71話 兄の処遇
――それから。
ロンベルト兄様が絶対安静としてフィンガロン邸に留まることになってから五日が過ぎた。
兄様のせいで色々な報告が後回しになってしまっていたので、今日、とある報告の為にフィンガロン邸の主要な侍女さんや使用人さんたち十数名を大広間であるダイニングルームに集めたのである。
「皆の者、急に呼びだてしてすまない」
「集まってくださってありがとうございます」
皆さんがダイニングの椅子で座る中、私とディア様は並んで挨拶をした。
「もう話には聞いていると思うが先日、アルメリアとリードハルト王国へ訪れた際、かのシオン陛下を断罪し、彼は失脚。リードハルト王家による王政は崩壊し、それによりリードハルト王国はアドミラル王国の属国となった」
おお、と皆さんの声があがる。
「ダルトン宰相の強い要望によりリードハルトとの協定についても再び結び直すことにした。今後はリードハルトとの交流も深まるだろう。それから――」
ダルトン宰相はギレン陛下の時以上にディア様へと忠誠を誓い、今後はもっと密接に関係を深めていく方向で話は決まっていた。
そのほか、リードハルトとの物流等についての取り決めなどもディア様は淡々と説明を続けた。
「――と、まあ、政治的な話はこんな感じだ。それと皆にお願いがある」
ディア様が私の方を見た。
私もこくん、と頷く。
「彼女の兄、ロンベルトという者が今、この屋敷の一室で療養しているのは知っているだろう。彼をこのフィンガロン邸使用人見習いとして雇うことに決めた」
ざわざわ、と侍女さんや使用人さんたちがどよめいた。
「不束な兄ですが、皆様どうかご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます」
様々な異論、反論は当然出たが、私は頭を下げて皆さんにお願いした。
兄にはディア様の魔導具である絶対服従の首輪が付けてある。アレがある限り、ディア様に逆らうような行為は絶対にできない。
首輪にはディア様の練り込んだ特別な魔力が念じられておりその内容は、
『フィンガロン家に連なる者、またはフィンガロン家の従者たちへの暴力は一切行えない』
というもので、ロンベルト兄様がどんなに力でモノを言わそうとしても出来ないのである。
本来、この首輪は奴隷商が扱う魔導具なのだが、それを改造し、犯罪者などの抑制の為に利用できるように改良したものがこれなのだ。
「お言葉ですがアルメリア様。ひとつよろしいですか?」
ケイトリンさんが手を挙げて尋ねてきた。
「あの男はアルメリア様のお兄様とはいえ、私は到底好きになれません。いくらアルメリア様のお願いだとしても、あの男を私たちの仕事仲間にするのは嫌です」
さすがはケイトリンさんだわ。
きっぱりと皆さんの前で言い切ってくれた。
「ええ、ケイトリンさん、気持ちはわかります。私自身もあんな男が兄であることがいまだに嫌ですから。だからこそ、私は彼に……ロンベルト兄様に罰を与えたいのです」
「罰を……ですか?」
「はい。兄様はプライドの塊のような人です。ですから彼にとって、使用人という仕事に就くことは、きっと死よりも屈辱的なはずです。だから、思い知らせたいのです」
「なるほど。使われる者の立場をわからせて、辱めてやりたい、というわけですね?」
「いえ、少し違います。私は兄様にも使用人の方々のお仕事の大変さ、立派さをわかってもらいたいのです」
「アルメリア様……」
「私の兄は傲慢で、ほとんどの人間を自分より下に見ています。そういう考え方を根本的に見直して欲しい。自分を見つめ直してほしいのです」
「……そういうことですか。ふむ」
「ケイトリンさん、勘違いさせちゃったらごめんなさい。私は決してあなたがたを下に見たり、使われて当たり前、などとは思っておりません。口だけでは信じてもらえないかもしれませんが……」
「ふふ、大丈夫ですよアルメリア様。この屋敷にいる人間で、ディアブルス様を筆頭にあなた様のことをそのように浅はかに思う者などいません。というかいたら、アルメリア様専属の侍女であるこの私が殴ります」
ケイトリンさんの言葉に、皆さんがうんうんと頷いてくださってる。
「そうですよアルメリア様!」
「アルメリア様はディアブルス様と並んで敬愛する主人ですから!」
「使用人一同、アルメリア様が大好きですからご安心を!」
ルチスカさんやシルベスタさん、それに多くの皆さんが声を揃えてそんな風に言ってくださる。
「……ありがとうケイトリンさん。皆さん。私なんかのことをそんな風に言ってくださって。これも全部ディア様のおかげです」
「アルメリア、それは違う。キミ自身が素晴らしい人間だからこそ、我がフィンガロン家の者たちが皆、キミについて来てくれたのだ」
ディア様からも優しい笑みと共にそんな風に言われた。
私は本当に、なんて幸せ者なんだろう。
皆、大好き。
フィンガロン邸にいる皆様は本当の家族よりも、暖かいわ。
「わかりました、アルメリア様。ではあのゴミ屑二号……こほん。もとい、ロンベルト様の世話係はいかが致しますか?」
「それはケイトリンさん、あなたに決めてもらいたいわ」
「私が?」
「ええ。あなたなら的確に兄様をうまく使える方を選出できると思うの」
「……ふむ」
「どうかしら?」
「わかりました、少し考えさせてください」
「ありがとう、よろしくお願いね」
こうしてロンベルト兄様は私たちの住むフィンガロン邸で共に過ごすことになった。
とはいえあんな兄だ。しばらくは彼の今後の行動について私も注意を払わなければ。




