第一章 喜世姫(きせき)視点 突然変わった日常
私は通っていた高校を長期欠席して、治療やリハビリに励む事に。授業などの遅れは学校の先生とテレビ電話を通じてカバーする事にした。試験などは病室でも受けられるから、後は高校の理事長を務める、私の父が準備や用意をしてくれた。
私の父は大手音楽企業の社長でもあり、娘である私が学生である高校の理事長でもある。私の事故や入院をきっかけに、父はしばらく日本に滞在する事にしたと聞いた。そして父はしばらく、理事長としての仕事に力を入れる事にした。
私はクラスメイトや先生達にメールを送り、お見舞いなどはテレビ電話でしようという事に。治太海病院に行くには、県をまたぐ必要があるので、費用も時間もかなりかかってしまう。現代のスマホ機能の発展に、しみじみと感謝した私達。
そして引越しには車椅子専用の車が使われて、父は先に治太海病院に向かい、院長さんに挨拶をする事に。父は病院近くのマンションの一室を借りて、そこでしばらく暮らす事にした。
そして、長かった入院作業がようやく終わり、ようやく私は病室のベッドでのんびりとくつろいでいた。大怪我をした当初は不憫な事が多かったけれど、この治太海病院には看護師さんや設備も多く、今は治療やリハビリに専念できている。
看護師さんの話だと、様々な理由や事情によって、都心の病院で働けない看護師さん達が、地元にあるこの治太海病院にこぞって働きに来ているらしい。都心では暮らせる場所が限られているし、金銭面でも限りがある。その話は、よく私が読んでいる女子高生向け雑誌の上京話でも話題になっている。上京するには相当なお金が必要だと、まるで注意喚起の様に大々的に載っていた。
私は特に上京したいとは思っていないが、クラスメイトの何人かは、将来の上京の為にアルバイトをしている。私の通っている学校では、バイトがある程度許されているので、バイトを掛け持ちしてる子も少なくない。でもバイトが校則で許されていない学校だって珍しくない。
だから看護専門学校で卒業できたとしても、すぐに都心の病院に行ける人は限られている。だからこの治太海病院でコツコツとお金とキャリアを積んで、準備ができたら都心の病院へ就職に行く。そんなプランを考えている看護師さん達も多いそうだ。
他にも、「地元の病院の方が気持ち良く仕事に取り掛かれる」と言っていた看護師さんや、「都心とは違い、プライベートが充実して楽しめる」と言っていた男性ヘルパーさんもいた。私もどちらかと言えば地元の方が好きだ、特に理由があるわけではないのだが、病室の窓から見える青々とした自然の風景を、都心の病院で見る事は不可能かもしれない。
私は昔から自然が大好きなので、怪我の具合が良くなって、車椅子に乗せてもらえるようになったら、最初に中庭を散策したい。あの事故以来、ちゃんと外の空気を吸えない日々が続いて、外が恋しいのだ。私はアウトドアの趣味も結構多いので、それがしばらくできないとなると、だいぶ辛い。
でも私の大怪我は「完治」できる、それまでの辛抱と考えれば、心が軽くなる。私を担当している医師は、このまま順調に外れた骨が修復できれば、外に出られる日もそう遠くはならないらしい。