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67話 悪魔の子に関する最終報告書【ソルベント視点】

『最終調査報告書・まとめ』


 ディアブルス・フィンガロンという男について。


 魔導の扱いに長けていたこの男は、実はフィンガロン家の順当な血筋の者ではなく、フィンガロン家はサタニード侯爵の代でその血は途絶えている。


 子宝に恵まれなかったサタニードと妻のエルフィーナは、エルデロン公国で起きていた内乱鎮圧の時、戦場にて置き去りにされていた赤ん坊を拾っている。


 それがディアブルス・フィンガロンだという噂である。


 サタニードたちの行動について密かに調査を続けると、どうやらディアブルスには幼くして類い稀なる魔力を保持していることがわかったが、そのあまりに異質すぎる魔力は人間のものとは思えないとサタニード夫妻ですら思ったそうだ。


 女神リザリアの力を強く反映した子を聖女と呼ぶように、魔神ルシフェルの力を強く持った子が存在していてもおかしなことではないと、私は推測した。


 ディアブルスは悪魔の化身ではないのだろうか。


 ディアブルスは幼いころより、どうも倫理観に大きな問題が見られたらしく、物事の善悪の判断基準が人とは大きく異なっていたようだ。


 例えば普通の子供であるならば5歳ともなれば、生き物を殺すのは悪いこと、人を助けるのは良いこと、といった程度の判断くらいはつく。


 しかしディアブルスにはそれが当てはまらなく、端的に言えば彼は生き物を殺害することになんの抵抗も示さなかった。


 昆虫、小動物、魔獣、魔物。


 様々な生き物を実験と称しては殺害していたらしい。

 当然サタニード夫妻がきつく注意をするとディアブルスはこう答えたそうだ。


「これは世界の一部なので分解してもこの大地に巡り廻るだけであり、なんら問題はない」


 意味はわからなかったが、サタニードとエルフィーナはこの子供に畏怖を覚えた。

 とはいえディアブルスはそれ以上の生き物、つまり家畜や人間に手を出すことはしなかった。

 それだけが救いだと安堵していたサタニードだったが、ある日それは何故かと尋ねてみた。


 するとこう答えた。


「大きな家畜や人の魂の場合は器が大きいので、安易に分解すべきではない。人の分解には大きなリスクが付き纏う」


 ディアブルスは生き物を殺すことを「分解」と呼び、決して殺すとは言わなかった。


 奇妙な子供ではあったが、それでもサタニードたちに多少は懐いてはいたようで、ディアブルスは問題行動を起こしながらもフィンガロン家での生活を続けた。


 しかしこの子供をこのまま自分たちの息子として育ててもいいものか、と夫妻はたいそう悩んだ。

 そんなある日のこと。


 ディアブルスは6歳の誕生日の日に、自らを実験にかけた。


 フィンガロン邸の屋上から突然身を投げたのである。

 正確には彼は自殺をしたのではなく、飛行魔法の実験だったらしいが、それは失敗に終わり運悪く頭を強打し、ひと月近く生死の境目を彷徨った。


 治療と介護の甲斐あってディアブルスは一命を取り留めたが、それからは突然すっかり人が変わってしまった。


 多少奥手ではあるものの、普通の子供のようになったのである。


 サタニード夫妻にもどうしてこうなったかはわからなかったらしいが、ディアブルスがとても良い子になったので過去のことには目を瞑り、彼をフィンガロン家の跡取りとしてきちんと育てることにした。


 それから10年弱。

 ディアブルスは両親の愛をしっかりと授かり育てられた。

 そんな折、サタニードたちは再び駆り出されてしまったエルデロン公国での内乱にて、戦火に巻き込まれ死亡したと通知を受ける。


 侯爵の爵位を父から受け継いだのはディアブルスが15歳の頃。

 両親の死を嘆いた彼は幾度かエルデロン公国へと赴いているが、特にそこで何かをしたという記録は見つからなかった。


 その更に数年後のこと。


 フィンガロン邸から送られた令嬢が、エルデロン公国のドノヴァンという男爵家に拉致された。

 その令嬢が殺されたことによりディアブルスは激怒し、ドノヴァンとその関係者、そして領地までも火の海に変えたが、この事件は公にされず闇に葬られている。


 その時、ディアブルスを見た者は彼のことを「悪魔の生まれ変わりのようだった」と話している。


「――か、ふむ。やはりあの男は尋常ならざる男のようだな」


 私は密かに依頼しておいた調査書を読みながら、ごくりとワインを飲み干した。


 今現在、ディアブルス魔導卿は世界でも屈指の優れた魔導師として有名だが、それだけに留まらず今回のリードハルト現王政の崩壊のせいで、更に知名度をあげている。


 今頃ロンベルトが、私の授けた策を講じて奮闘しているだろうが生憎あの馬鹿のことだ。どうせ失敗するだろう。


 あの悪魔をなんとしてでも我が手中に収めなければならない。


「送っておいて正解だったな。悪魔を操る為にはアルメリアを操る必要性がある。そしてアルメリアを操るなら……」


 私は数日前にリードハルト修道院へと使者を出しておいた。

 おそらくロンベルトは失敗し、その時あの悪魔卿は私を完全に敵視するはずだ。


 そうなった時の保険を抱えておかねばならない。


「帰ってきてもらおうか。ダリアに」



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