26話 本音は【ディアブルス視点】
アグナスのやつ、いつもなら軽く返事をして引き受けるのに、今日はなんだか変な感じだったな。
「それにしてもアルメリアを女性として、か」
誰もいなくなったアドミラル城下町の別荘内、応接室で私はひとり呟く。
「っふ、アグナスめ。全く、馬鹿なことを」
そんなことは当然決まっている。
私はとっくにアルメリアのことが好きだ。
仕事熱心な彼女と仕事の話をしている彼女を見ているだけで、心が高鳴っている自分がいるのも知っている。
本音を打ち明けてしまえば、私はアルメリアをひと目見たあの日から、彼女に強く惹かれていた。
フィンガロン山道の雪の中で倒れていた彼女を助けた出したあの日。
儚げな彼女を見て、すでに心を奪われていた。
こんな感情はただの気の迷いだろうと思い、彼女にはいつものように多少無茶な要望でもある契約書類を渡した。
あの契約書類を読むことは普通、困難であることはこの私も理解している。だが、我が屋敷に着けば、必ずどんな者もまずは手に取る。
私の狙いはそれだけで十分だった。
何故ならあの契約書類には私の特別な魔力を込められているからだ。
それは、その者の性格分析を行えるという魔法で、手に取った者がどういった感情や感性を抱いているのかを読み込む。
あまり書類を読み込まない者であったとしても、それはどうしてそういう感情になったのかを自動的に分析する。
私はディアブルス邸に来た者たちにその書類を手に取ってもらい、そしてのちほど回収して魔法の分析結果を抽出する。
これは別に卑しい狙いがあるのではない。
その者の性格診断を行なったのち、その者に相応しい業務、役割を与えてあげる為だ。
「だからこそ、本当に驚かされた。私のあの書類を本当に余すことなく読み切り、本質を理解し、更にそれに対する回答も私の理想とするそのままであったのだから」
私は彼女を手放すわけにはいかない、と思った。
しかし同時にそれが自身に対する言い訳であることも薄々勘づいていたりもした。
私は彼女を妻にしたいと、私がすでに心から思っていたからだ。
「……誰に言うわけでもないが、仮にアルメリアに執務の才がなかったとしても、私は彼女を妻にしたと思う」
何故、どうして、私が彼女に惹かれたのか?
ずっとわからなかった答え。それは先ほどのアグナスがあっさりと教えてくれた。
『明確な説明なんて必要ない。その相手が好きなのか、嫌いなのか。ただそれだけなんだよ』
アグナス、お前の言う通りだ。
私は単純にアルメリアが好きなのだ。
彼女の行動全てを愛おしく感じている。
これが恋というものであるのなら、私は彼女に恋しているのだ。
だが、そんな感情を周りに知られるわけにはいかない。それでアルメリアが困ってしまうかもしれないからだ。
だから私はこの想いを胸に秘めたままにしておくつもりだ。
「失礼します。ディアブルス様」
私がそんな風に考え事をしていると、シルベスタがやってきた。
「そろそろフィンガロン邸に戻る時間です」
「ああ、わかった」
「ところで先ほど、アグナス様が見えられていたようですが、何かご依頼を?」
「うむ。アルメリアたちの護衛をな」
「ああ、なるほど。しかし大丈夫なのですか?」
「何がだ?」
「アグナス様は女癖が悪いでしょう? 以前もケイトリンさんがディアブルス様に被害を訴えておりませんでしたっけ?」
「そうだな。だが奴も馬鹿ではない。私の妻であるアルメリアにまで手は出さんだろう」
「わかりませんよ。アグナス様は女性のお気持ちを掴み取るのが非常にお上手な方ですから。ケイトリンさんだけではないですか? アグナス様に惹かれなかったのは」
「まあ……そうだな。アグナスはなんだかんだ我がフィンガロン邸の女性たちからの人気は高いな」
「アルメリア様がご心配では?」
「何を馬鹿な。そんなことあるはずがない」
「ディアブルス様は本当に人が良すぎます。アルメリア様がアグナス様の好みの女性かもしれませんよ? そんなことではいつか裏切られるやもしれませんぞ」
「万が一そうなったら私の不徳の致すところだ。反省しよう」
「……はあ。あなた様というお人は」
シルベスタは呆れていたが、私はアグナスがそのような奴だとは微塵にも思っていない。
奴は私が唯一友と呼べる男だ。
いくらアルメリアが奴の好みであったとしても、まさかそんな馬鹿なことをするはずがない。
まさか、な。




