17話 面倒臭い女【ケイトリン視点】
「え? 私がですか?」
「そうだ、ケイトリン・フレグマン。キミには明日から私専属の侍女をやってもらいたい」
――およそ今より一年ほど前。
私がリードハルト王国からディアブルス・フィンガロン邸に送られてきてから二週間後のこと。
ディアブルス様の執務室に呼び出され、私はそう命じられた。
「何故、私なんかが……」
「キミは周囲、周辺の異常に気付きやすく、おまけに物怖じしない性格だ。私の顔を見ても恐怖するようなこともなかったし、その度胸と冷静さ、他総合的に見てキミは私の身の回りの世話をしてもらうのが適任だと考えた」
「本当に私なんかがディアブルス様のお役に立てるのでしょうか?」
「なんか、と自分を卑下するような言葉は私は好まない。キミには素晴らしい才能がある」
「私に才能なんか、ありません」
「その強気な性格こそ才能だ。私の身の回りの世話をお願いしつつ、私に何か不備や至らない点があれば指摘して欲しい。頼めないだろうか」
「ディアブルス様がそこまで仰るなら……」
「助かる。では明日から頼むぞ」
私はそれからディアブルス様専属の侍女となった。
表面には出さなかったが凄く嬉しかった。
私がリードハルトからこの屋敷に送られたのも、この性格のせいで王宮内で煙たがられ、追い出された。
こんな性格だから私に言い寄るような男もおらず、私も男なんかに興味はなかった。
『ケイトリンったらまた言い返してる。面倒臭い女ね』
そんな陰口は慣れっこだった。
私は曲がったことや理不尽な行為に合わせるのが苦痛で、王宮でも反発ばかりしていたら、悪魔卿と名高いこの屋敷に送られたわけだ。
どこに送られようと私は自分を変えない。
そう思っていたが。
「……私がディアブルス様の専属侍女に」
私は変えられてしまった。
悪魔卿と名高いディアブルス様はその噂とは大違いで、恐ろしいほどの人格者だった。
それだけではなく、私の内面すらも見透かすようにいつも語りかけてくださる。
私はいつの間にかディアブルス様に恋をしていたと気づいた。
こんな性格だから自分からディアブルス様のパートナーになりたいなどと言えるはずもなく、この気持ちは心の奥底に封じ込めようと思っていたが、そんな矢先に専属侍女を命じられてしまった。
「これはチャンスよね」
私はディアブルス様とお近づきになって、彼の信頼をもっと勝ち取って、それでいつかは彼を振り向かせたいと願った。
そうして一年近くの日々が過ぎたある日。
「え? な、何故ですか? 私はクビですか?」
「違うケイトリン。キミはこれまで実によくやってくれた。だからこそ、信頼と信用の深いキミにアルメリアを見てもらいたいのだ」
突然、私の恋路は破れた。
ディアブルス様はリードハルト王国から送られてきたアルメリアという令嬢と突然ご結婚され、そして私はその女性の侍女になれと命じられた。
はっきり言って愕然したし、嫉妬もした。
なんでこんな女なんかの――。
「ねえ、ケイトリンさん、あなたは凄いわ」
「はい?」
「だってあなたが掃除した場所って本当にチリひとつ残っていないもの。とても隅々まで意識がまわるのね」
「侍女として当然です」
「当然かどうかわからないけれど、私にはきっと真似できないわ。だってあの書架の隙間にすら僅かな埃もないもの。ティーカップの縁についた僅かな汚れひとつすらも残さないしね」
アルメリアという女はわざとなのか、ディアブルス様と同じような着眼点があった。
そしてディアブルス様と同じく、常に他者の良いところばかりを探そうとしてくる。
数日間彼女の侍女をやって、わかった。
彼女の執務能力も去ることながら、ディアブルス様はこの人柄の本質も見抜いて伴侶にしたのだ。
だから統合的に見て、私はディアブルス様への想いを引っ込めた。
彼女こそがディアブルス様には相応しい。
だが、別にそれは彼女の全てを認めたわけではない。
だから私は――。
「それに比べて私なんて大した能力なんかないわ。ケイトリンさんの方がよっぽど凄いもの」
「アルメリア様はもっとご自覚なさってください。あなたの執務能力がどれだけディアブルス様の助けになっているかを」
「そうかしら……」
「そう思わないのならご勝手になさってください。それはつまりディアブルス様の信頼を裏切る行為に等しいのですから」
「ご、ごめんなさい」
だから私は彼女をこうやって修正しながら支えてやろうと思った。
アルメリア様はディアブルス様が選んだ女性だ。
私は祝福すると共に、彼女をディアブルス様に相応しくあるべき奥様へと導くのが私の役目。
だから私はあえてめんどくさい奴だと思われる役回りをしよう。
私は元々、面倒臭い女と言われてきたのだから。




