4話 これで全てうまく行った【シオン視点】
「ふう、ようやくこれで肩の荷が降りたな」
私は元妻であったアルメリアの国外追放の処分をくだし、彼女が馬車にて、かの悪魔卿の地へと送られてゆく様子を王宮の三階、自室の窓辺から見下ろして呟いた。
「まったく、ほとほと勘の鈍い馬鹿で愚かな女で助かった」
アルメリアに全ての罪をなすりつけ、ついでにあの悪魔卿からの要望に対し問題なく応えるには、これがベストの選択と言えた。
「まあ殿下。愚かな、はあんまりですわ。アルメリア様のおかげで全ての憂いは解消され、あなた様も予定通り無事王位を継承し、そしてわたくしもこの栄えあるリードハルト王国の王妃になれるのですから」
私の後ろのベッド上でネグリジェを少しはだけさせた格好でそう言ったのは私の新たな婚約者である、聖女ロゼッタである。
「そうだなロゼッタ。おかげで私も愛するキミとこうして結ばれることが叶ったのだから」
「ええ。それにしてもシオン殿下には本当に驚かされましたわ。まさかあなた様に公国で愛を囁かれたあの時には、こうなるだなんて想像もつきませんでしたもの」
隣国、エルデロン公国の内乱鎮圧の為に私と父のギレン陛下は数ヶ月前、彼の地に赴いた。
その戦地のキャンプ場で、医療班として戦争に参加していたロゼッタと偶然出会った。
基本的に私は騎士団たちへの作戦、行動指示をしており戦場に直接出向くことはなかったのでロゼッタと語らう機会が多くなっていた。
「キミがあまりにも美しく、情熱的な女性だったからだよ」
ロゼッタを一目見た時から私の心は瞬時に奪われた。そして私はすぐに彼女を正妻に迎えようと思った。
アルメリアは元から使い捨ての駒だったからなんの問題もなかったのである。
「まさかこの騒乱に乗じてギレン陛下を戦死させ、その責を全てアルメリア様に押し付けてしまうだなんて」
「別に誰でも良かったんだ。王宮の執務がそれなりにできる女ならね。アルメリアは自己犠牲を美徳と考える女だったからまさに今回の私の作戦にはうってつけだったよ」
私は昔より、実の父でありこの国の王であるギレン陛下が死ぬほど大嫌いだった。
父は強情で傲慢で堅苦しい凝り固まった考えを持つ、いわゆる老害だった。私は王太子ではあるものの、父からは常に「今のままではお前から王位継承権を剥奪する」とまで脅されていた。
私の何が気に入らなかったのか、父が亡くなった今となってはわからない。
そんなことをされる前に私は父を亡き者にしなくてはと考えた。
私こそがこのリードハルト王国をまとめるに相応しいのだ。
「ギレン陛下を亡き者にする為の作戦。わたくしと殿下がこのリードハルト王国に戻ったあと、殿下の直属の騎士が偽の伝令を送ったフリをする」
「ああ。偽の伝令が記された書簡は全て私が処分。そうすることでアルメリアの連絡不備を装った」
「その後、その騎士が陛下を始末する。今考えても殿下の作戦はお見事ですわね」
「こうするしかなかったのだ。私が王位を継がなければこの国は衰退する一方だったからね」
「でもよくそのことを全てわたくしには打ち明けてくださいましたわよね?」
「キミは本当に私のタイプなんだ。それに私の妻となるものは美しさだけでなく高い魔力を備えていることが望ましいからね」
「アルメリア様は魔力に乏しかったですものね」
「ああ。それにそもそもあんな根暗で野暮ったい髪色の女は好きじゃないんだ」
本音を言えば顔はまあまあ良かったので、一度くらい抱いてやっても良かったのだが、あの女は結婚するまではしないと頑なだったし、結婚後は私が忙しくなってしまったから、一度も彼女を抱くことはできなかった。
「なんにせよ、もうじきシオン殿下の戴冠式ですわ。わたくしは精一杯殿下をお支えいたしますわね」
「キミはもう十分支えてくれているよ。こうして私の要求を嫌な顔ひとつせず受け入れてくれるし」
「あら、殿下。嬉しいですわ」
そう言って私はまた彼女を抱いた。
全てうまく行った。完璧だ。
もはや私の邪魔をするものはなくなった。
――この日まではそう思っていたはずなのに。




