第一章 喜世姫(きせき)視点 突然変わった日常
その話をしている最中、海外で仕事をしているはずの父が、日本に行く予定を急遽変更して、すぐ日本まで来てくれた。私が大事故に巻き込まれた事を父に連絡してくれたのは、日本に滞在している父の友人。私が病院に運ばれた時、外国にいる父にどうやって連絡していいのか、病院側はだいぶ困っていたらしい。そこで日本に滞在している父の友人に連絡を取ると、すぐに父にも連絡を渡してくれたのだ。
大怪我をしたけれど、時間をかければ完治できる話を聞いた父は、安堵の表情を浮かべながら、何度も私に謝り続ける。しかし私も父の背中を撫でながら、同じく父に対して謝り続けた。
今回の大事故は私の責任ではないけど、私を大切に育ててくれる優しい父を、かなり心配させてしまった。父が心配性である事も私は知ってるから、病院に向かう最中の父は、気が気でならなかったに違いない。
その証拠に、父のYシャツやスーツには汗の匂いや跡が残っていた。父は汗っかきではないし、スーツに汗の跡が残っている事なんて一度もなかった。よっぽど父が慌てていた事が安易に想像できる。
そして父と私が互いに謝り続ける最中、二人のお腹が大きく鳴った。どうやら私は事故に巻き込まれてから丸一日、ずっと眠り続けていたらしい。おかげで私の胃の中は空っぽの状態、父も飲まず食わずで日本まで大急ぎで来てしまったので、病院で私に会ったと同時に、自分がかなり空腹状態だという事にようやく気づいた様子。
食事制限は特にする必要はないと医者は言ってくれた、むしろ今は食べた方がいいと言われたので、私は看護師が持って来てくれた病院食をあっという間に完食する。近くにいた医師や看護師は私の食べっぷりと見て、「大丈夫そうですね」と、小さく笑っていた。
私は元々好き嫌いをしないので、入院未経験者の私でも、すぐに病院食を平らげた。むしろ美味しくて箸が止まらなくて、あっという間に完食してしまった少し恥ずかしかった私。
骨折した腕が利き手ではなかった事も幸いだった。私は生まれつき左利きで、それを知った看護師さんは、「ある意味ラッキーだったね」と笑ってくれた。
その間に父は病院近くにあるレストランで食事を済ませ、再び病院に戻って、二人揃って改めて話を聞く事に。私の体は完治するまでに一年ほどかかるらしく、リハビリの期間も含めて、かなり長期間の入院になる。
けど、今私が入院している病院は癌治療を専門とする病院で、ちゃんとした処置はしてもらえたけれど、リハビリを兼ねた長期入院を考えると、専門的なリハビリや治療ができる病院に映った方が、スムーズに完治する事ができるらしい。だとしても、事故現場付近に私の大怪我の処置をしてもらえる病院があっただけでも、私はとても幸運だったと思う。
改めて私の体の状態を見ても、小さな個人病院では処置しきれないほどの重症状態。少しでも処置が遅れていれば、後遺症が残っていた可能性だって大いに考えられる。医師の話によれば、ちゃんとした治療やリハビリをすれば、以前の様に走り回ったり、料理をする事もできるらしい。その話を聞いた私は、ようやく安心できた気がした。
私を処置した医師が紹介した病院は、今私が入院している病院よりも、更に詳しい検査や治療ができる病院。それは隣県にある治太海病院。そこでもっと詳しく検査を受ければ、治療やリハビリのスケジュールが綿密に組めるそうだ。私も父も迷わなかった、すぐに医師が治太海病院に連絡すると、丁度病室の空き部屋が一つあるらしいので、入院準備に取り掛かった。




