70話 ロンベルト兄様への処罰
「……で、揃いも揃ってなんだ?」
私とディア様、それにシルベスタさんとケイトリンさん、更にはアグナス様も一緒に、客室のベッドで寝かされているロンベルト兄様のもとへとやってきた。
兄様がディア様に敗れてから二日後の夜。
ようやく目を覚ましたロンベルト兄様の様子を見る為に、こうして全員で集まったのだが。
「あ? 揃いも揃ってなんだってなんだ? テメェ様は相変わらず立場をわかってないゴミ屑ですね? ぶっ殺されてぇんですか?」
「ケイトリン、はしたないですよ。しかしロンベルト様。先日話した通りそのような態度はあまり芳しくはありませんねえ」
ケイトリンさんは聞いたこともないような輩の口調で終始ロンベルト兄様を威嚇しているし、シルベスタさんですら、何か妙な圧をかけている。
一体この二人には兄様と何があったのかしら。
「ロンベルト。貴公に聞きたいことがあって訪れた」
ディア様が真剣な表情でロンベルト兄様にそう話しかける。
私はその様子をただ黙って見つめていた。
「……なんだ」
「単刀直入に聞く。リインカーネル家は我がフィンガロンに何を望んでいるのだ?」
「そんなもの、決まっている。貴様の地位も名誉も能力も、その全てだ」
「その全てを手に入れて、何が望みなのだ?」
「さあ。そんなことは知らん。父上の考えることなど俺には理解できん」
「ふむ。では貴公の父ではなく、貴公の意見を聞きたい。貴公個人はまだ私を屈服させたいか?」
「……っふ。そんな気持ちは毛頭なくなった。貴様のような化け物に敵うはずがないからな」
「ほう?」
「見た目だけでなく、まさかその実力すらも悪魔じみているとはな。恐れ入ったぞ。さすがは悪魔卿と呼ばれているだけはある」
「あんなもの、実力のほんの一部にも満たないがな」
「く、くく。そうだとしたらいよいよ貴様は本当の悪魔だ。もしや、魔力が昂りすぎたそのせいで悪魔のようなツラになってしまったんじゃないのか? くかかかッ!」
ロンベルト兄様がまたいつもの嫌味を言い始めてしまった。
「おいテメェ、さっきからディアブルス様のことを悪魔悪魔って、ふざけてんじゃねぇですよこのゴミ屑二号がよぉ! やっぱり私がこの場でぶっ殺してやりますよ!」
「ストップストップ。止まりなさいケイトリン。気持ちはわかりますし、私も今すぐこの場でロンベルト様の舌を引っ張り出して、ハサミで切り刻んで差し上げたいのを必死に我慢しているのですよ」
「ロンベルト、キミも騎士の端くれなら素直に敗北を認められないのか!」
ケイトリンさんもシルベスタさんも、アグナス様もはっきり兄様に対して怒りを剥き出しにしている。
けれど。
「おーおー! 悪魔卿の身内は全員、悪魔に魅入られているようだなあ!? 悪魔には魅了の魔法もあるのだろうなあ!? そうであろう、悪魔きょ」
パシンッ!
と、ついに手を出してしまったのは私である。
「いい加減にして、ロンベルト兄様。あなたには人の心がないのですか!?」
我慢の限界だった。
「アルメリア、貴様……。兄に向かって」
パシンッ!
と、更に私は追撃で兄様を叩く。
「あなたのことなんて兄などと思いたくありません!」
「……っち。だったらいちいち口を出すな。何もできない愚図が」
「口は出します! あなたみたいな愚かな者でも、兄なのですから!」
「……なに?」
「あなたなんて大っ嫌いです。昔はあなたが怖くて何も言えなかった。けれど今は違う。私は本当の自分の気持ちに素直になるって決めたの。我慢して言いたいことを言わないのはもうやめたんです! ロンベルト兄様、だから私はこれ以上言われるのなら、反論もお説教も繰り返します!」
「……く、くく。そうかそうか。悪魔卿という強い強い旦那がいるものな。そりゃ強気になれるか。今までは言われたい放題だったのになあ」
「私のことをなんと言おうと構いません。私が怒っているのはディア様を、ディアブルス様に対するあなたの無礼な物言いに対して怒っているのです!」
本当に許せなかった。
ディア様のことを何も知らない兄が、ディア様を一方的に悪魔呼ばわりして、馬鹿にして。
「ディア様ほど心がお優しく、誰よりも強く、そして慈愛に満ちたお方はいません。私はそんな彼を心から愛しています。自分の大切な者を馬鹿にされて怒らない人がいますか!?」
「……ふん。だったら俺を処刑するがいい。俺は貴様の大切な男を侮辱したのだからな」
「それもしません! そんな愚かな行為をして、なんになるというの!? あなたを殺して誰が喜ぶの!? ロンベルト兄様には死なんて生温い選択肢は与えません!」
「な、なんだと?」
気づけば私はまた涙を流していた。
この涙は、何に対する怒りなんだろう。
悲しみ、なのだろうか。よくはわからない。
ただ、とにかく悔しくて悲しくて、堪らないのだ。
「あなたにはディア様の言うことをきく以外の選択肢は与えません! あなたはこれからずっと、一生ディア様の配下として、働いてもらいます!」
「なんだ、それは……」
「誰がなんと言おうと、あなたにはディア様に従ってもらいます! 例えソルベントお父様が恐ろしくても!」
「……アルメリア貴様、わかっているのか?」
「ええ、十分すぎるほどに。ソルベントお父様が如何に恐ろしい人か、そしてあなたが如何にお父様を恐れているかを!」
「……っち」
「私のことを臆病だの愚図だの煽ってきた割には、ロンベルト兄様の方がずっと臆病で卑怯者です。ソルベントお父様が怖くて自分の言いたいことも言えないような兄様の方がずっと!」
「貴様は何も知らないからそんなことが言えるのだ。俺がこのままおめおめとリインカーネルに帰ればどうなるかわからないからそんな軽口が……」
「そんなことわかりません! けれどだからと言って兄様をここで処刑するようなこともしません! あなたにはここでしっかりと傷を癒してもらい、そしてフィンガロン家の使用人として働きなさい!」
「なん……だと……?」
「もう決めたのです。ディア様にも先ほどお話してあります」
「ふ、ふざけるな。そんなことするはずがない。俺が回復したら俺はまた……」
「私を攫うつもりですか? そんなことはできません」
私は初めからこうするつもりでいた。
「な、何をするアルメリア!?」
「動けない兄様など怖くはありません」
私は抵抗できないロンベルト兄様の首に、とある魔導具を取り付けた。
「それはディア様のお作りになられた魔導具、服従の輪です。それがある限り、兄様はもうディア様に逆らうことはできません」
「なんだこれは!? ふざけるな!」
「それはこちらのセリフです。あなたにはここで、ずっとディア様の下僕として働いてもらいます。それが私からのあなたへの罰です」




