40話 サフィリアの処分
サフィリアたちがフィンガロン邸に来て、一晩たった翌朝の出来事。
私はディアブルス様に呼び出されて彼の書斎へと向かうと、そこにはサフィリアとアグナス様がいた。
そしてディアブルス様はいつもの仮面を付けたまま、こう言った。
「来たなアルメリア、そこに腰掛けてくれ。今から少しキミの妹ぎみに対して尋問を始める。キミも思うところがあるなら遠慮なく口を挟んでくれて構わない」
「は、はい」
「さて、サフィリア・リインカーネル。お前のことはこのアグナスから色々聞いている。なんでも随分な無礼をアルメリアに働いたらしいな?」
「ち、違うわよ! 私は!」
「サフィリア嬢。ディアブルス卿はキミよりも遥か格上のお方だよ。言葉使いには気をつけなね?」
アグナス様が真剣な表情で彼女にそう諭す。
「ぐ……ち、違います。私はただ妹としてお姉様に注意すべきことを言っただけです」
「そうか。では町中でアルメリアに対し能無し、と蔑んでいたと聞くがこれも姉を想っての注意なのか?」
一昨日のアドミラルの町中での会話内容をケイトリンさんとアグナス様がディアブルス様に報告したのね。
「そ、そうですわ! アルメリアお姉様には才能が乏しいから、もっと頑張って欲しいという願いを込めた鼓舞ですのよ!」
「なるほど。だがそれにしても不出来な血はいらないだの、いなくなって初めて役に立っただのという発言は行き過ぎだと思うが?」
「それは、そ、その……」
「更にはアルメリアに対し不細工だ、などと容姿をも侮辱する発言も見受けられたそうだが、それは?」
「そ、それは……あ、あれですわよ! アルメリアお姉様にもっと女らしくなれっていう助言っていうか……私みたいに多少は身なりも気にしろっていう意味で!」
「そうか、わかった。なら私の主観を述べさせてもらおう。アルメリアはとても美しく魅力的だ。少なくとも夫である私は、彼女のことを絶世の美女であると断ずるに些かの躊躇も憂いも迷いもないほどにな」
「な、なんでそこまでこんなアルメリアお姉様のことなんかを……」
「こんな? サフィリア・リインカーネル。お前の言う『こんな』という言葉は形容動詞だ。それに続く意味は肯定文にも否定文にも続けられる。そこで尋ねる。お前の言うアルメリアに対する『こんな』という言葉にはどういった文が続くのか? 明確に答えよ」
「け、けいよ……? ど、どういう意味ですの?」
「ふう。こんな素晴らしいアルメリア、なのか。こんな愚かなアルメリア、なのか。どちらなのだと聞いているのだ」
「そ、そんなの……! だ、だいたい悪魔……あ、いえ、ディアブルス卿はおかしいですわ! 何故お姉様をそんなに贔屓目に見ているのです!?」
「私だけではない。ここにいるアグナス、それにアドミラル城下町の領主でもあるマイルトン伯爵もアルメリアの器量の良さと立ち居振る舞い、そしてその才能を褒め称えている。ゆえに、私のみの意見ではないということだ」
「な、何よそれ!? アグナス様も頭がおかしいのではなくて!? 普通なら私のような令嬢の方が全てにおいて優れていると判断されますわよ!?」
「安心するがいい。私もアグナスも、間違ってもお前のような見た目も頭の出来も悪すぎる女を選ぶことは断じてない」
「なっ……なっ……ッ!」
サフィリアは顔を真っ赤にしてふるふると小刻みに震えて怒りを露わにしている。
それにしてもディアブルス様、今日はどうしたのかしら。いつもは何があっても冷静で落ち着いているのに、今日は妙に語気が強いし言葉がきつい気がするわ。
「聞け、サフィリア・リインカーネル。アルメリアはもはや我が妻であり、リインカーネルの名は捨てている。彼女を侮辱する言葉はこの私を侮辱する以上に看過できん。もし今後、アルメリアを蔑むような言葉を彼女にぶつけ、彼女を傷つけるようなことがあるならば、私は私の持てる力の全てを使ってでもお前やお前たちを許しはしないだろう」
「……う、うう」
「それでも構わないというのであれば、反論を述べよ」
「う……く、ぐ……」
「異論、反論がないのであれば、この場にてすぐさまアルメリアに働いた無礼について深く謝罪せよ。できぬなら反抗の意思ありとみなし、お前たちリインカーネル家に対して様々な手段を使って報復させてもらう」
「そ、そんな……ど、どうして侯爵様がそこまで……?」
「そのくらい私にとってアルメリアは大切な存在だということだ。さあ、選ぶがいい。素直に自分の非を認め謝罪をするのか。あくまで自分の言葉は曲げずに、リインカーネル家ごと我がフィンガロン家と敵対するのかを」
「わ、私はディアブルス卿と敵対したいわけではありません!」
「だったら答えはひとつであろう? これ以上はもはや何も言わん」
ディアブルス様はギロリとサフィリアを睨みつけて、腕を組み、椅子の背もたれに寄りかかって見せた。
サフィリアが私の方を見る。
今すぐにでも怒りと屈辱で泣き出しそうな顔をしている。
しかし――。




