68話 恐ろしい従者たち【ロンベルト視点】
「う、ぐ……こ、ここは……?」
見知らぬ天井を見て、俺は目を覚ます。
俺は何故こんなところで寝ているのか。
「くそ、前後の記憶が曖昧だ……」
「目覚めましたか、ゴミ屑二号」
「な、なんだと? 誰だ貴様は!?」
声のした方に視線を移すと、ふざけた物言いをしてきた女が椅子で腕を組んでふんぞり返っていた。
「私があなたの探していたケイトリンです」
「そうか、お前があの……。こんなところで何をしている?」
「あなたの手当てしてやっていたのですよ。アルメリア様とディアブルス様に頼まれて仕方なくです。死ぬほど感謝しなさい」
「手当て、だと? ……っうぐ!」
身体を起こそうとすると全身のあらゆる箇所に激痛が走った。
よくよく見ると身体中あちこちに包帯や塗り薬が塗布された跡がある。
俺は何故こんな大怪我をしている?
「死にたくなければまだ動かないことです。とはいえ私が適切に治療してやりましたから死ぬことはないでしょう。本当なら死んでくだされば手間が省けたんですけれどね」
「く……生意気な女だな。というか何故俺はこんなことに……」
「まーだ思い出せないんですか。あなたはディアブルス様に喧嘩を売って、秒で返り討ちにされたんですよ。あれだけ啖呵を切っておいて、ボッコボコにされたのですよ」
「そ、そういえば……」
朧げに思い出し始めてきた。
そうだった。俺はあの男、悪魔卿に打ちのめされて……。
「はっきり言って超ださいです。あなたみたいな力しか取り柄がない人間がその力でもディアブルス様に敵わなくて、おまけに白目剥いて泡吹いて、くそ情けなくぐったりしていたのですから。だっさ。超だっさ。ださゴミ屑」
「う、うるさいぞ貴様ぁ! あ、痛ァッ!」
「馬鹿なくそださ屑男。動いたらまた傷が開きますよ。まあ勝手に開いて出血多量で死んでくれると実に喜ばしいのですけれどね」
「ぐぐ……な、なんという礼儀も品もない女だ……」
「それはお互い様です。ゴミ屑二号」
「さっきからそれはなんなんだ!?」
「あなたの末の妹ぎみのサ、なんとかさんがゴミ屑一号だったのであなたが二号なだけです。ゴミはゴミらしく辺境地で大人しくしていればよかったものの、何故こんなところまでやってきたのか。しかもボコボコにされる為に。ほんと、リインカーネル家はアルメリア様とダリアお母ぎみ以外はクソ馬鹿しかいないのですね」
「ぶ、無礼な……失礼だぞ貴様! さっきから黙って聞いていれば」
「ぁあ? うるせーのはテメェだよ。馬鹿が」
口の悪い女が突然俺の胸ぐらを掴み上げて、眉間にシワを寄せながら更に口調を粗暴にしてきた。
「テメェみたいなゴミ貴族がいやがるからアルメリア様もディアブルス様も気苦労が絶えねぇんだよ。あ? わかんねーのか、屑が。次に我がフィンガロンに仇なすことをしてみろ。私が直々にテメェをぶっ殺してやる」
この女、完全に目がすわっている……ッ!
いつもなら自慢の腕力でこんな生意気な女など屈服させてやるのだが、生憎今は本当に全身が動かない。
「おーおー、睨んでいやがりますねえ。私を殴りたいですか? でもできないですよねえ? 馬鹿がよぉ、テメェみたいな奴の手当てなんかしなきゃ良かったですよ、クソがよぉ、ぁあ!?」
くそ。この女、本気でぶっ飛ばしてやりたいが、身体が言うことをきかん。
「う、ぐ……」
「おい屑。足りねぇ脳みそ使ってよーく考えてみやがれです。テメェごときがどうしてディアブルス様に敵うと思ったんですか?」
「あんなのは悪魔卿が何か卑怯な手を使ったからで……うぐぇ!?」
俺がそう言うと、この女は更に俺の胸ぐらを締め上げてきた。
「卑怯な手? ってなんですか? 魔力を使うことがですか? あなたも使っていたのに? そもそも卑怯なのはあなたがたですよ? 理解できます? できるわけねぇよなあ!? テメェらリインカーネル家は揃いも揃ってクソしかいねぇからなぁ!? ぉお!? 違うんかゴルァ!?」
「うぐぐ、く、くるし……」
まずい、今の弱った身体ではこの女の締め上げでも窒息しそうだ。
「苦しい? あははは! 命乞いですか!? せっかく助けてあげましたけれど、ここで間違ってぶっ殺しちゃってもいいですかね!? テメェ様は全然反省している様子もないようですしねぇ!?」
「……っあが……ッウ」
「ほーれ、なんとか言ってみやがれってんですよ。この馬鹿がよぉ! なーんにもできねぇんですか? 悔しくないんですかぁ!? あっはははッ!!」
ガクンガクンと揺さぶれているうちに、俺は気付けば再び意識が朦朧とし始めた。
「あれ……本当に意識なくなっちゃいましたね。まあ、いっか」
というセリフが耳に届くと同時に俺はまた意識を失った。
それから次に俺が目覚めたのは二日後のことだった。
次に目覚めた時は、あの暴力女ではなく、物腰の柔らかそうな初老の男だった。
「おや、ようやくお目覚めですかな」
シルベスタ、と名乗ったその男はどうやらここの家令らしく、今の状況と俺の身に起きたことを説明してくれた。
「――というわけで、あなたはここで治療されていたわけです。それにしてもディアブルス様にあれだけ痛めつけられてよく生きておりましたね」
「……くそ」
「まだ身体はしばらく動かないでしょう。無理はなさらずに。あなたは絶対安静なのですから」
「……あの暴力的な女はどうした」
「ケイトリンはあなたの看護から外しました。あなたを本気で殺しかねなかったので」
確かにあの女は頭がイカれてやがった。
このおっさんは終始笑顔で落ち着いているし、それなりにまともで助かった。
「まあ気持ちは私も同じですがね。あなたがたリインカーネルの家の者は無礼が過ぎます。ディアブルス様とアルメリア様の許可が降りるなら、私もあなたに可能な限りのありとあらゆる苦痛を与えた末に、ゆっくりと生皮を剥ぎながら、じわじわとなぶり殺して差し上げたいところでございます」
……前言撤回だ。このおっさんもだいぶやばいな。
「というわけで、あなた様の生殺与奪は常に私どもにあるわけです。そこでロンベルト様、ひとつ条件があるのですが、聞いていただけます?」




