汚いあのすっとこどっこい連中は、爺様が怖いから居ない時を狙ったに決まってるんだ。だから、爺様が家を空けた事を後悔する必要は無いんです。だって、家を開けたからこそ、ルール無視の婚約破棄なんてぇ出たっこな手段を取りゃぁがったに決まってるんだよ。ざまあみあがれってんだ、手前らの小汚ねぇやり口を女神さんが阻止したってぇんだよ」

「藤嬢、儂には分からない言葉が沢山出て来たが、恐らく良い言葉では無いようじゃな。ウィスの為に憤ってくれるのは嬉しいが、娘さんがその様に感情的に話すものでは無いぞ」

「あ。はい。でも最初に申し上げましたが、あたしゃあ26歳の大人であたしの世界じゃあ26で未婚ってぇのは全然珍かじゃあ無いけれど、エルトリアで26なんざぁもういい歳のババア「藤嬢!」すみません」


 叱られた。


「良いか?話によれば、藤嬢の魂が、ウィスの体に入っておるそうだが、であれば、儂は未婚のお嬢さんを親御さんから預かっている事になる」

「うちの両親はあたしが生きてるか死んでるかも気にしてませんけどね、実際、ユーさんの転生先で受け入れてくれるってぇのなら、死んでるんで」

「そうであっても、だ。他所の世界の大切なお嬢さんを預かっているのは変わらないし、藤嬢はウィスを助けてくれようとしている恩人だ。預かったからには大切に誠実に受け入れる」

「はあ」

「返事ははいだ」

「はい。ですけれどね、入学してからこっち、大人しくしてたんですよ?こんな話し方をするのは久しぶりってんで、あ、独り言で「少し良いか?」はい」


 爺様が大きくため息をついた。


「儂としては威勢の良い若者は好きだが、今の話し方を外ですればあっという間に窮地に追い込まれるのは分かるな?」

「はい、ですけ「ですけれどは無しだ」はい」

「確かに、26歳の成人であればあれこれ考えて行動出来るだろう。だが、藤嬢の世界とこちらは違う。ましてや、藤嬢はウィスの小さな体で動いている。学園入学から一人で頑張ってくれたのは大変感謝をしているが、事情を知った今、危険を放置する訳にはいかない。儂と息子で話をして、然るべき対応をしよう」

「お願いします」

「それから、レルヒエは既に件の令嬢と仲良くしているのだな」

「はい。下手に何か言うと意地になってしまうかと」

「相分かった。藤嬢、これからは事情を知っている儂や息子の選んだ信頼出来る者の前では、儂の孫、ウィスの義姉としよう。宜しいかな?」

「はい。ですが孫とおっしゃるのなら、藤嬢ではなくシオンとお呼び下さい。紫苑も藤も紫色の花。ウィスタリアも藤色。どうぞよろしくお願い致します」

「そうか、うむ、では儂の事も祖父と呼んでくれ。新しい孫は危なっかしいが、実に面白い娘だ。一緒にウィスを守ろうではないか」

「はい、お爺様」


 はははと笑う爺様の前でおほほとお上品に笑うあたし。あたしは賭けに勝った。


ーーーーーー

◇◆ちょっとアレな言葉説明◆◇

伝法;伝法口調。言葉が乱暴なさま。女性の勇み肌(勢い良くはっきりした)な口調。

出たっこ;出鱈目。

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[良い点] ホウレンソう! [気になる点] 何故かシオンとユーさんがまるっと魂入れ物入れ替わってると思い込んでたので、赤ちゃんになってると言われて「え?それ、こっち帰ってこれないやん!」と困惑。 [一…
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