85話 リインカーネル家との決着
「魔法、魔導の研究を何年も続けてきた私に対して、それはあまりにも愚かな選択だと知れ!」
ディア様がそう声を荒げると同時に、その瞳をカッと見開く。
すると、杖からディア様へと流れていた魔力がバチチッ! と一瞬弾けて反転。逆流し、そして――。
「うぐぉっ!?」
ソルベントお父様の持つ杖を粉々に粉砕した。
「貴公が扱う魔力など、漏れ出しているオーラからおおよそ推測できる。ならば事前に電撃系魔法に対する耐性をあげておく抵抗魔力を全身に巡らせるだけでいい」
と、ディア様はさも簡単そうに言ったが、それを恐ろしいまでの速度で施してしまえるのがまさしく魔導卿たるゆえんだ。
「遊びは終わりにさせてもらう」
と、言うと同時にすかさずディア様はソルベントお父様のもとへと駆け寄り、お父様の右の手で口元を押さえつけた。
「ソルベント卿。貴公からの直接的な敵意と攻撃を確かに確認させてもらった。これは言い逃れできないと思え」
「ぐ、く……き、貴様……」
「ソルベント卿。ダリアお母上は私がアルメリアと共に連れて行く。そしてダリアお母上とアルメリアは今後リインカーネル家とは完全に絶縁とさせてもらう。よろしいな?」
「ば、馬鹿なことを。そんな真似、許されるはずがない」
「貴公のやったことの方が許されないと思うが? リードハルト王宮のダルトン宰相に通告すれば貴公は十分に裁かれるぞ」
「私のやったこと、だと? 私が何をした? 私が何を言った? どこにそんな証拠がある? 貴様の虚言などいくらでも……」
「愚か者が。貴公の行動、発言、その全てはすでに記録されている」
「なに……? ま、まさか……」
ソルベントお父様はダリアお母様の方に視線を移す。
ダリアお母様がこくん、と頷いた。
「く。そ、そうだったか。ダリア、お前は私を嵌める為に……」
もう勘付いたようだ。
魔導具の中には希少ながら、その状況や音声を記録するような物が存在することをお父様も知っている。
そしてそれをダリアお母様が所持しているであろうことも理解したようだ。
「……私をどうするつもりだ?」
「私に対する侮辱罪、不敬罪、暴行罪、脅迫罪。様々な罪が数えられるだろう。その証拠はすでに揃っているしな」
「私とダリアとの会話が記録されているならそうだろうな」
ソルベントお父様は憎々しげに呟く。
「そういうことだ。今現在リードハルトという国はダルトン宰相を始めとして生まれ変わろうとしている。ソルベント卿、貴公の極刑は免れないだろうな」
「……く」
「私の言葉ひとつ、裁量ひとつで貴公の生き死にすらも左右されるだろう。だからこそ貴公はこの場で私を制圧しようとしたのだろう?」
ソルベントお父様は何も言い返せずにいる。どうやら本当にこれがチェックメイトのようだ。
「だがソルベント卿。この場で貴公がアルメリアに誠心誠意謝罪し、その証を魔導誓約書へと綴るというのであれば、今回だけ、目を瞑ってやってもいい」
そう言いながらディア様は一枚の紙切れを胸元から取り出した。
「魔導誓約書は魔力を通じてその魂に契約を刻む。貴公も魔導に通じる者として、これがどんな物なのか理解できるだろう?」
魔導誓約書――。
この誓約書はただの書面ではなく、その名の通り魔導技術を利用して作られたもので、これにサインをすると決して破れぬ契約となる。
何故なら魔導誓約書の内容に背いた場合、その者の罰は必ず心臓を破壊し、死をもって償わせるからである。
ディア様からの申し出を断れるはずもなく、ソルベントお父様はついに観念し、誓約書にサインすることを誓った。
「……お父様」
なす術も無くなったのか、ソルベントお父様はディア様に言われるがまま誓約書にサインをしている。
「ふん。サインしたぞ。これで満足かアルメリア?」
「……はい」
「ソルベント卿。それで済むと思っているのか? 私が貴公になんて言ったのか、忘れたのか?」
「……すまなかった、アルメリア、ダリア」
ソルベントお父様は感情を殺して、私たちにそう謝罪した。
私としては内心複雑な心境ではあったが、とにかくこうして私はリインカーネル家とは絶縁となり、ダリアお母様についてもソルベントお父様と完全に離婚の手続きを行なうこととなった――。
私とディア様はダリアお母様を引き連れて、フィンガロン邸へと戻り、そしてことの顛末を皆に説明した。
ちなみにダリアお母様とこんな形で再会することとなったロンベルト兄様だが、なんと驚いたことにロンベルト兄様はダリアお母様へと頭を下げていたのだ。
ダリアお母様はそんな兄様を優しく受け入れていたのは言うまでもない。
それからはしばらくの間は平穏な日々が流れていた、のだが。
「え? またリードハルト王宮に、ですか?」
「うむ。何やらダルトン宰相が私たち夫婦にお願いしたいことがあるとのことだ」
そんな知らせが届き、私はまたかの国へと赴くことになる。




